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    東 @azm_hgs

    落書きと生存報告用にほいほい投げ込みます。デッサンや形を描きながら直す悪癖を積極的に晒していく予感

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    POIPOI 69

    東 @azm_hgs

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    ※注意書きは前回と同じです
    https://poipiku.com/2996800/5797136.html

    旅する師弟2遠く遠く何処までも広がる草原は故郷を思い出す。
    ハイラルは自然が豊かな国だった。潤沢で清らかな水、伸び伸びと生える草花、生命を生み出す森は一度入ったら戻っては来れない程に広がり、鉱物すら国内で賄えた。
    ハイラルがどれほどに恵まれた環境であるのか、トワが、そしてトキだって、それを知ったのは国を出た後だ。命生まれぬ砂漠から、あの魔盗賊は豊穣の実りを形としたハイラルを見ていたのだ。

    開けた草原に一本だけ生えた木の根元、沈む夕日を眺めながら焚き火の前にトワとトキは座っていた。
    見晴らしの良い草原だ。あるのは一本の道とも言えない、何かが草原の草を踏みつけ出来た跡だけだ。
    他には何もない。人も、動物も、魔物や街の影だって。
    トワは硬い干し肉を噛みちぎり数回咀嚼する。噛み締める中でじんわりと感じられるごく僅かな旨味を頼りになんとかゴムのようなそれを飲み込んだ。皮でできた水筒を腰から外し、一口だけ口に含む。隣を見ると、トキが顔を顰めながら口を緩慢に動かしていた。手元の干し肉は全く減っていない。

    「先代、そんなんじゃ日が暮れちゃいますよ」
    「これ嫌いだ……。そこら辺の草の根っこを食べてた方が良い」
    「水も少ないんですから駄目だって」

    あまり肉食を好まないトキの言葉に苦笑する。偏食な彼はこれまでどうやって一人で生きてきたのだろうと、かつての旅路を想像すると落ち着かない。
    まあトキに言わせれば、トワこそ一人で良くこれまで無事に生きてこれたものだと思うらしいが。

    トワが水筒を渡そうとすれば、彼は首を降って否定の意を表す。水源がどこにあるかも分からない中で、貴重な水を無為に減らさないように。そうしてまた嫌そうな顔で手にした干し肉をほんの僅か口に含んだ。
    彼の様子を見守ってから、トワは草原に首を巡らせる。日の沈みかけた世界の中で影を落とすものもない、ただただ広い草原だった。

    「やっぱり、分かれ道は右が正解だったのかもしれないですね」
    「うう、だってあの街のお爺さんが左って言ってたから」
    「爺さんも良い年だったから記憶違いしててもおかしくないですよ」

    数刻前、辿り着いた分かれ道では確かに選べる先は2つあって、迷わず教えられた方向に歩を進めた。選んだ道がどんどんと細まり、ひと一人しか歩けない程の細さのそれがただ何かが通っただけの跡となり、生えた草木によって所々途切れるようになって、ようやく二人は足を止めたのだ。けれどその頃にはもう日は傾き始めていて、進むことも戻ることも出来なくなっていた。
    朝方に出た街の影は地平線の向こうにとうの昔に隠れていて、戻るためにはもう一日分歩かなければいけない。進み続けても先に何があるのか分からない。仕方なしに唯一存在した草以外のものであった木の根元で一夜を越すことを決めたのだ。

    この草原はあまりにも見晴らしが良いものだから、仮に魔物が現れたとしても容易に対処できるのが唯一良いところだ。
    視界を遮るものが何もない。日が沈んだら、まるで大海原にただ二人、小舟で波に揺られ漂っているような、そんな気持ちになるのだろう。

    「このまま、ずうっとこの草原が続いてたらどうしようか」

    静寂に波紋を作るように、トキが音を紡いだ。
    トワが視線を向ければ、彼も草原を眺めていたようだ。手に持った干し肉はようやく半分まで減っている。

    「食料か水が尽きる前に、戻るタイミングを見極めないといけないですね」
    「俺は、全部無くなるまで進んでみるのも良いと思うな」
    「それで何も見つけられなかったらどうするんですか?」

    トワの問いに答えないまま、トキはうっすらと唇に弧を浮かべた。水も食料もないまま、この草原に取り残される。それが何を意味するのかなんて、分かりきったことだ。
    トワは大きくため息をついて上を見上げた。一番星が輝いている。夕日はすっかり地に沈み、赤い残像を残すのみだ。
    やがて世界は夜に呑まれるのだろう。けれどそこは完全な虚無の暗闇ではない。
    月明かりに照らされ、星が無窮に煌めき、その光を反射した草木が風に揺れ大地の息吹を奏でる。そして、自分の隣には長い時を共に歩む旅路の相棒が、確かに熱を持ち息衝いている。ぱちりと、目の前の焚き火で燃える枝が小さく爆ぜた。

    「先代。明日一日歩いて、それでも何もなかったら、この道を戻りましょう」
    「うん」
    「俺は、もっと色々な国や人を見て、それをハイラルに持ち帰りたいです」
    「……そうだね」

    一番星を見上げながら慎重に言葉を選ぶ。風の音の中に、二人の会話が溶けて混ざり合っていった。空から赤が消えて、長い夜が始まる。


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