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    dentyuyade

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    dentyuyade

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    性癖交換会で書いたやつ短編のやつです。割とお気に入り。

    星になる、海に還る輝く人工色、眠らない町。人々はただただそこで足音を鳴らす。唾液を飛ばす。下品に笑う。息を、止める。その中で自分はただ、誰かの呼吸を殺して、己の時間が止まるのを待っている。勝手なものだと、誰かが笑ったような気がした。腹の底がむかむかとして、思わず担いでいたそれの腕を、ずるりと落としてしまう。ごめん、と小さく呟いていた。醜いネオンの届かない路地裏の影を、誰かが一等濃くする。月の光を浴びたその瞳が、美しく光る。猫みたいでもあり蛇みたいでもあるその虹彩の中で、自分がただ一人つまらなさそうな顔をしていた。
    「まーた死体処理か趣味悪いな」
    「あー……ないけど、趣味では」
    「いや流石にわかっとるわ」
    「あ、そう?」
    歪む。彼の光の中にいる自分の顔が、強く歪んでいる。不気味だと思った。いつだって彼の中にいる自分はあんまりにも人間なのだ。普通の顔をしているのは、気色が悪い。おかしくあるべきなのだと思う。そうでなければ他人を屠って生きている理屈が通らない。小さく息をついて、目の前のその死体を担ぎなおす。手伝ってやろうか、と何でもないように語る彼に、おねがい、と頼む声は、どうしようもなく甘い。


    「死んだらさ、なりたい?」
    「何に」
    「なんか、なんでもいいけど」
    明るいだけの町では、星は見えない。変な話だと思う。星々のほうがずっと大きくて、ずっとエネルギーを消費してその身を光らせているのに、人間が後から生み出したささやかな光が少し集まるだけで、簡単に隠されてしまう。この町で生まれ育った自分は、星を片手で数えられるほどしか見た記憶がない。死んだ人間が星になるというのなら、きっとこの町の星空は限りなく満天で美しいはずだった。現実はただただ、ギラギラと光る人工物の下で、死体を捌いているだけだけれど。空をぼうっと見つめて目を凝らしていると、さらにその光が刺すような痛みを伴うものへと変わる。星は嫌かもなぁ、と隣から微妙な声が聞こえた。
    「なんで」
    「なんか、自由なさそうやし。おもんないやろ、星やってても」
    「そう? でも綺麗じゃん、星」
    「綺麗なだけじゃなんもならんことくらい、お前が一番よく知ってるやろ」
    「え」
    少し時間をかけてようやく、彼が自分の容姿のことを言っているのだと分かった。自分の姿形を整っていると評する人間がいるということを、なんとなく勘付いたのはいつ頃だったろうか。もうずっと言われ続けているはずなのに、改めて彼の口からそんなことを言われると、なんだか変な気分だった。彼の瞳に映る自分は、いつだってひどく歪んでいるはずなのに。なんもならんの、綺麗なだけじゃ。そう尋ねてみたのに、深い意味はない。それでも彼はひどく気まずそうな、申し訳なさそうな顔をして言葉を迷うから、なんだかこちらも悪いことをした気分になってしまった。
    「そらなんかなったら……お前はこんなとこ、おらへんやろ」
    「おらんの、俺」
    「おらんな、お前は」
    「ふうん」
    「まあ……来世に期待やな」
    どこまでも穏やかな言葉だった。来世、と小さく呟く。死んだら星になるのは、来世ということになるのだろうか。次の生が星なら、それはすさまじい恒久に身を投じるということだ。生きているのか死んでいるのかもわからない、自由も面白くもなさそうな、そんな永遠。案外悪くはないのかもしれないと思う。つまらない世界で、変わらないまま終わりを見るのは、きっと今と大して変わらない。来世かぁ、ともう一度口にした。終わるんだ、と思う。
    「次は、なんやろうなぁ」
    「なれるよ、なんにでも」
    「なれへんやろ」
    「いけるよ」
    「むっせきにんなやつ」
    くすくすと笑う。子供みたいな顔で、人間みたいな顔で。自分がしていたらあんなにおぞましいその表情が、彼がしているだけで美しく見える。無責任と彼は言うけれど、別にそんなつもりはなかった。本当になれると思っていた。どれだけ生まれ変わってもきっと、彼は彼のままにあるのだと、その瞳を見ていると思う。星の美しさは、どれだけ時間が経ったって損なわれないのと同じで。白い喉仏が揺れる。俺は、と何かが吐き出されるのを、ぼんやりと見ていた。
    「俺は、海になりたいなぁ」
    「うみ?」
    「そう」
    「おもんないじゃん。海も」
    「でも、どこへでも行けるから」
    腕だった何かをトランクへ放り込んで、それからため息をついた。どこか遠くを思うような素振りが、少し面白くなくて、むきになる。
    「行けないの、今は」
    「行けへんよ、今は」
    「行きたい場所、あるの」
    「そうやなぁ」
    もっとたくさんの星が見たいな。星を模した輝きがいくつもいくつも絶えず光る町に向かって、彼は手を伸ばした。そうやって眩しくなればなるほどに、本物は遠ざかっていくのが、醜いと思った。みたいよ、俺だって。そう無意識に呟いている。見れるよ、お前は。そう影に住む男は笑ってくれた。欲しいのは、それじゃないのに。
    「言ってよ。見に行こうって」
    「冗談。そんなこと言っても、なんにもならん」
    「なるよ」
    「無理やって」
    拒絶するような物言いに耐えかねて、その手を掴み上げた。なんて顔するんだ、と思った。そんな傷ついたような面、してほしいわけじゃなかったのに。彼の瞳は伏せられて、自分の表情が見えなくなる。同じような顔をしているつもりだけれど、きっと上手くいってないのだろう。自分は、気持ちが悪いから。彼のように綺麗じゃないから。やめろや、と強く腕を跳ね付けられる。予行練習だろうか。きっと、本気を出せば、彼はもっと。
    「じゃあ、海になって」
    「なれたらな」
    「なってよ。星になるから、俺も」
    「そらさぞかし綺麗な星になるやろなぁ」
    終わるのだと思う。多分自分の人生はもうすぐ終わって、そうしてあるかもわからない来世をそこに見る。星になれたらいい。誰よりも、どんなネオンよりも光よりも目立つ、何よりも綺麗な星に。世界中を抱え込む海から見てもなお、一等光る星。そうしたらまた、彼と一緒にいられる。お互いに手を伸ばしても届かない場所で、何も変わらないことをただただ抱え続けながら、笑いあえる。そうしていつか、海に飲まれる。
    「会える? あと、二回」
    「二回てなんやねん」
    「わかるでしょ、あと一回は確実なの」
    「……黙秘権を行使します」
    きまり悪そうに彼は手を挙げた。なんだかおかしかった。自分も同じようにして手を挙げてみる。馬鹿みたいだ。たくさんの屍の上で、まともな顔をして踊る。普通の人間みたいに、歌う。
    「うん。……行使された」
    「素直でよろしい」
    「素直だよ、いつだって俺は」
    「どうやろうな」
    「素直じゃないのは、いつだってそっち」
    その頬に触れて、そっと自分のほうへと顔を上げさせた。透き通る瞳がすっと、たくさんのハイライトを映す。何よりも綺麗だと思った。綺麗だと思ったから、じっと見つめた。それだけで彼は泣きそうな顔をする。それだけで、彼の中に映っていた自分がまた、揺らいで歪む。会いに来てくれたのは。そう言葉を紡いだ。会いに来てくれたのは、ほんとに俺に、会いたかったから。そう、小首を傾げてやろうと思ったのに、それを遮るようにして彼は「そうやよ」と声を荒げる。
    「会いたかったから。これが、最後のチャンスやと思ったから」
    「ダメなんじゃん、やっぱ」
    「そうやよ。ダメやよ。二回目は……二回目は、ないよ」
    「……そっかあ」
    じゃあ、来世に期待ってことで。そんなことを暗闇に向かって投げてみる。誓うにしてはずっと心許ない相手だ。いくら夜にはすべてを支配しているからと言って、結局朝になれば全て剥がれ落ちて、醜い街をただただ明るく照らす太陽を許してしまう。夜は弱い。だから、夜に生きる自分たちは幸せになれない。早く、星になりたいと思った。星になればきっと、ずっと夜に住んでいられる。ずっと、輝いていられる。日の下で見る薄汚い蛍光灯みたいにならなくて済む。
    「ちゃんと海にしてくれや」
    「そっちこそ、ちゃんと俺を星にしてね」
    何よりも綺麗な星になってみせるから。だからどうせやるなら躊躇なくいってほしい。多分俺を殺すのはお前だよ、と口にはせず微笑みに返す。それだけでは伝わらないだろうけれど、予行練習のつもりだった。空を見上げる。何もない暗い天には、自分が殺し回った星々が多分、見えないだけで輝いている。恨みも憎しみも口に出せずに、ただただ微笑んでいる。美しいことだ。聞こえないよ、と言ってやった。きっと、すぐに聞こえるようになるけれど。


    この世の何よりも綺麗な面の男だと思った。こんな腐った光ですらスポットライトにしてしまうような、強烈な引力が彼の周りに働いていた。ネオンに、蛍光灯に、その髪が照らされてきらきらと輝いているのを見るたびに、それを惜しいと思う。太陽だけが、この男を焼いていいのだと感じた。見たい、と思った。日の光に彼の柔く白い肌が光を返すのも、その大ぶりな瞳の奥に眠る瞳孔がきゅうと縮むのも、明るい世界で彼が笑むのも。
    「ねえ。……生きてる?」
    うすぼんやりとした視界で彼を映したあの日を、未だにありありと思い出せるのだから呆れたものだ。しくじった内容も、自分に制裁を加えてきた相手の顔も全くもって覚えていないのに、その平均よりほんの少しだけ高くて掠れている声色が、自分だけに向けられていたその音が、未だに耳に残っていた。残していた、きっと。あんまりにも大切すぎて。自分はあの時、迎えに来たんか、と問うた。違うよ、と言った彼は笑っていただろうか。
    「そんな大層なものじゃないから、俺」
    「……大層な面やろ、お前のは」
    「何、大層な面って」
    あの時、ゴミ捨て場に躊躇なく座ってくる仕草に声を上げようとしたのだ、たしか。自分はとっくにその汚れの中に身を投じていたのに、あんまりにもそれが清廉な存在に見えたから。結局は、同じ穴の狢だったわけだけれども。
    「天使だと思った? この顔で」
    「……まあ」
    「ごめん、違うくて」
    どちらかと言えば、人でなしとかのほうかも。そう傷だらけの自分に向かって彼は言ったのだ。治療してくれるでもなく、助けてくれるわけでもなく、ただただ普通に話をしようとする姿勢だった。人でなし、と譫言のように問い返す。それは意味が理解できなかったわけではなく、なんとなく自分のことのように思えたから。
    「なんか、言われる、よく」
    「……この町にいる奴なんかみんなそうやろ」
    「言えてる。お前も?」
    「そう」
    そうでなくてはこんな格好してない、と呟いてから、生を諦めて脱力しきっていた体に力を入れる。節々が痛い。骨が多分折れている。それでも生きているのだと思った。これからもまだ、続くのだと思った。その事実にひどく安堵する。隣の人間味のない男は未だにこちらの様子を呆然と目に映すだけで何もしてこなかった。助けろや、と厭味ったらしく呟いてみる。あ、と息を溶かす音がする。
    「いるんだ、助け」
    「どうみてもいるやろ」
    「死にたいのかと思ってた」
    「まさか」
    嘲るように鼻を鳴らした。死のうと思ってるなら、こんなことになってない。お前だってそうやろ。肩を貸してもらったついでに耳元にそう囁く。そいつはただちょっと困ったような顔をして、それから小さく「そうかな」と呟いた。
    「死にたいんやったら、死んだほうがましやろ。こんなとこにいるより」
    「わかんなくない? 自分が死にたいのかとか」
    「……なんで?」
    「死んでても生きててもさ、わかんないじゃん、どうなるのか。だから別に、どっちでもいい」
    今生きてるから、なんとなくそっち選んでるだけ。自分の体重をその細い体に引き受けながら、なんでもないことのように呟かれた。理解ができなかった。自分は、生きていくためだけにこんなに手を汚して、ぼろぼろにされても立ち上がっているのに、この男はそれから超越してなおこんなところにいるのか。人間離れした美しさの理由が、少しばかり分かったような気がした。その時確か、人でなし、と改めてその単語が浮かんだのだ。
    「……俺はお前みたいにはなれんよ」
    「いいんじゃない、ならないほうが」
    「でも、いつかは死ぬから。そんときは死ぬのが嫌じゃないほうがいいやろ」
    立ち止まる。月明りをかき消すほどの色とりどりの蛍光色の下、男が振り返る。
    「死にたくないって思える人生のほうが、幸せだと思うけど」
    その言葉に、あの時自分は何と返したのだろうか。そんなことないよ、と今ようやく口にした。その美しい顔どころか、何の呼吸も聞こえない空間で、ひとり呟いているだけ。それで、答えた気になっているだけ。もう、死にたくないとは思わなかった。生きたくないとも思わないけれど、それ以上に。
    「……殺したくないよ」
    敵対組織の人間だと気づいた時点で離れておけばよかったのだ。互いに素性を隠しているという体で続く密会は、気づけば情とでぐちゃぐちゃになってどうしようもなくなっていた。それでも、ずっと満たされている。ただただ生を手放すことに怯えて息をしていたあの頃よりも。俺を殺すのは、お前やよ。そうついぞ口にすることはできなかった。二回目はない。次に会う時が最後だ。最後で、最期なのだ。ちゃんと、俺を星にしてね。そう笑う声がする。言葉の上だけでも隣にいることを選ばなかったのは、自分はいつもその輝きを見上げていたいから。波の音が聞こえる。海のないはずの町で、その身じろぎの音が響いている。自分はその音が本当に正しいのかすら知らない。不確実な海が、自分の耳の中でのみ、何かを話している。
    「……」
    人は、海から生まれて海に還るのだという。それなら星になるといった彼はきっと、人の子ではなかったのだろう。その美しい手が屠った魂は、すべて己が飲んでしまおう。そうして彼を中心にして周る執着全てをこの身に携えて、届かない光に焦がれるのだ。波の音がうるさい。彼へと向けられた感情が行き場をなくして叫んでいるのを殺すようにして、ため息をついた。二酸化炭素を吐き出すのも、あと少しだけ。彼を夢見るのは、あとどのくらいだろう。






    輝く太陽、朝の来る町。人々はただただそこで足音を鳴らす。言葉を交わす。顔を見合わせて笑う。息を、繰り返す。その中で自分はただ。
    「……海や」
    光を浴びて男が嬉しそうに笑う。緩く細められた瞳にはただただ自分が映されていることを、うれしくも残念にも思う。眩しい、とその手が緩く日差しを弾くのを、夢見心地に見ていた。波の音が聞こえる。ざざん、と体に浸透していくような音。彼の体が、透明になっていく。染み一つない砂浜の白を、自分の影が一等濃くする。縋るようにして視線を上げれば、彼はまだ自分をじっと見つめていた。
    「見たら、海。俺じゃなくて」
    「ええねん」
    「好きなんじゃないの、これ」
    「……ううん」
    なりたいんでしょ、と小首をかしげて見せてやる。それだけで、彼はひどく切なげに瞳を細めて笑った。もうええよ、とその唇がゆっくりと動く。その手が、己に伸ばされる。
    「届くから、もう」
    「何が?」
    「なんでも」
    何が言いたいのかよくわからなかった。それでも、いいと思った。彼が言葉にしたそれが、きっと全てなのだ。腹の底がじんわりと暖かい心地がして、無意識にぱしりとその腕をつかむ。そっか、と小さく呟いていた。日の光を浴びたその瞳が、美しく光る。猫みたいでもあり蛇みたいでもあるその虹彩の中で、自分がただ一人、満足げな顔をして微笑んでいた。
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    dentyuyade

    DONE性癖交換会で書いたやつ短編のやつです。割とお気に入り。
    星になる、海に還る輝く人工色、眠らない町。人々はただただそこで足音を鳴らす。唾液を飛ばす。下品に笑う。息を、止める。その中で自分はただ、誰かの呼吸を殺して、己の時間が止まるのを待っている。勝手なものだと、誰かが笑ったような気がした。腹の底がむかむかとして、思わず担いでいたそれの腕を、ずるりと落としてしまう。ごめん、と小さく呟いていた。醜いネオンの届かない路地裏の影を、誰かが一等濃くする。月の光を浴びたその瞳が、美しく光る。猫みたいでもあり蛇みたいでもあるその虹彩の中で、自分がただ一人つまらなさそうな顔をしていた。
    「まーた死体処理か趣味悪いな」
    「あー……ないけど、趣味では」
    「いや流石にわかっとるわ」
    「あ、そう?」
    歪む。彼の光の中にいる自分の顔が、強く歪んでいる。不気味だと思った。いつだって彼の中にいる自分はあんまりにも人間なのだ。普通の顔をしているのは、気色が悪い。おかしくあるべきなのだと思う。そうでなければ他人を屠って生きている理屈が通らない。小さく息をついて、目の前のその死体を担ぎなおす。手伝ってやろうか、と何でもないように語る彼に、おねがい、と頼む声は、どうしようもなく甘い。
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    dentyuyade

    DONE息抜きの短編。百合のつもりで書いたNL風味の何か。こういう関係が好きです。
    観覧車「観覧車、乗りませんか」
    「……なんで?」
    一つ下の後輩はさも当然のようにそんなことを提案した。園芸部として水やりに勤しんでいる最中のことだ。さっぱりとした小綺麗な顔を以てして、一瞬尤もらしく聞こえるのだから恐ろしいと思う。そこそこの付き合いがある自分ですらそうなのだから、他の人間ならもっとあっさり流されてしまうのかもしれない。問い返されたことが不服なのか、若干眉をひそめる仕草をしている。理由が必要なの、と尋ねられても、そうだろうとしか言えない。
    「っていうか、俺なのもおかしいやん。友達誘えや」
    「嫌なんですか」
    「いや別にそうでもないけど」
    「じゃあいいでしょう」
    やれやれと言わんばかりにため息をつかれる。それはこちらがすべき態度であってお前がするものではない、と言ってやりたかった。燦燦と日光が照っているのを黒々とした制服が吸収していくのを感じる。ついでに沈黙も集めているらしかった。静まり返った校庭に、鳥のさえずりと、人工的に降り注ぐ雨の音が響き渡る。のどかだ、と他人事みたく思った。少女は話が終わったと言わんばかりに、すでにこちらに興味をなくしてしゃがみこんでは花弁に触れている。春が来て咲いた菜の花は、触れられてくすぐったそうにその身をよじっていた。自分のものよりもずっと小づくりな掌が、黄色の中で白く映えている。
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