未知の星 駅のホームから見上げる景色が、いつもと違う気がした。未知の星が煌々と光っていた。あれはなんだと掃除人に問えば「知りません」と簡潔な返事。掃除人にも知らないことがあるのかと、おれは意外に思いながら目を細めた。
星はまぶしかった。白と赤と橙が順繰りにちかちかと明滅する。暗闇のテレビ画面から放たれる光に似ていた。
「帰らないんですか。地球には」
珍しいこともあるものだ。掃除人がおれに話しかけるなど、初めてのことだった。
長い前髪は、ここでの経過時間をそのまま表したように色が抜けて白茶けており、その奥から青い瞳がのぞいていた。おれを見ている。
「帰れない」
「でもここで船を待っている」
「来ないことを知ってるから」
「来ると信じているんでしょう」
黒い服の掃除人は、赤い染みのある大きな布袋を難儀そうに肩にかついだ。中には死体が入っている。船外活動では人がよく死ぬ。
「やめたよ、とっくに」
おれの末路に目をやった。連日の負荷に耐えきれなくなった人体は唐突に破裂する。何度も目にした。あれらすべてがおれだった。そんな気がする。そしていまここにいるおれも、いつかのおれがすでに経験した。おれたちは延々と追体験を繰り返してきた。
「私はあなたの死体を片付けたくありません。だから地球に帰ってほしいです」
「無理だ」
船は来ない。誰もここで救われなかったように、おれも救われない。死ぬために生まれてきた、連続する集合体の一部にすぎない。
「どうして……」
掃除人の目は地球に似ている。が、一瞬、未知の星に見えた。明滅したのはホームの灯りだった。ばちばちと火花が爆ぜた。
「もう滅んじまった。そうだろ。おれは知ってるぜ。おれとあんたしかもう生きちゃいない。ごまかすなよ。おれはほんとうのことを」
「やめてくれ!」
大声で掃除人はさえぎった。掃除人も泣くことがあるらしい。おれをにらみながら、じゃまそうな前髪を濡らしてぼろぼろと泣いた。手を伸ばしてみたが、触れることはためらわれた。掃除人の涙が手に落ちてきて、薬指を伝った。
彼の喪服に残った数多の汚れのそのうちに、おれもいつか混ぜてほしいと思う。なるべく早く、未知の星が見えているあいだに。