化け物の独白全て覚えている。意識を得たあの日のことも。人間を食べた日のことも。今まで殺した人間の顔も。人間を初めて殺して食べたときに非常に不快な気分になったことを覚えている。

…初めて口に入れた真っ赤な血肉は美味だった。そう感じた自分に吐き気がした。

動揺が走りサッと血の気が引く。自分が行った事柄と記憶のケートスが混ざり重なる。ノイズやブレが酷い記憶が自身の行動とのすり合わせでピタリとピントが合う。真っ青になった心はやがてじわりと赤く染め上がる。

…黙れ、黙れ、黙れ！俺はケートスなんかじゃない！吐き気なぞしていない！感じたことなど何も無い！何も無い！何も無いのだ！

烈火のように荒れ狂う。合致した記憶と行動をもろとも焼き払わんと猛り狂う。そしてフッと風が吹いたかと思えば蝋燭の火のように静まり返る。

…人間を殺したことも、ああ、そうだ、普通のことだ。俺は人間じゃない。人間が自分より下の動物を殺すように俺も自分より劣る人間を殺しただけだ。疑うことなど何も無い。ケートスだから殺したんじゃない。自然の摂理に則っただけだ。優れているから弱いやつから奪った。ただそれだけ。

ポツポツと言い聞かす。歪な形に押し込める。

…俺は壊すことを楽しんでなんかいない。食して美味なら気分も高揚するだろう。美味なら食しもするだろう。俺は人間じゃない、ケートスでもない、人間を食べることが嗜好の一つの星座だ。そう、それだけ。

ふとした時に思い出す不快な記憶をできる限り忘れていられるように、歪に整えようとした感性を思考パターンを直すことがないように、歪な器を変える可能性があるものには目を向けない。考えない。そんなものは自分には存在しないのだと。

自分を強く保つために。信頼関係はいらない、親愛友愛も持ってない、誰も信じない、持たなければ、失うことは無い、弱くなることは無いのだから。