Rosegarden 勘違いしていた。自分に、執着心などないと。
と、ヒュンケルは思う。
「この前話しただろ、やっと咲いたんだ。自信作だから――」
興奮気味に言うと、ラーハルトはあくび混じりに、
「また今度な」
今日も忙しい、と言い捨てて、いつものように出勤していった。
ラーハルトの主君であるバランの息子、希望の勇者ダイが帰ってきてから。
彼はずっとこんな調子だ。
――仕方ないだろう、生きていくための仕事は要る。
などど言い訳しているが、勿論「ダイ様」のためだ。
分かっている。ラーハルトの邪魔はしたくない。
けれど。
「今は俺の方が稼いでるぞ、結構」
ぶつくさ呟きながら、秘密の薔薇園へと向かう。
たわむれに魔界から持ち帰ったその枝は、伝説的希少種だった。
しらみつぶしに文献を漁り、ようやく開花に漕ぎつけた。
一本の薔薇から交配を繰り返し、色とりどりの楽園と化したヒュンケルの庭には、マニア垂涎の花々が咲き誇る。
今や、全世界の富豪と王族が待機リストに名を連ねる花農家だ。
『作品』をひとつひとつ吟味したのち、ヒュンケルはくだんの新作に顔を寄せる。
まるで太陽のよう。ラーハルトの瞳のよう。
照りのある黄金色は、世界中の園芸ファンの憧れだ。
ようやく完成したと言うのに。
ラーハルトは彼の趣味を邪魔しないが、大した興味も示さない。
唇を尖らせながら、ヒュンケルは内省する。
よくよく考えれば、自分はいつも独り占めしてきた。
父も、アバンも。
……ミストも。
全ての視線は、異端の子ヒュンケルだけに向けられていた。
自分に注がれる関心と愛情と憎悪とを、欲しいままにしてきたのだ。
ラーハルトは似ているようで、決定的に違う。
彼は甘やかされてこなかった。ヒュンケルのみじめな渇望など、きっと一生理解してくれないだろう。
だから。
「俺だけを見ろ」
笑ってしまうような愚かな願いを、黄金の薔薇に吐露する。
「見て、くれないか。頼むから」
小さな、情けない問い。
薔薇は笑ってくれなかった。
かわりに、硬直した視線を寄越した。
氷のように冷たい。
ああ。
「そうだな」
と、ヒュンケルは苦笑する。
――昔は、俺だけを見てくれたのに。
かつてはたった一本だった花が、創造主を見上げて文句を言う。
――こんなに増やして。
――お前の愛は、どこに行った。
――俺には、お前しかいなかったのに。
「悪かったよ」
ヒュンケルは微笑して、ビロードみたいな花弁を撫ぜる。
素手のまま、ぶちりと手折った。