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    過去のやつそのよん

    #百合
    Lesbian

    遺稿 ぐしゃぐしゃになった封筒を引き出しの奥から見つけた。
     頭の悪かった十六歳のわたしは、こんなところでずっと眠っていたらしい。
     しわをのばしてから、ゴミ袋に突っ込む。封筒は袋の中でわずかにあがいて、がさっと音を立てた。

     高校の最寄り駅の駅ビルに入っていた、シンプルを売りにした店でシンプルなレターセットを買った。当時わたしは高校二年生だった。
     祖母から古い万年筆とブルーブラックのインクをもらい、白い便せんの一行目に書いたのは「高坂先輩へ」。
     ばかみたいだ。
     女子テニス部で一緒だった高坂先輩は、美人で実力もあるけれど性格のきつい、友だちのいない人だった。肩から下の髪をゆるく巻いていて、陽に当たると茶色に見えるのは染めたのではなく地毛らしいと誰かに聞いた。気の弱い部長としばしばぶつかっては、ふてくされたように花壇に座ってテニスコートをじっとにらんでいた。
     わたしは高坂先輩が好きだった。その憧れは純粋な十六歳の心から発された瑞々しいものだったのか、わたしの不純な性質が泥水のようにあふれさせたものだったのか、当時もいまもわからないけれど、少なくとも「よくないもの」として自覚されていた。だから誰にも言わなかったし、放置していた。
     もっと客観的に端的に事実を述べるなら、高坂先輩が、わたしを好きだったのだ。
     あからさまな視線にはそのうち気が付く。悪い気分ではなかった。あの高坂先輩の一部、あるいはほとんどを掌握できることは。わたしの視線のひとつ、しぐさのひとつに高坂先輩の反応が見えるのだ。たったそれだけの、言葉もない土ぼこり越しの交流はしばらく続いた。
     それでも終わりはあった。
     秋の試合で先輩はボロクソに負けて引退した。動じていないように見えて、深く傷ついて落ち込んだ感情のやり場に困っていた。不器用な人だった。わたしは高坂先輩の視線を感じながら、顔を合わせることができなかった。あのうつくしい瞳がわたしにすがることを考えると悦びではあったけれど、それ以上にこの見ないふりをしていた「よくないもの」を起こしてしまうことが怖かった。
     そうして、ずるいやり方を思いついた。

     形に残したのはきっと、いつかこうして見つけ出したとき、捨てるためだったのだろう。
     引退した高坂先輩は部活に顔を出すこともなく、廊下ですれ違うくらいで、そのときはほかの人と連れ立って、もうわたしを見ることはなかったから。
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