足首足首に惹かれる。ソファに横たわって投げ出されている足の、末端。裾と靴下のどちらにも覆われていないそれに、佐野はいつも心臓が止まるような、この世の音が全て奪われてしまうような、そんな衝撃を受けるのだ。平静を取り戻すためにこくりと唾をのむのは、トンネル内に入った電車での感覚とよく似ている。一度瞳を閉じて、ほうと息をついた。変態じみている、と思う。自分はそんな変なフェチズムなどは持っていないはずなのだが。頬に手のひらを打ち付ければ、非難するようにぱちぱちと乾いた音が鳴る。断じてそんな嗜好はない。ないのだ。
「……」
誰にするでもない言い訳を心中で続けながら、彼の足に触れる。中途半端に隠れているからいけないのだ。別に佐野だって剥き出しになっていたらそれほどまでに気にはならない、はずである。否、そもそも別に足首にそこまで関心を抱いたことなどこの男以外にはなかったのだが。やりきれないもやもやとした感覚を追いやるようにして靴下を引っこ抜き、その裾を捲る。性急なその動きは睡眠中の脳の許容範囲を超えていたのか、弛緩していた体にわずかに力が灯るのがわかった。
「……はよございます」
「ん、おはよ」
「なにしてんすか」
「わかんない」
悪びれもせずに応えながら、剥いだ靴下を丁寧に畳んでポンと置く。いや、返してくださいよ。呆れ切った声をあげながらズボンの皺を伸ばしている様子をじっと見ていた。踝というのは、何とも機械染みている。関節の中でもそこだけが際立って露骨に、挙動範囲を広げるための構造をしている。なんだかそう思うと急に生彩を欠くような気がして、佐野は一人気落ちした。いや、もともとの不埒な感情など、失われてしまったほうが良いのだろうけれど。
「さっきから足ばっか見てますね。面白いすか、俺の足は」
「全然。つまんないよ、しゅーさんの足」
「ひどぉ」
そんな見といてそれはないでしょ、と笑う。そして志筑はせっかく綺麗に畳んだ靴下を、容赦なく広げて履き直した。無駄なことをしている。無為なことばかりしている。機械染みたその体で、不用意に塗れている。倒錯的だ、と思った。ふっと手を伸ばしてその肌に触れる。滑らかでもなんでもない、よくない手触りが指先に伝わるのがおかしかった。真顔で揉みこむように足首を撫ぜている佐野をさすがに不気味に思ったのか、志筑がその足を引っ込めようと身じろぐ。いよいよ怪訝な顔をして、なんなんすか、と逃げ腰になる彼に、佐野は上手く言葉を制御できなかった。
「しゅーさんの、足首がね。好きだなって」
「えぇそれは……それはキショいすね……」
「しゅーさんだけだから安心して」
「より一層きしょいですよ」
「なんなん」
自分の手の甲よりもずっと白さが映えて見える。当たり前だ。そこは日に当たることなど滅多にないのだから。太陽にも、人の目にも晒されることのない場所なのだ。それが、自分の目の前で無意識に露になっている。もっと見えづらいところではなく誰にでも届きそうで、それでいて決して目に入らない場所。それがたまらないのだろうなと佐野は他人事みたく思った。結局動機は違えどそういった嗜好の一種には違いないのである。普通のおっさんの足首ですけどねぇ、とちらりとその裾を擡げて見せる。その動作が気に入らなくて、普通のおっさんそのものが好きな時点でもう手遅れだよ、と少し強めに言い返した。