ダッチアプリコットパイ「オメー、コーヒー淹れんのマジ上手いよな」
しみじみとポップは呟いた。ふくよかで芳醇な香りが鼻腔を満たし、自然と落ち着いた心持ちにさせる。こんな繊細な特技があるとは意外なもんだ、と目の前の顔を改めて見遣った。
「ああ、ラーハルトが拘っていてな。教えてくれたんだ」
「へぇ~…あいつが自分の好みをね~…」
煎れた当人のヒュンケルは微笑みと共に返した。この姉弟子と魔族の血を引く戦士は、最近一つ屋根の下で同居を始めたと聞く。ポップはとうとうこの堅物な姉貴分にも春が到来したかと、ニヤつきながら含みのある言葉を呟いた。
――が、その想像はあっさり裏切られることになる。
「あいつは信頼のおける親友(とも)だ。感謝してもしきれん」
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