Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    cho_tyo

    @cho_tyo

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    cho_tyo

    ☆quiet follow

    雪が降ったら大はしゃぎしてほしいと思いました。
    私はこの二振りを多分小学生か何かだと思っているのかもしれない。

    いざさらば雪見にころぶ所までしんしんと雪が降る夜。本丸は静かに時が過ぎていく。これがこの本丸の初雪である。
    各々部屋で好きに過ごしている。寒さで布団に包まるモノ、複数で集まり話すモノ、酒を飲むモノ、台所で料理をするモノ、居間でくつろぐモノ、風呂で温まるモノ。
    本当に様々、自由に過ごしている。
    ある部屋では、五月雨江と村雲江が二振、炬燵に入ってゆったりと寛いでいた。炬燵机の上には定番の蜜柑と温かいお茶、そして篭手切江からもらった煎餅。
    頬は部屋の暖かさで少し赤く火照っていて、いつもよりも蕩けた様子である。


    「はぁ~寒いのは嫌だけど、温かい炬燵は良いね……」
    「そうですね、これも冬の季語……」

    ふわふわと湯気が上がる湯呑を少し傾けて、慎重に茶を啜りながら五月雨江が小さくつぶやく。村雲江は暖かさでぐんにゃりと机に突っ伏している。二振の顔はどこか幸せそうである。

    「……雲さん?」
    「うぅ~ん……」

    静かな部屋の中で、おのおのが居心地よく過ごしていたが、どうやら村雲江がうとうとしているようだ。
    五月雨江は小さな声で呼ぶ。ちょうどよい暖かさなのか、村雲江はすっかり夢の中といった感じで、小さな唸り声が上がった。

    「しかし、このままでは風邪を引いてしまうかもしれないですね」

    そばに置いてあったブランケットを眠ってしまった村雲江の肩へそっとかける。それでも気付かないくらいに深く眠っている村雲江の寝顔を眺めつつ、また湯呑を傾けた。先程よりもぬるくなった煎茶が暖かい部屋で乾いた喉にはちょうど良い。
    その様子が五月雨江の琴線に触れたのか、口元に笑みを浮かべた。

    「これも季語、ですね」

    ふふ、と声を出した後、また新たな季語を見つけたことに喜んでいるようだった。

    静かだが心地よい時間が過ぎていく。しんしんと、とは誰が言い出したのかはわからないが、降り積もる雪を眺めるこの状況にはとても合っていると思う。五月雨江は雪見障子越しに外を眺めた。


    「雨さん、雨さん……!」
    「……雲、さん?」

    どうやらいつの間にか寝てしまっていたのか、五月雨江は炬燵に突っ伏していた。起こしたのはブランケットを肩からかけた村雲江だった。心配そうな顔をしている。

    「炬燵で寝たら風邪ひくよ。俺に毛布かけて、雨さんが寝ちゃうなんてね」
    「これは、してやられました」

    二振りは凝り固まった体を解すように伸びをする。背の筋が伸びるのを感じて、少し目が冴えてきた。ぼんやりとしていた思考もはっきりとしてきた。
    そんな寝起きの五月雨江の視界に、やけに白んでいる襖が入ってきた。
    炬燵から飛び出して、逸る気持ちを隠すこともなく襖を開いた。
    瞬間、二振りの目の前には、庭一面の白が飛び込んできた。
    深夜降り出した雪は今なお振り続けて、しっかりと積もっていた。朝日に照らされた新雪がキラキラと輝いている。
    目の前を広がる光景を見て、二振りの目も輝いている。バッと振り返り、お互いの顔を見合わせた。

    「あ、雨さん!これ!すごい!」
    「すごいですね!雲さん!」

    興奮気味の二振り。五月雨江は高ぶる気持ちを抑えることなく、村雲江の手を握った。驚いた村雲江は、その手を離そうとしたが、五月雨江は離そうとせずそのまま縁側へと飛び出した。

    「あ、雨さん」

    戸惑い気味に問いかけると、わくわくとした表情で五月雨江が口を開いた。

    「いざ子供 走りありかん 玉霰 ですよ!雲さん!」
    「えぇっ、それどういうこと?」

    突然の一句に困惑する村雲江。その様子を見て、五月雨江は手を握っていない方の手で一面の新雪を指さした。

    「雪が、こんなにも積もっているのですから……」

    その一言で村雲江はハッと何かに気づいたようだった。

    「行くしかない、よね」

    握られているだけの手に力を入れて五月雨江の手を握り返した。それに気づいたのか、五月雨江は口元を緩めた。

    「ええ!行きましょう、雲さん!」
    「わかったよ、雨さん!」

    二振りは着の身着のまま、真っ新な雪の上へと勢いよく飛び込んだ。ふかふかの雪に二振りが沈み込む。起き上がるとそこにはクッキリと二振り分の人の形が付いている。それを見たら、次は足をさらに一歩雪へと踏み入れた。またそっと足を離すと、きっちりと足跡が現れた。
    それ見るや否や、さらに目を輝かせて、頭や顔、体中に雪をまとわりつけながら、新雪のそこら中に二振りは何度も飛び込み、そこら中を踏みしめて足跡を付けたり、大はしゃぎの様子である。

    「わん!」
    「わんわん!!」

    楽しいと言わんばかりの咆哮が早朝の庭に響いた。

    さて、雪と戯れてどれくらい経っただろうか?
    雪との戯れに満足した二振りは、まだまだ興奮気味な様子で縁側に座っていた。庭の新雪は二振りの遊んだ跡だらけだ。
    その様子を見ながらニコニコと笑う二振りは、頭のてっぺんから足の先まで雪が溶けてぐっしょりと濡れてしまっている。
    そんなこと一切気にせず、雪について語り続ける五月雨江の背後に、ゆらりと一振りの影が。
    それに気づいた村雲江は笑顔を一瞬で引き攣らせた。これが本物の犬であったら全身の毛を逆立てているだろう。それくらいには驚き震えているようであった。

    「雨さん!雨さん、後ろ!!」
    「え?」

    頬が赤いのは興奮しているからなのか、冷えているからなのか。頬が真っ赤になった五月雨江がくるりと後ろを振り返った。そこにいたのは、

    「二振り共、一体何をしているのかな?」
    「か、歌仙さん……」

    にこりと笑う歌仙兼定。しかしその笑顔には笑顔以外の様々な感情が浮き出ていた。
    歌仙はすぅと聞こえるくらい息を吸い、そして一気に言葉とともに吐き出した。

    「こんな朝早くから!君たちは一体何を考えているんだい!?自分たちを見たのか?全身濡れて、君たちもそこら中がびしょびしょじゃないか!いくら僕たちが丈夫だからといってもさすがに風邪を引いてしまうだろう!わかっているのか!それにこんなに濡らして後でしっかり掃除をしてもらうからね!」

    怒気と心配と情緒がないことと、色々な意味が含まれたお説教が降ってくる。それを聞いて、二振りは怒られて耳が垂れてしまった犬のようにしゅんとしていた。
    その様子に歌仙も少し慮ったのか、反省しているようだし早く風呂へお行き、とだけ言って厨の方へと歩いて行った。

    「怒られちゃったね……」
    「ふふっ。これもまた季語……」
    「雨さん~~また怒られちゃうよ~~」
    「いえ!歌仙さんの言う通り、風邪を引いてはいけません。湯に浸かって温まったら、こちらを掃除しましょう」
    「だね。」

    濡れそぼった犬2匹、足早に風呂へと駆けていく、雪の朝の光景であった。


    なお、濡れたまま風呂へと駆けて行ったのでその道中がさらに濡れて、歌仙がまた注意し掃除する範囲が広がったのはまた別のお話。






    いざ子供 走りありかん 玉霰
    さあ子供たちよ、霰がこんこん降ってきた。 元気に走りまわろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭👏💜💗💯🙏☺☺☺💞💜💗👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works