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    dentyuyade

    @dentyuyade

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    dentyuyade

    DONE性癖交換会で書いたやつ短編のやつです。割とお気に入り。
    星になる、海に還る輝く人工色、眠らない町。人々はただただそこで足音を鳴らす。唾液を飛ばす。下品に笑う。息を、止める。その中で自分はただ、誰かの呼吸を殺して、己の時間が止まるのを待っている。勝手なものだと、誰かが笑ったような気がした。腹の底がむかむかとして、思わず担いでいたそれの腕を、ずるりと落としてしまう。ごめん、と小さく呟いていた。醜いネオンの届かない路地裏の影を、誰かが一等濃くする。月の光を浴びたその瞳が、美しく光る。猫みたいでもあり蛇みたいでもあるその虹彩の中で、自分がただ一人つまらなさそうな顔をしていた。
    「まーた死体処理か趣味悪いな」
    「あー……ないけど、趣味では」
    「いや流石にわかっとるわ」
    「あ、そう?」
    歪む。彼の光の中にいる自分の顔が、強く歪んでいる。不気味だと思った。いつだって彼の中にいる自分はあんまりにも人間なのだ。普通の顔をしているのは、気色が悪い。おかしくあるべきなのだと思う。そうでなければ他人を屠って生きている理屈が通らない。小さく息をついて、目の前のその死体を担ぎなおす。手伝ってやろうか、と何でもないように語る彼に、おねがい、と頼む声は、どうしようもなく甘い。
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    dentyuyade

    DONE息抜きの短編。百合のつもりで書いたNL風味の何か。こういう関係が好きです。
    観覧車「観覧車、乗りませんか」
    「……なんで?」
    一つ下の後輩はさも当然のようにそんなことを提案した。園芸部として水やりに勤しんでいる最中のことだ。さっぱりとした小綺麗な顔を以てして、一瞬尤もらしく聞こえるのだから恐ろしいと思う。そこそこの付き合いがある自分ですらそうなのだから、他の人間ならもっとあっさり流されてしまうのかもしれない。問い返されたことが不服なのか、若干眉をひそめる仕草をしている。理由が必要なの、と尋ねられても、そうだろうとしか言えない。
    「っていうか、俺なのもおかしいやん。友達誘えや」
    「嫌なんですか」
    「いや別にそうでもないけど」
    「じゃあいいでしょう」
    やれやれと言わんばかりにため息をつかれる。それはこちらがすべき態度であってお前がするものではない、と言ってやりたかった。燦燦と日光が照っているのを黒々とした制服が吸収していくのを感じる。ついでに沈黙も集めているらしかった。静まり返った校庭に、鳥のさえずりと、人工的に降り注ぐ雨の音が響き渡る。のどかだ、と他人事みたく思った。少女は話が終わったと言わんばかりに、すでにこちらに興味をなくしてしゃがみこんでは花弁に触れている。春が来て咲いた菜の花は、触れられてくすぐったそうにその身をよじっていた。自分のものよりもずっと小づくりな掌が、黄色の中で白く映えている。
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    DONE矢野葵の21の時の話。笠田編から2年前くらいのイメージです。失踪癖のある男の、失踪先でのこと。
    ユーレイにつき太陽に焦がれる矢野葵という人間は二回死んでいる。別にスピリチュアルな話ではなく、有り体に言えば精神の死、というものに複数回見舞われているだけだ。齢二十一にしてそんな目に遭う謂れ何て全くないのだが、かといって怒ったり悲しんだりするほどの気力すらもう持てない。仕方がないだなんて、言いたくはないけれど。自分という存在がこうであるのは、もう諦めるほかないのだと思ってしまうくらいには矢野の人生に光が差さない。否、なまじ光が差すからこそ嫌になるのか。
    「……」
    生まれた大阪の街は雑然としていて、灰色で醜い。かつて智恵子は東京に空が無いと嘆いたそうだが、矢野からすれば東京よりもよっぽど大阪のほうが空が無いと思う。人工物が多いくせに、アーティファクトの美しさが微塵も存在していないのは、やはりここに渦巻く市民性というか人間の執念の影響なのだろうか。そういうところがたまらなく嫌いだ。矢野は目の前で空を大きく遮っているアパートを見上げて一つ溜息をつく。昔住んでいた家。一度目に、自分が死んだ場所。矢野は突発的に来る不愉快な逃避衝動に駆られて、自分の人生を辿ると言う自傷行為染みた試みに出ていた。アパートには当たり前に管理人なんていない。住民でない人間の行動を監視する存在もまたなく、矢野はふらふらと階段を上って五階へと黙って足を進めた。二階までの上昇になれた足はやや悲鳴をあげる。体力がないのはまあ昔からだ。ようやくついたフロアには全く見覚えのない家庭ばかりが並んでいて、そこでようやく矢野は時間の流れを理解する。十年以上経っているのに何も変わっていない方が、よっぽど異常だろう。かつて自分が開いていた扉も、まったく知らない他人の表札がかかっていた。けれど、その隣。その名を目にした途端、腹の底がぐっと冷えて、思わず足が惑う。
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    DONE本川君の高校時代の話。
    運命論者とピアス穴親の仕事の話を振られたら、母の話をしなさいと言われていた。その理由に気が付いたのは小学生として数年過ごしてからだ。それまでは、いつもへらへらと笑って母が勤務しているデザイン事務所のことを口にしていた。子供のうちに与えられた前提というのは、得てして疑う機会に恵まれない。何気なく、お父さんは何をしている人なの、と聞かれたその瞬間を、本川はよく覚えている。用意できていなかった返答を無理やりに形にしたとき、もう誰だったかも覚えていないその相手は明らかに困惑した顔をしていた。
    「なんか、人の背中に絵描いとるねん」
    そうとしか形容のしようのない父の仕事が、所謂彫り師と呼ばれる職業だと知ったのは、それから更に後のことだ。父が相手にしている客が社会的には歓迎されていない人々だということも、本川はそれまで知らなかった。カテゴライズされていなければ、彼らはガタイのいいオジサンたちでしかなかったのだ。彼らが気をよくしているときなどは寿司を驕ってもらったりもするので、未だに忌避すべき存在だという認識が甘い。父も母もあまりいい顔はしないが、陽太と下の名前で呼んで可愛がられる分には悪い気はしないのだ。もっとも、線引きの必要性は常に感じる。本川は堅気の道を踏み外す気はさらさらなかった。デスクの上に広げられている予約表を手にして確認する。父は細かく描き込まれた絵図を見ながら不機嫌そうな顔で頭を掻いていた。
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    dentyuyade

    DONE与太話をする四人。ヤマもオチもない短編です。
    豚の文明「……猿じゃなくて豚が二足歩行し始めたとしたら」
    世界はどうなっちゃうんでしょう。生真面目そうな顔でちびちびと烏龍茶を啜る。その姿に同じテーブル上で食事をしていた三人は三者三様に怪訝な顔をした。豚が、なんだって。その中の一者である笠田が聞き返す。律義に同じ発言をする平山に、この話題が続行されることを各々が悟った。
    「そもそも野生の豚っているんすか?」
    「野生の豚って猪とちゃうん」
    「いや、猪と豚は別物だろう。イノブタが別枠でいるぐらいなんだから」
    「猪を家畜化したのが豚ですよ。まあでもこの場合は同列に扱うとしてください」
    本川が自分の手元の皿を見つめながら、神妙な顔で「家畜化」と呟く。その様子がおかしかったのか、矢野もまたカツサンドを見つめながらけらけら笑っていた。話が進まない。笠田は事務的にホットドッグを処理しつつ、冷静に思考を巡らせる。そもそも、豚に二足歩行をする理由などあるのだろうか。というか、猿が二足歩行を始めた理由すら、笠田は正直言って怪しい。より高いところの物が取れたりするのが理由なイメージがあるが、詳しいことはよく知らなかった。専門外である。そもそも豚って、二足歩行できるような体のバランスじゃなくないかい。そうぽつりと零せば、矢野が「たしかに」と感心したように頷いた。
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    DONE佐野と志筑の話。アホなことを真面目にやっててほしいです。
    足首足首に惹かれる。ソファに横たわって投げ出されている足の、末端。裾と靴下のどちらにも覆われていないそれに、佐野はいつも心臓が止まるような、この世の音が全て奪われてしまうような、そんな衝撃を受けるのだ。平静を取り戻すためにこくりと唾をのむのは、トンネル内に入った電車での感覚とよく似ている。一度瞳を閉じて、ほうと息をついた。変態じみている、と思う。自分はそんな変なフェチズムなどは持っていないはずなのだが。頬に手のひらを打ち付ければ、非難するようにぱちぱちと乾いた音が鳴る。断じてそんな嗜好はない。ないのだ。
    「……」
    誰にするでもない言い訳を心中で続けながら、彼の足に触れる。中途半端に隠れているからいけないのだ。別に佐野だって剥き出しになっていたらそれほどまでに気にはならない、はずである。否、そもそも別に足首にそこまで関心を抱いたことなどこの男以外にはなかったのだが。やりきれないもやもやとした感覚を追いやるようにして靴下を引っこ抜き、その裾を捲る。性急なその動きは睡眠中の脳の許容範囲を超えていたのか、弛緩していた体にわずかに力が灯るのがわかった。
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    DONE食事に関する長編。美味しいって何か、考えたら立ち止まってしまう話。
    貴方の食事に焦がれて止まない「ねえ。男の人ってさ、どんな感じ?」
    「……ええ」
    どんな感じって、言われても。小さい顔に備えられた大きな瞳がぱちくりと瞬いて見上げてくるのを、笠田はいなすこともできずに間延びした声を上げる。沈黙に呼応するようにして伝わっていく珈琲の熱が、じんわりと痛みすら与えてくるようだった。当惑も熱のように伝搬する。笠田の眉尻を下げた姿に何か察したのか、引き結ばれていた唇が緩められ「あー」とソプラノを映すのを、笠田はどこか夢見心地で見ていた。
    「なんかさ、あるじゃん。男の人の、感じ」
    「いや、ないだろうそんなものは」
    「えー……わかんないかな。なんか」
    「……わからないよ。感じって、抽象的すぎる」
    口数が少ないわけではない。ただただ、カケルの言葉はいつも足りていない。伝わらないのだ。これが果たして女子高生全般に言えることなのか、それともカケルがおかしいのか、笠田は判断がつかなかった。少なくとも自身が高校生だったころは、もう少し話ができる生き物だったように思うが。それとも生きた年数分だけ言葉が伝わらなくなってしまうのか。いけるって、と適当なことを言ってずずっとコーンポタージュを飲むカケルに、笠田は何とも言えぬ感情を抱いた。
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    DONE志筑と佐野の話。この辺から志筑がダメ(ダメじゃない)になっていく。
    口が軽くて重くなるこんなはずじゃなかった、などと表現すると途端に嘘くさく感じられてしまうものだが、実際にそういうしかない場面も存在するのだと知った。佐野はずきずきと痛みだしそうな頭と、背を伝う汗とにどう落とし前をつけるかで必死に頭を回す。どうしてこんなことになったんだったか。絶え間ない居心地の悪さと一抹の罪悪感に割かれてしまっている脳みそのリソースを必死に還元しながら、眉をひそめて本意ではないというポーズを露骨にとった。目の前の同年代の女子たちがあからさまにとっつきにくそうに自分をちらちらと伺っているのを感じる。ごめん怖がらせて。でもこれが俺なりの自衛だから許してほしい。恨むならその隣の男を恨んでくれ。口にしない言い訳をつらつらと並べ立て武装した気になって、一人息をついた。事の発端は佐野の所属している工房の先輩が、あまりに女っ気のないその姿に要らん心配をかけたところから始まる。数日前それらしい話を振られたときは「ああまた言っとるわ」程度に粗雑にあしらっていたのだが、それが見事に裏目に出た。というか、それを口実に自分たちも出会いが欲しかっただけなようにも思えてくる。
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    DONE陶芸家とプログラミング関係の仕事の男が、ひとつ屋根の下でもたもた幸せになる話です。志筑と佐野の話。
    スポットライトの下、ろくろを回せ放っておけない人という風に分類される人間というのは、世の中にいかほどの割合で存在しているのだろうか。少なくとも自分は含まれていないのだろう。よく言えば面倒のかからない人、悪く言えば個人主義。そう言ったように自分が見られていることを、志筑はこの二十数年の人生でぼんやりとではあるが理解している。放っておけない人、というのはつまるところ、魅力的な人間ということだ。どこか危うくて、目を離しておけない。絶対的な何かを持つ、大衆ではない人間。
    「……」
    スポットライトが当たるなら、きっと彼だと思った。自分の、この退屈な人生の中で光に照らされているのは間違いなく彼だった。初めて会ったとき、美術部のくせにキャンパスに向かわないで一心不乱に何かの図面を描いていた彼を見て、志筑はそう確信したのだ。真摯な横顔が、今でも手に取るように思い出せるのはきっと、あの日から未だ舞台照明は彼だけを馬鹿真面目に追い続けているから。自分に向かない視線が好きだ。他の何も映さないでいる、きれいな瞳が。
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    DONE冬編。夏編と同じ年の冬。
    正しい世界の見つめ方 冬「あー、遊んだ遊んだ。やっぱ冬は雪よなー」
    「都会のこのちんけな降雪量を見たうえで、カマクラを作ろうとかほざき始めたときはとうとういかれたかと思いました」
    「いやでもあれは結構いい線いってたでしょ!猫用カマクラくらいにはなってたって!」
    猫はカマクラじゃなくて炬燵で丸くなってますよ。そう揶揄しながらストーブの電源に指を押し込んで、部屋に熱をともす。時は一月。冬真っ盛りで、雪遊びで冷え切った体が泣いている。数秒遅れで点火された温もりに二人して手を近づけてその恩恵を受けた。あー温い、と隣で発される中年男性のような言葉にも、この時ばかりは賛同せざるを得ない。緩やかに熱が移されていく指先から血が巡っていくのを感じて、私はゆっくりと息をついた。このままだとダメになってしまいそうだ。いや、もうなっているのかもしれないけれど。ふと左から空気の移動を感じてそちらに目をやると、片瀬さんが立ち上がって上着を脱いでいる。ちゃんとかけとかないとシワになるぜ。そういって私の腕を掴んで立たせようとしてくる彼は、さながら母親のようだ。えー、といいながら後ろ髪惹かれる思いで私も渡されたハンガーにコートをかける。ああ、ちょっと離れただけで寒い。急いでクローゼットに服をかけると即座に炬燵の電源を入れた。猫じゃなくても冬はやはり炬燵である。雪だのなんだの言ってる場合ではない。
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    dentyuyade

    DONE矢野くんと坂井くんのちょっと先の話。坂井克樹、矢野葵に負けないでほしい。
    世界心中願望にさよならを息をすることは容易いことだと、生きとし生けるものすべてが思っている。それは今を生きる存在は皆等しく呼吸をしているからであり、それが難しくなるというのは即ち、死に近づいているという事実を意味するからだ。だから、肺というのは実のところ心臓よりもずっと生に密接した器官であり、それを損なわんとする行為は自殺と呼ぶに等しいのである。そう、それは例えば煙草であったりだとか。
    「あー、まっず……」
    一度たりともこの人生において煙草の煙を美味いと思ったことは、矢野にはなかった。ではなぜそれを欲するのか。ニコチンへの依存と言ってしまえばそこまでかもしれないが、あえて言うならば、そこに安心を覚えるからと表現するほかない。肺を汚染することは緩やかな自死で、希死念慮を満たすにはもってこいの小道具なのである。それを思うたび矢野は、大人になってよかったと唯一感じるのだ。フェンスに寄りかかり、マンションの一室から街並みを眺める。知らぬ街からそれなりに知った街になったそこには、いくつもの光が息づいては湛えられていた。いつまでここにいるべきか。そんな答えのない問答に、静かに火蓋が切られたのを矢野は肌で感じ取る。
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