遺稿 ぐしゃぐしゃになった封筒を引き出しの奥から見つけた。
頭の悪かった十六歳のわたしは、こんなところでずっと眠っていたらしい。
しわをのばしてから、ゴミ袋に突っ込む。封筒は袋の中でわずかにあがいて、がさっと音を立てた。
高校の最寄り駅の駅ビルに入っていた、シンプルを売りにした店でシンプルなレターセットを買った。当時わたしは高校二年生だった。
祖母から古い万年筆とブルーブラックのインクをもらい、白い便せんの一行目に書いたのは「高坂先輩へ」。
ばかみたいだ。
女子テニス部で一緒だった高坂先輩は、美人で実力もあるけれど性格のきつい、友だちのいない人だった。肩から下の髪をゆるく巻いていて、陽に当たると茶色に見えるのは染めたのではなく地毛らしいと誰かに聞いた。気の弱い部長としばしばぶつかっては、ふてくされたように花壇に座ってテニスコートをじっとにらんでいた。
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