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    akuta595966

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    akuta595966

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    酷い神経性の致死的病に罹ったブランドンと父である彼の終末期を見舞うエマの話

    停滞一度だけ父のお見舞いに行ったことがあった。
    それまでは「会いに来るな」と手紙で懇願していた彼が最早自分の最期を悟り、いつでも会いに来ていいと医師に連絡するよう言ったことがきっかけだった。
    その頃には彼は、文字すら書けなくなっていた。
    私は父に拾われた孤児だ。孤児院で受けていた虐待に耐えかねて逃げてきた先が、彼の家だったのがきっかけだった。
    着飾ることも、遊ぶこともなかった彼はただ孤児だった私を引き取った責任を果たす為だけに生きているように見えた。
    粗野で弊衣破帽。まさにその通りの人のように周りの人は思っただろう。
    日々野山を駆け回り、動物を仕留める猟師として生計を立てていた彼の味方はあまりにも少なかった。ハーリガという種族の事もあったのだろうし、その無口な性格も誤解を生んだに違いない。
    種族故の差別を受け続けても、過去に受けたという酷い仕打ちを悪夢に見ても、その苦悩を周囲に明かそうとはしなかった。
    そんな強い父も、病には勝てなかった。
    ハーリガを含めた獣人にだけ発病する致死性の病気に罹ったのだと知らされたのは、目眩で倒れて病院に入院した3日目の事だった。
    1年は保たないでしょう。
    父に語る医師の目は、第三者としての冷たさに満ちて必死に感情を押し殺す父とは対照的だった。

    「お父さん」
    私は父に呼びかけた。返事はない。
    狂騒期を過ぎた父の病状は日々悪化しているようだった。
    病室の壁や床には正気を必死に保とうとしてなのか、病による激しい頭痛を紛らわそうとしたのか、頭を打ちつけた血の跡が残っている。破裂したように飛び散り、流れ落ち、彼の体毛によって引きずられて擦れている跡が大きく残った壁。
    自傷の跡はもちろん父の体にもハッキリと残っている。
    頭を打ちつけた為か右の角に大きいヒビが入っているし、顔の至る所の体毛が引き抜かれて未だに血が滲む地肌が見えている。
    「毛を毟った時に皮膚が一部千切れたり引っ掻いたりで出血しましてね」
    医師は汗が滲む額を、ハンカチでそっと拭う。
    不意に父の体が軽く震えた。
    どうしたのかと顔を覗き込むとぼんやりと虚ろに開かれたままの目が、ゆっくりと、しかし止まることなく忙しなくぎょろぎょろと動いている。半開きの顎が硬直し、上下が強く噛み合ってはその力に反抗するように開いてガチガチと音を立てる。それと共に強張った手が何処ともなく、赦しを乞うように天にゆっくりと突き上げられる。その手すらもビクビクと強く震え始める。
    「あの、先生。父の様子が」
    医師に言った瞬間、父の体が跳ね上がった。
    「痙攣発作か。娘さんは外に」
    医師によって外に出された直後、ドアの向こうからは絞り出すような父の苦しげな叫び声が聞こえてきた。
    どうして。
    膝から力が抜け、座り込んだ。冷えた手は手のひらに汗が滲み、何故かひどく震えている。
    どうして。
    そんな疑問だけが頭をぐるぐる巡っている。
    どうして。どうして。
    じわじわと目が熱くなり、涙が溢れる。胸が締め付けられるような痛みに勝手に喉から呻き声が漏れていた。
    どうしてお父さんが苦しまなきゃいけないの。
    ようやく浮かんだ明確な疑問には、答えがなかった。あるわけがない。病気になったことに因果などがあるはずもない。
    私はただ、父が1日も早く静かに眠れる事だけを願った。
    弱々しい叫びから意識を逸らしたくて私は耳を塞いだ。
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