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    アイム

    @miniAyimu

    黒髪の美少年と左利きAB型イケメンお兄さんに弱い。

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    アイム

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    雰囲気の暗い鶴獅子。by2015年。

    ##鶴獅子

    拝啓、じっちゃん。
    お元気ですか。俺は少し元気です。
    この間、今の主から人間は死んだら天国か地獄に行くのだと教えてもらいました。だからじっちゃんは天国にいるんだと俺は思っています。
    そっちは楽しいですか。淋しくないですか。俺がいなくて淋しいといいな、と俺は願っています。

    どうして突然こんな手紙を書き始めたのかというと、なんと俺は先日、鶴丸国永という同じ刀の一人から、愛の告白を受けました。
    鶴丸は他人を驚かせることが好きな人で、今まで何度もからかわれて遊ばれたことがあったから、だから俺はいつもの冗談だと思ったんだけど、どうやら冗談ではなくて本当だったらしい。
    あれは真夜中のことで、俺がふと目を覚ましたら隣の布団で寝ているはずの鶴丸が起きていて、眠れないと言うので、気分転換に少し散歩に誘って外へ出たら、その時に言われました。
    鶴丸は、夏の風みたいな爽やかで軽やかな声をしていて、俺はそれをすごく気に入っているんだけど、この時は初めて聞く抑揚の無い声で『獅子王は、ずるい』と俺に言いました。

    実は、俺は誰かからじっちゃんのことを聞かれるのがどうしても嫌なので、俺も誰かに前の主の話を聞こうとは思わない。
    その分俺は、あんなにもたくさん仲間がいるっていうのに、きっと心の底から仲良くすることは出来ないんだろうと考えています。
    全員に平等に話しかけることも笑いかけることも出来るけれど、本心からそれを望んでいるかというと、そういうわけじゃないんだ。
    だから鶴丸の話もきちんと聞いたことはなかったんだけど、鶴丸からそう言われて最初に思い出したことは、鶴丸はたくさんの主のところを転々としていた、っていうこと。
    本人から直接ではなく人伝に聞いたことだけれど、俺が最初にそれを知った時、もし俺がじっちゃんを亡くした後に他の人のところを転々としていたら、それは嫌だなって思った。
    いろんな人に使ってもらうことも考えようによっては良いことなのかもしれないけど、俺を使ってくれたのはじっちゃんだけだから、上手く想像が出来なくて、余計に、嫌だと思いました。
    だから、もしかしたら、鶴丸も嫌だったのかもしれない。
    そんなことは嫌だったから、あの人は、俺のことが嫌いなのかもしれない。

    あの人はたぶん、俺を憎んでいるのだと思います。
    愛の告白といっても、好きだも愛してるも無く、じっちゃんが俺を掲げて言うような『いい刀だ』という褒め言葉の一つもありませんでした。
    俺が鶴丸からもらったのは、『獅子王は、ずるい』という一言だけ。

    たった一言だったけど、俺はそれが鶴丸国永の全部なんだと思いました。
    そこには悪意とか拒絶とか軽蔑とか、そういうものがたくさん込められていて、嫉妬なんて言葉すら生易しくて、一番わかりやすい言葉を選ぶなら、あれは憎悪だった。
    俺はそれまでずっと、鶴丸は優しくて楽しくて少しお茶目が過ぎる人なんだと思っていたけれど、そういうのは全部間違っていて、むしろ俺はあの人の本質などまったく理解していなかった。
    俺は鶴丸のことを本当には知らなかった、これが鶴丸の正しい姿なんだと、その時ようやく気付いたんだ。
    ずるいだなんて。あんたはそんな目で俺のことを見ていたのか。
    そう思ったけど、不思議と、鶴丸のことを恐いとは思いませんでした。
    もしもあれが鶴丸の本心であるのなら、あのたった一言は鶴丸国永という男を形成する全てで、そこまで壮大なものを俺にぶつけてくるなら、俺には、それが鶴丸からの愛の言葉に聞こえてしょうがなかった。

    いやもしかしたら、俺が勝手に、そうであればいいなと思っていたのかもしれない。
    何しろその時、俺は少しだけじっちゃんのことが頭から抜け落ちて、鶴丸のことだけを考えてしまっていたから。
    鶴丸にそう言われて、俺の頭と胸をいっぱいに埋めてしまったものは一体何だったのか俺にはよくわからなかったんだけど、でも例えば、じっちゃんがすごく疲れている時や哀しくて泣いている時に、じっちゃんの顔を暗くするそういうものを遠ざけたいとか、そういう人たちから守りたいと俺が望むことを、愛しいと呼ぶのなら、あの時あの瞬間の俺は、鶴丸国永のことだけが愛しかった。

    だから俺は、『折ってやろうか』と返事をしました。
    今すぐ、俺が、お前を、折ってやろうか。
    だってじっちゃん、俺は、貴方が死んだ時に、一緒に折って欲しかった。刀として殺して欲しかった。死にたかった。
    どうして俺は、俺と鶴丸は、こんなところで生きているんだろう。

    俺は『獅子王』で、今の主から、誇らしいこの名前を象徴するような、獅子の鬣によく似た金の髪や、小柄だけどしなやかに動く体や、格好いい服をもらったけど、だけど俺は『獅子王』だから、貴方の刀であれば、それでよかった。それで充分だったんだ。
    また使われることは嬉しい、飾られることも悪くない。だけど、俺は貴方のための刀だ。貴方がここにいなければ、俺には何一つ意味が無い。

    俺は今とても鶴丸のことが愛しくて、逆に、人の形を手に入れて思考するということを覚えたのに、じっちゃんのことを思い出そうとすると、日に日に靄がかかったように薄れていくんだ。
    でもきっと、俺は貴方を手離すことなど出来ないのだと思います。
    俺は貴方のためにいるのだから。今も。

    俺は鶴丸に返事をした後、どうしても我慢できなくて、泣きました。
    鶴丸を愛してあげたいのに、俺にはじっちゃんがいるからそれはどうしても出来なくてなんだか悔しかったし、同時に、じっちゃんがいなくても頑張ろうと思ったのに、じっちゃんに折って欲しかったことを思い出させた鶴丸が憎くてたまらなかった。

    そんな俺を、鶴丸は『馬鹿だなあ』と笑いました。
    その笑い方はいつもの、からからと軽い調子で、その上いつもしてくれるように、鶴丸は俺を抱き締めてくれました。
    鶴丸のために外に出て来たのに、いつの間にか俺の方が泣いていて、鶴丸に慰められてしまった。
    よしよしと背を叩く手はやっぱり優しかったし、温かくてどうしようもなかった。

    話はそれで終わりです。
    そんなことがあってからも、鶴丸とは仲良くやっています。
    相変わらず色々いたずらされて驚かされているけど、最近は、誰かを驚かせようって計画を手伝ってくれとも言われます。
    それは共犯者って言うんだ、って主から怒られたけど、これはこれで、なかなか楽しい。
    なかなか楽しいから、やっぱり鶴丸は、優しくて楽しくて変な人なんだと思う。
    こういう人だけど、でも結構いい人でもあるから、あんまり心配しないでください。
    じっちゃんも、元気に楽しく過ごしてください。

    といっても、この手紙がじっちゃんに届くことは無いんだけど。



    敬具、獅子王。貴方の刀より。

    追伸。
    じっちゃん、いつになったら、この世界は終わりますか?
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