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    cho_tyo

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    cho_tyo

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    弊本丸の化け猫ライダーの出会いのお話。
    これは村雲江が眠れないお話。
    豊前江が顕現した日のお話になります。

    かきかけだけど忘れたら困るのでメモ。
    と続きを書くために。

    眠れない夜は美味しいものを食べるに限るやけに静かな夜。
    パチリと目を開く。目の前は暗闇。布団から頭だけ出して周りを伺う。
    世界から音が消えた、というわけではい。同じ部屋に仲間達の寝息は聞こえている。
    ぐっすり寝ているようで、起こすわけにはいかなとなるべく音を立てずに布団から抜け出した。
    部屋の外に出ると、ひんやりとした空気が肌を刺してきた。
    冬は寒い。まだ春には程遠いと言っているようだった。じわじわと足先から冷えてくる。

    「明日も朝早いのにな……寝なくちゃいけないのに、寝れなくなっちゃうや」

    村雲江は小さくため息を吐いて空を眺めた。どうにもまだ寝るということに慣れないようで、度々寝床を抜け出して庭を眺めて時間を過ごす日ができてしまう。どうしようと、呟きながら、少しばかり悴み始めた指先を擦る。

    「じゃぁ、俺がいいもん作ってやるよ!」
    「うわぁ!」

    突然背後から声が降ってきた。村雲江は素っ頓狂な声を出して肩を大きく震わせた。後ろを向くとそこにはとてもにこやかな豊前江が立っていた。

    「豊前、なんでこんなところにいるのさ……」
    「いや、雲が部屋から出てくのに気付いてさ」

    多分寝れねぇんだろうなって思って追いかけてきた!と誰もが惚れてしまうだろうセリフと笑顔で答えた。村雲江は少しだけほっとしたような気持ちになった。うっすら涙の膜が張ったような感じもしたが気のせいだと思ってそのままにした。豊前江もきっと見えてないだろう。そう思いながら豊前江の方を見るといつの間にか随分先を歩いて行ってしまっている。まだ歩き始めてすらいない村雲江に気付いたのか、振り返って豊前江は言った。

    「雲!ついてこいよ!」

    そして豊前江は村雲江を連れて厨へとやってきた。

    「厨?何か作るの?」
    「まぁ、待ってなって」

    そう言ってお世辞にも手際が良いとは言えないが、何度か作ったことがあるようで、危な気ない手つきで鍋を出したり、冷蔵庫から牛乳を取り出したり、と準備を始める。
    コトコトと小さな鍋を火にかける。少しだけ明るくて温かい部屋。静かな空間に村雲江は少しずつ体中に入っていた力が抜けていくように感じられた。
    暫くしたら、ほんわかと湯気があがるマグカップを差し出された。中には茶色い液体が揺れていた。少し甘い香りが鼻腔をくすぐる。温かく甘い香りで更に力が抜けるようだった。

    「甘……美味しい。なに、これ?」
    「ホットココア」
    「こんなの作れたんだ。」
    「おう、俺も作ってもらったからな」
    「誰に?」
    「南泉に!」

    え、意外!と少しばかり失礼な返答をしつつ、甘い湯気を楽しむ。

    「豊前も眠れなかったんだ?」
    「そう。俺が顕現したばっかの夜になぁ」

    豊前江もココアがたっぷりと入ったマグカップを持って、村雲江の前に座った。なにやら楽しそうである。村雲江は、豊前江の話に耳を傾ける。入れてくれたココアが無くなるまで、と心の中でそう思いながら。またマグカップを少し傾けた。


    豊前江が顕現した。
    審神者が情景を春に変えて、暖かい日差しが差し込み、桜が咲く季節である。

    しかし夜はまだ上着を羽織らないといけないくらいには冷えている。
    広い部屋に布団が一組。
    豊前江はその布団に入って、天井を眺めていた。

    「どうやって寝ればいいんだ?」

    寝るということが分からないまま、横になって時間がどれくらい経過したのか……。
    目を閉じれば眠れると言われたが、どうにも眠ることができなかった。
    仕方なく布団から抜け出し、襖を開く。月の光が庭に差し込み、桜の木々や池を照らす。これが綺麗というものかと、少しばかり息を飲んだ。
    この本丸にやって来てまだ半日。わからないことばかりだった。歩いていればどうにかなるかと思いながら、豊前江は本丸を歩き回っていた。
    同室の篭手切江は、あいにく夜戦に行ってしまった。りいだぁのお世話ができなんて!と嘆きながら脇差連中に連れていかれてしまった。
    これからはいつでも会えるんだからと宥めて見送ったが、やはりそばにいてもらったらよかったと少しばかり後悔した。
    なるべく音を立てずに歩き回っていると、廊下の向こうから何か気配がした。
    どうやら夜更かしをしている仲間がいるらしい。小さな話し声が聞こえてきた。
    角を曲がって来て現れたのは金髪と銀髪の男士だった。話していたようだがすぐに豊前江に気付いて、視線をこちらに向けた。

    「あれ?君は、今日顕現した……」
    「おう!豊前江ってーんだ。よろしくな!」
    「初めまして。俺は山姥切長義だ。よろしく」
    「俺は南泉一文字だ。にゃ!あぁぁ……」

    見事に語尾に猫の呪いが出てしまった南泉は小さく呻いた。その様子を目の前で繰り広げられた豊前江は、小さく声を出して笑った

    「なんだ?かわいいな!」
    「そうだろう。彼は可愛いんだ」
    「うるせぇ!……にゃっ!」

    南泉が手に持つ灯りに照らされて、ぼんやりと浮き上がる彼らの顔がどうにも穏やかだったので、豊前江は少しばかり肩の力が抜けたようだった。

    「ところで豊前江、君は何をしているんだい?」

    山姥切長義が大きな青い目を細めて豊前江の方へ視線をよこした。どうやら怪しく思われたらしい。

    「いや、寝れねぇなぁと思ってふらふらしてたんだ」
    「あぁ、なるほど」
    「顕現したては寝るって難しいにゃぁ」

    南泉はうーんと何か考えを巡らせた。ほんの数秒ののち、そうだ!と踵を返して廊下を歩きだした。長義もついていく。

    「お前もついてこいよ!いいもの作ってやる。にゃ」
    「あぁ、アレ」

    南泉の提案に、長義も納得がいったようで、そのままどんどん進んでいく。豊前江が付いてきていないことに気づいたのか、二振はぴたりと足を止め振り向いた。

    「早く来いよ~」
    「お。おう!」

    手招きする南泉達に追いつくように、豊前江は小走りで廊下を進んだ。
    到着したのは厨だった。
    南泉は豊前江に座るように促し手際よく棚や冷蔵庫から必要なものを取り出していく。ココアに砂糖に牛乳、小さめの雪平鍋。
    ココアと砂糖を練っては牛乳を加え、それを繰り返していく。
    コトコトと鍋が火にかかる音が厨に響く。南泉も長義も道中たくさん話していたのに、今一言も話さない。長義は腕を組んで目を閉じていた。
    静かな時間がゆっくりと過ぎていくようだった。

    「なんか、悪いな。こんなにちゃんとしたものを作ってくれて」

    南泉の背中を見つめながら豊前江が呟いた。長義も音もなくそちらを向いた。

    「いいよ、俺たちも寒くて温かいものが欲しかったから、ついでにゃ」

    南泉は振り返ることなくそう言う。声から推測するにどうやら少し照れているようだった。長義はその様子をみて笑みを浮かべた。

    「そっか、あんがとな」

    少し暖かくなってきた厨に豊前江の声が溶けたようだった。

    「どうやったらすんなりと寝れんだろう?なぁ、南泉と長義はどうだった?」

    南泉が何かを作っている様子を見続けるのも飽きたのか、豊前江は尋ねた。
    二振は、うーんと声を出して思い出しているようだった。

    「俺は……日向ぼっこしてたらいつの間にか眠っちまってたから……わからねぇんだ、にゃ……」
    「実に猫殺しくんらしいね!」
    「うるせぇ!にゃ!」

    長義はすこし茶化すように笑った。南泉は恥ずかしそうだった。あまり参考にはならないかぁ、と豊前江は頬杖をついて、長義を見つめた。

    「俺、は……」

    長義は何とも歯切れの悪い様子で、豊前江の視線から静かに外れようとした。

    「こいつはな~」
    「ちょっと、猫殺しくん!」
    「なんだ?教えてくれ!」

    言いよどむ長義に代わり、南泉が口を開いた。あいにく火を使っているから簡単に傍へ近寄って話すを阻止できない。

    「顕現初日から、どうにも終わらねぇ事務仕事を夜通し手伝ってたら、いつの間にかぶっ倒れて朝になってたんだよ。にゃ」
    「……え?」

    南泉は笑いながらそう語る。豊前江は内容をしっかりと聞いて理解した後、やはりあまりよくわからないという表情で長義を見た。今度は長義が恥ずかしそうに顔を手で覆っていた。が、耳が少し赤くなっていたので、照れているのだなとわかった。

    「そういうことだから、俺もうまく伝えられない。悪いな……」

    なんとか振り絞って声を出したのだろう。若干震えているようだった。豊前江は笑っていた。

    「ただ、何もない時に寝るというのは些か難しい時もあったな」

    まだ少し耳が赤い長義が思い出すように話し始める。

    「目を瞑って、何も考えず、静かに時を待つ。そうすると眠れると教えてもらったが、それが出来ない時もある。」

    考えすぎてしまったり、体調や気候の変化に身体が付いていけない時だったり、そういう時は、と長義は続けた。

    「そういう時はどうすんだ?」

    豊前江は興味津々に続きを仰ぐ。長義は優しい表情を浮かべて、南泉の方を指さした。
    そこにはマグカップを持った南泉がいた。

    「これが一番なんだ」

    南泉は豊前江の目の前に差し出た。豊前江はそれを両手で受け取る。両の掌からじんわりとぬくもりが伝わってきた。
    マグカップの中にはとろりとした液体が揺れている。薄い胡桃色だ。甘い香りが部屋に漂っているのが分かる。

    「いただきます」
    「はい、どうぞ」

    一口飲むと甘くてそれがどうにも暖かく感じられて、全身に入っていた力がすっと抜けたような感じがした。
    体が軽くなったような気がする。ふわふわする、という表現が正しいのかもしれない。
    豊前江はゆっくりとホットココアを飲み進める。
    同じものを飲みながらその様子を眺める南泉と長義もどこか表情は柔らかい。
    ふあぁぁと豊前江は大きなあくびをした。カップは空になっていた。

    「よし、じゃぁゆっくり寝ろよな、にゃ」
    「あぁ、これなら寝れそうだ」
    「まだ寝れねぇってんなら、俺の部屋来いよ。話してたらいつの間にか眠ってるからさ」

    南泉はいたずらを企てるような表情で笑って見せた。

    「いや、篭手切が帰ってくると思うから、それはまた今度よろしく頼むわ」
    「おう!いつでも来いよ、にゃっ!」
    「片付けは俺たちでやっておこう、おやすみ。豊前江」
    「あんがとな!おやすみ」

    ふわふわと、ほかほかと、いろんな暖かい何かが体いっぱいになったような感覚を持って豊前江は厨を後にした。

    部屋に戻って布団に潜りこむ。体はまだぽかぽかとしていて、指の先まで暖かい。
    先ほどの出来事を篭手切江に話したいなと考えながら静かに目を閉じた。口元は自然と笑ってしまう。
    きっと篭手切驚くだろうなぁ、そんなことを思っていると、いつの間にか豊前江は寝息を立てていたのだった。


    「って話だよ」
    「豊前江も寝れなかったんだねぇ」

    村雲江は豊前江の話を聞きながらココアをゆっくりと飲み進める。豊前江も話しながら自分で作ったそれを懐かしむように飲んでいく。

    「はぁ、暖かくなってきた」
    「だろ?これ飲んで、ふわふわしてきたら寝れるぜ」
    「ふわふわするの?」
    「ふわふわすんだよ」
    「ふふ、豊前がふわふわするってなんか面白い」
    「なんだそれ」
    「ココア、ありがとうね」
    「どういたしまして」

    二人でココアを飲みながら、声も出さずに笑い合った。
    眠れない夜は、こうやって温かいものを飲んで体を暖かくして、小さな声で話をして少しだけ夜更かしをするのだった。
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