唐はじ導入一ヶ月前。おれは実の兄である青戸唐次とセックスをした。
先に言っておくが、おれたちに恋愛感情はない。兄と弟の禁断のラブロマンスの果てにそうなったわけじゃない。
……なんでそんなことになってしまったのか。そんなのおれが一番不思議に思ってる。
まずおれと唐次がどういう兄弟であるかを説明しなくちゃならない。
この世に生を受けて二十余年。それまで一人っ子だと思っていたおれに、とある夏の日、兄弟ができた。
失踪した父の行方を探しにいった村で偶然か必然か、同じ顔が六つ揃った。狐狸妖怪の類でも、ドッペルゲンガーでもない。おれたちは六つ子だったのだ。まぁそのあたりは説明するまでもないので割愛する。
その中に、唐次さんがいた。
上から数えて二番目の兄。そして村にいる他の兄や弟と違い、唯一同じ東京に住んでいる人だった。
同じ土地に住んでいたことをきっかけに自然と仲良くなった……とは言い難いが、何かと気にかける唐次さんの性格のおかげで、おれたちは二十余年の歳月を飛び越えて普通の兄弟と遜色ない仲に近づいていた。
ただ、普通の兄弟と違う点もあった。
……そこで、兄弟の距離を勘違いして恋愛感情に発展したとか思ってんだろ? 断じて違う。
おれたちはいわゆる推理ドラマにでてくるような相棒じみた仲だった。
まあ、凸凹コンビが活躍するドラマを見て「オレとはじめみたいだな!」って目を輝かせた唐次さん曰く、だけど。
出会った村で怪異に巻き込まれたこと。おれが父の影響で民俗学について知識があったこと。唐次さんが奇っ怪な事件を追い求めていた記者であったこと。
そんな要素が絡み合って、いつのまにかおれたちは、不思議な伝承や奇祭のある町村に出かけては、それにまつわるアレコレを調べるようになっていた。
なぜその土地に不可思議な伝承が残ったり、奇祭が行われるようになったのか、原因を調べて仮説を立てる。
そしてそれを唐次がうまい具合に面白おかしく書き綴り、編集長の了承を得て記事となる。
(そうやって紙面に掲載されることは稀だったけれど。)
とにかくそんな感じの塩梅で、兄弟であり相棒と呼ぶような間柄になったんだと思う。おれは相棒とか認めてないけど。他の兄弟とは何かが異なる要因を敢えて言葉にするならそれが一番近いだろうってだけで。
それがおれ、紫坂一と青戸唐次の関係だった。
調査だのスクープだのと息巻いた唐次に強引に引っ張られて出かけていくのは悪くなかった。むしろ丁度よい娯楽のような感覚になっていた。
赤鹿村での体験のように、生贄だの変な儀式に巻き込まれる……なんて、危険なことなど殆どなかった。(畑泥棒と間違われて鎌を持って追いかけられたことを除けば。)
訪れた先では、最初こそ警戒されるものの、唐次のコミュニケーション能力の高さから打ち解け、快く取材をさせてもらっていた。つまり推理ドラマに出てくるような、金田一何某的な事件は、起きなかったのである。
そう。あの村に訪れるまでは。