ふたりぼっち戦線それは空から落ちてきた
多分自分くらいの歳の男(?)の子
キラキラと発光する銀色の髪とチラチラと星が瞬くブルートパーズ色の瞳
「înger…?」
思わず口をついた言葉にその綺麗な生き物は僕をみつめた
「いて…て…お前も落っこちたのか?」
これは多分『日本語』
「…」
「…?だいじょうぶ?こわくないよ?」
「…um…にほんご?」
「お前がいじんなの?」
「…かぞくに、日本生まれ…います」
御母様の国の言葉でお話ししたら喜んでくれるだろうと御父様とお勉強したけど、実際に使うのは初めてだし咄嗟の出来事故か緊張してなんか変な言い回しになってしまった気がする…
ネイティブに対して文法メチャクチャなのが至極恥ずかしくて死にそうだけど、目の前のこの子は気にならなかったみたいで少し安心した
「ハーフなの?!すげぇ!」
「??なにが?」
「…わかんない…」
「…」
あぁ、あまり頭良くないんだな…この『人の子』
「…まぁいいや、ここ、いっしょだっしゅつしようぜ!」
「ひ…っ!!」
無遠慮に掴まれその体温の熱さに驚いて
砂になってしまった
「っ…っ…ご、ごめんなさい…ごめ…ひっく…」
「こちらこそ…驚かせてしまってごめんなさい」
それは…驚くよね…普通は引っ張ったくらいで生き物は砂にならないもの
でも、これでバレちゃったな『吸血鬼』だって…
あぁ…きっとニンニクや杭を持った大人の人間を沢山連れてこられる
嫌だなぁ…本当に死なないとは思うけど、怖い想いをするのは忘れられなくなりそう…私記憶力も良いから…
御父様早く助けに来ないかな…ていうかまた見当違いのとこ探してるんじゃないの、あの人…?
「…っく…だいじょうぶ?」
「こっちのセリフ…ふふ」
鼻水と涙でぐちゃぐちゃに汚しながら心配をしてくる『人の子』の顔がなぜか面白くって笑ってしまった
「そんなに泣いたら、目がとけてしまうよ」
シャツの胸元を引っ張って顔を拭こうとする手をそっといさめて、ポケットから出したハンカチーフで涙を拭ってあげる
体は大きいけれどもしかしたら私よりも子供かもしれない
「ありがと」
にっこりと
蕩けるように微笑んだ『人の子』の顔にビックリして本日二度めの死を迎えた
「ヴぁぁあぁああ~~~!!!!」
うるさい、その声でまた死んじゃったらどうするの
「おちついた?」
「…うん」
「『吸血鬼』初めてみたの?」
「ううん…でも、話したのはじめてだと思う」
「そう…私も、『人間』とお話し、初めて」
睫毛が長くて月光を受けたそれがまろい頬に影を落とす
今日は満月で、夜目の利く吸血鬼からしてみれば総てがキラキラと輝いて見える
その中でもいっそう輝いて見える空色の瞳が眩しくて無意識に目を眇めてしまった
「君、顔、すごいね」
「う?なんかついてる?」
「いや…そうじゃなくて…」
美しいをもっと軽い言葉で伝えようとしたら可笑しな言い回しになってしまった
「え…と…チャーミングだよ」
「なんかそれ、かわいいってヤツじゃね?」
「うん、うん、それそれ」
「かわいいは…なんかやだ」
「そうなの?」
「カッコいいがいい…」
「ふぅん」
私はかわいい、かわいいって言われるの好きだけど、人の子は違ったのかしら?
かわいいって蔑称なのかな?
【中略】
「はい、お前も腹減ったろ?はんぶんこ」
「…うん…」
ポリ…
「あ…」
「うわぁ!!!!」
「…ごめん」
足が砂ってしまった
「ど、毒??!?!うちから持ってきたヤツだから毒とか入ってないよ?!」
「おちついて…これは…体質だから」
「お前本当に生きててだいじょうぶ?????」
私もそう思う
「弱くて…普段は牛乳とか…血を……」
「ち」
「あ…」
「そっか吸血鬼だもんな」
「ごめん…いや、私、まだ吸血とか…」
「ん、かんでいいぞ」
「は??」
「いつここ出られるかわかんねぇし、おなかすくとなんかおなか気持ちわるくなるし、お前弱っちいから守ってやんないと」
「まもる…」
「すぐ死ぬじゃん」
「…怖くないの?」
「なんで?もう、ともだちじゃん」
「…」
「もー!!死ぬなよ!!」
涙目でそれでも最初よりは取り乱さずそっと砂を寄せ集めてくれた
ねえ、ともだち…
人と吸血鬼ってともだちになれるんだね
「なんかバッチイ…」
「シャツで拭いたぞ」
それ、鼻水と涙でぐちゃぐちゃで無事なとこわずかなシャツだよね…
「君は、地面に落ちたキャンディを食べられるの?」
「3秒以内ならだいじょうぶ!」
「…あきれた…なにそれ」
「3秒ルール!!」
「ふふ」
「ほら」
「そうじゃなくてね、私が噛んだあと、悪い菌とか入ったら、君が病気になるかもしれないから」
「!」
「?!」
「優しいなお前!」
「う、うん…」
「オレ強いからだいじょうぶだぞ!」
「……暴れないでね」
そっと取った手に舌を這わせる
「っ」
くすぐったそうに緊張した手は、それでも振り払われずなんとか形ばかりの『消毒』を受け入れてくれた