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    History4 呈仁CP
    台湾ワンドロ お題・休日

    休日 ムーレンはホラー映画が好きだ。大まかにホラー、と言っても色々ジャンルがあるが、とりわけゾンビものや、スプラッタを好む傾向にあった。ジャンルがジャンルだけに、なかなか同士を見つけるのが難しいので、ほぼ一人きりで楽しんでいる趣味と言ってもいい。昔から、何げなくリーチェンやシンスーをこの趣味に引き込もうとしていたが、なかなか手応えのないまま、現在に至る。
     金曜。夕食を終えたムーレンとリーチェンは、二人ソファに座ってテレビを見ていた。この時間が一週間の中で一番リラックスできるひと時だ。ダラダラと酒を飲んで夜更かしをしても明日は休日だ、存分に惰眠を貪ることができる。金曜の夜が一番幸せな時間だな、などと思いながらワインを飲み、ぼうっとテレビを見ていたムーレンは、一瞬何かを思い出し、携帯を取った。……そう言えば、今日あの映画の配信日だった!!
     どうした? とリーチェンがムーレンに膝枕をして貰いながら言う。
    「今日、楽しみにしてた映画が配信されるんだ」
     あー……とリーチェンが何かを悟ったような、気の抜けた声を出した。リーチェンがホラー映画に対してそんなに興味がない事は昔から知っていたが、特に一緒に見るのを反対されている訳でもなかったので、こうして二人でホラー映画を見ることがある。楽しげなバラエティから一変、おどろおどろしい音楽が流れる。ムーレンが楽しみにいていた映画は、ゾンビもののようだ。真剣に見入っているムーレンが気に入らないのか、リーチェンがムーレンの腹の周りでゴソゴソしだした。
    「リーチェン、僕は今映画見てるの」
     恐らく、構って欲しいのであろうリーチェンの頭をそっと撫でてやる。リーチェンはそんな言葉をよそに、ムーレンのインナーを捲って腹を撫ぜたり、体のあちこちをねっとりと触り始めた。リーチェンはそもそもボディタッチが多い方だし、ムーレンも彼に触られるのは嫌いではない。だが、今は映画に集中したいのだ。リーチェンのしたいことも大体予想はつくが、心を鬼にして捲り上げられたインナーを力一杯下におろす。
    「こら、映画見てるって言ったよな? 後で構ってやるから今は一緒に見よう」
     そう言って一向にリーチェンに視線すら向けないムーレンに、何をしても無駄だと悟ったのか、やだ、と言ってリーチェンがムーレンの腹に顔を埋める。そして、やがて動かなくなった。リーチェンはムーレンの膝枕でふて寝を決め込むらしい。やっと静かになったか、とムーレンは画面に集中する。
     暫く映画を見ていると、ふと気づくことがあった。ムーレンがこうやって、リビングでホラー映画を見ることはよくあることだ。しかし、よく考えたらリーチェンと一緒に見た記憶がない。ムーレンがホラー映画を見始めると、リーチェンはいつもムーレンの膝でふて寝をするか、自室に戻ってしまうのだ。……ふむ、とムーレンは考える。これはもしかして、とても面白いことに気づいたのではないだろうか。
     ムーレンは思わずニヤけてしまう頬を軽く叩くと、寝かけていたであろうリーチェンをゆさゆさと揺すって起こす。
    「リーチェン! 明日僕たち出かける予定、無かったよな? 折角の休日だし、遊園地に行かないか?」

     車窓からの流れる景色を見ながら、鼻歌を歌っているリーチェンのご機嫌は上々だ。ロマンチックなものが好きなリーチェンだ。恋人と遊園地、と言うシチュエーションにテンションが上がっているに違いない。ムーレンはと言うと、シチュエーションなんて関係ない、これから起こるであろう事への期待に頬が緩んでしまうのを禁じ得ない。表向きには遊園地へ行く、のだが、ムーレンの本当の目的は、遊園地〈にあるお化け屋敷〉へ行く、事なのだ。
     昨日ムーレンが気付いたのは、もしかしたらリーチェンは怖いものが苦手なのではないか、と言う事だった。今までのリーチェンの行動を考えると、どうしてもそういう結論に至ってしまう。そしてそれが真実なのか知りたくなるのが人の性……だろう。リーチェンのことだ、きっと正面から尋ねてもNOと言うに違いない。そこで、ちょっと試してやろうと言うのが今回の目的だった。予想が外れても、遊園地で楽しく過ごすだけだし、もし当たっていたとしても、少しからかう程度のものだ。願わくば、リーチェンの怖がる姿を見てみたいと思ってしまうのは少し意地悪だろうか。
     電車に乗って数時間。都市の郊外に建設されている遊園地は、大型商業施設も併設しているとても大きな施設だった。噂には聞いていたが、予想以上の規模にリーチェンが感嘆の声をあげた。これはリーチェンでなくてもテンションが上がると言うものだ。早く行こう、とムーレンの手を引く。ムーレンもリーチェンの手を握り返し、足早に入場ゲートをくぐった。
     こんなにはしゃいだのは何年ぶりだろうか。リーチェンもムーレンも、所謂いい大人である。遊園地に来るのも学生以来だし、大人になってからの遊園地と言うものは果たして楽しめるのだろうかと言う懸念もあったが、そんなものを吹き飛ばすほど、心の底から楽しむ二人がいた。水を被るアトラクションでは、係員の静止を振り切って雨具なしで乗った為全身がびしょ濡れになり、隣の商業施設で上下の服を買う羽目になったり、ぐるぐると回るアトラクションでは、降りた途端目が回ってしまって上手く歩けず、躓きかけたりと、何をするにも純粋に楽しくて二人で始終笑い合う。久しぶりにこんなに笑った気がする。楽しいな、と笑いすぎて涙を溜めながら言うと、すげー楽しい、とリーチェンが目尻を下げる。
    「お前といるから何倍も楽しい」
     そう言ってムーレンの頬にキスをするリーチェンは、本当に楽しそうで、幸せそうだ。そんな彼を見て、ムーレンの心がちくりと痛む。幸せそうな彼が見ていると、当初の目的など、もうどうでもいいか……と言う思いと、やっぱり真実を知りたいと言う思いがせめぎ合う。考えに考え抜いた末……結局欲望に負けてしまった。嫌そうなら無理に誘うまい、と逃げ道を残して。
    「あのさ、ここのお化け屋敷、結構良いらしいから行きたいんだけど……」
     ピクリ、とリーチェンの眉が僅かに動くのが分かった。ああこれは予想は当たっていたのかもしれない。やっぱいいや、と言いかけた所で、うん、とリーチェンが言った。
    「トントンは怖いの好きだもんな、うん大丈夫、行こう行こう!!」
     にこりと微笑む笑顔がなんだかぎこちない。言わなきゃよかったな、と後悔するももう遅い。ここで、もういいからと言った所で引くようなリーチェンではない。きっと怖気付いたと思われるのが嫌で、無理やりにでも行くに違いない。内心どうしたものか、と考えあぐねているムーレンの胸の内を知ってか知らずか、ムーレンの腕を掴んで、どんどん歩いて行く。せめて……ずっと手を繋いでいてあげよう。そして、願わくばそんなに怖いものでありませんように……。

    「……トントンが怖くないように、手を繋いでてやるよ」
     アトラクションに入った瞬間、リーチェンがムーレンの腕を抱く。手と言いながら腕を抱く辺り、本気で苦手なんだな、と片方の手もリーチェンの腕に添えてやる。
    「うん、怖いからずっとくっついてて」
     そう言ってやるのがせめてもの気遣いだ。
     このアトラクションは自分の足で歩いてゴールまで行くと言うものだ。バタン、とドアが閉まって、こう言うアトラクション特有のカビのような匂いが広がり、真っ暗な室内にぼう、と仄かな光が灯る。なるべくリーチェンを驚かせないようなルートを通って行きたいが、こう真っ暗ではムーレンも予測ができない。少しの物音でも、リーチェンがびくりとするのがわかる。刹那、リーチェン側の壁の格子が大きな音をたてて外れ、ゾンビが現れた。どうも、人形ではなく役者が演じているゾンビらしい。なんとしても客を驚かせようと言う気迫がひしひしと感じられる。
    「ギィヤァァァァァアアアア!!!!」
     聞いたことがない様な叫び声に、一瞬何事か分からなかったが、その声を発したのがリーチェンだと認識するのにそう時間はかからなかった。ムーレンの腕を痛いぐらい抱き、顔をムーレンの肩に伏せて、無理無理無理無理……と呟いている。まさかリーチェンがここまで苦手だとは思っていなかったムーレンに出来ることは、一刻も早くこのアトラクションから出ることだ。大丈夫、と彼の腕を撫でてやりながら、ムーレンはひたすらゴールを目指す。もう目を開ける事をやめてしまったリーチェンが、音にすら反応して短い叫び声をあげる。きっと、アトラクションの俳優は、俳優冥利に尽きるに違いない。
     二人にとって違った意味で永遠とも思える時間が過ぎ、リーチェンがぐったりとベンチに腰掛ける。もう何もかもの気力を失ったように顔を伏せている。ムーレンは隣に座ると彼の肩を抱き、ごめん、と呟く。
    「お前がこんなに怖いのが苦手だなんて、思ってもみなかった。ただ……もしかして苦手なのかな、ぐらいの軽い気持ちだったんだ」
     本当にごめん、と額を寄せる。折角、久々の遊園地で無邪気に楽しんでいたのに、最後の最後でぶち壊してしまった。あの時、彼は怖いものが苦手なんだなと薄々感じていたのに、何故薄っぺらな興味に負けてしまったのだろう。自分の愚かさと、思いやりの無さに泣きそうになる。
    「トントン……幻滅したろ、俺のこと」
     伏せた顔を上げないまま、リーチェンがぼそりと言った。え、とムーレンが小さく返す。幻滅されたのは自分の方ではないのか。
    「俺はさ、お前に、カッコよくて頼りになるシャオ・リーチェンをずっと見せたいし、そうなりたいんだ。そう思ってるのに、あんな失態見せちゃってさ……怖いの苦手だからって最初から言えばよかったのに、変に意地張って」
     この体たらくだよな、と力なく笑うリーチェンをムーレンは思わず抱きしめた。
    「何言ってんだよ、リーチェンはどんなことがあっても僕のカッコいいヒーローだ。僕が一番一緒にいて欲しい時に側にいてくれて、いつも助けてくれる」
     抱きしめる腕に力がこもる。愛しさが溢れて、それを違う形で表現したいのに、抱きしめる事以外思い浮かばないのがもどかしい。
    「ねぇ、僕だけのヒーロー、完璧な人間なんていないし、ちょっとお茶目な所があった方が可愛くて好きだよ」
     そうかな、とリーチェンがムーレンの肩に頭を乗せた。そして頬を寄せる。ムーレンも、可愛くて愛しくて仕方がないと言うように、優しく頬を擦り寄せる。こんなに一途に思ってくれる人がリーチェンでよかった、と心から思える。そして、自分もリーチェンを愛すことが出来て良かった。
    「可愛い僕のリーチェン、今晩は抱きしめて寝てあげる」
     怖い思いさせてしまったからね、と言うと、微かにリーチェンが笑っているのがわかった。そして、これは結果オーライってやつかな、とムーレンの腰に腕を回す。今はまだ別の寝室で寝ている二人だが、今日ぐらいは良いだろう、とムーレンは思う。自分の軽率な興味でリーチェンに嫌な思いをさせてしまったのだから。
    「最後は遊園地デートらしく、観覧車乗ろうよ」
     そろそろ夜景が綺麗な時間だよ、と耳元で囁くと、返事の代わりにリーチェンの唇が頬に触れた。
     「休日デートの締めはカッコよくエスコートさせて」
     リーチェンはそう言って立ち上がると、ムーレンに向かって恭しく手を差し出す。ムーレンはその手を取ると、綺麗に微笑んだ。

     ……その後、この事を理由にして、リーチェンがムーレンの寝室に度々忍び込む様になるのだが、それはまた別のお話。
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