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    @rio_danmei

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    バーでイチャついてる花怜ちゃんの続きだったのですが書き上げたのにボツにしてた話。本編読了後にお願いします。慕情が謝憐まみれの家に侵入する話。

    現代万神窟その石像は髪の一本一本まで風を纏い、花は瑞々しく、硬い石の中にその人を閉じ込めてしまったかのようだった。

    「仙楽太子像……」

    こう呟いたのは慕情であった。

    時は西暦20XX年。
    消えた神官も居れば消えてない神官も居る。この慕情は掃除の神として未だ健在であった。彼は嘆かわしくもあったが、人一倍現実主義でもあるのでこの結果を受け入れた。刀の代わりにクイッ〇ルワ〇パーを腰に差して彼は夜道を歩い……てはいなかったが、謝憐の家に煮物を届けに行った。彼は謝憐の朋友であり仙僚であり仲間であるので、もちろん何の気兼ねもなく来訪した。

    残念なことに慕情はアポを取っておらず、家に電気はついていない。
    ああ、居ないのかと思い至った彼は普通に踵を返そうとし……視界の端におかしなものがうつった。

    家の庭から男がスルリと気配を消した夜行性の動物のように出てきたのだ。

    どれだけ信仰の種類が変わっても結局のところ武神は武神である。慕情の性質上、不審人物を見抜くのも誰かの後をつけるのも、不得意ではない。
    道に出た男は赤いコートを纏い、颯爽と歩いていて先ほどまでの怪しさはふっと消えた。しかし、フードを深く被り何かを懐に忍ばせてあるようだった。

    しばらく夜道を歩くと、男は或る一軒の大きな家に入っていった。

    慕情は躊躇いなくその家に不法侵入した。彼は一室の扉を開け、驚愕に目を見開いた。

    大量の石像が置かれていたのだ。

    そこは広く床は土間になっており、外からはわからないが居住用というよりもアトリエのようでもあった。
    室内なのでそこまでの大きさではないが、だがしかし、アトリエにある石造は全て……全て仙楽太子像であった。それが冒頭の彼の呟きであった。
    中央には布がかぶせられて像があり、それを取り去ると作りかけの石像がそこにもあった。それもまた謝憐である。花と剣を持った、紛うことなき花冠武神像だ。

    次に、慕情は隣室に滑り込んだ。
    そこには床があったし、きちんとした部屋になっていた。石像が置かれていた部屋はどうやら壁をぶち抜かれて改装が施されていたのだろう。

    そこには本棚があった。

    本棚にはびっしりとファイルが並べられている。
    多くの神々は皆、それこそ謝憐も、人の身体を取る時には時代に合わせてその時代に合った服装や髪型をする。
    ファイルの中の絵の謝憐も現代の洋服を着ているものから、かつての華服のものや道衣のものもあった。
    慕情はゾッとして、本棚に視線を向けた。ファイルの数はざっと見ただけでも1000冊は越えている。両面のファイル全てに絵が入っているとしたら、ポケットの数は50。両面に絵が入っているとして1冊100枚。1000冊で100000枚……。このファイル全部?全部に謝憐を?

    そこは仙楽太子の博物館のようであった。
    確かに神を祀る寺院の他に、かつて祀られていた神を保存する施設は存在していた。寺院の数は激減しても、現存する神はやはり祀られている。例えばこの慕情などは、ダイ〇ンのシンガポール本社に巨大な祭壇があるのだ。

    紅衣鬼王とガラクタ仙人の話は現代でも有名だ。
    三度目の飛昇後、徐々にその名誉を取り戻していった謝憐には熱心な信徒も現れた。
    三界の笑い種、ガラクタ仙人、疫病神、太子殿下、武神、太子悦神の名景や花冠武神の美名……。
    謝憐の評価はあらゆる方向に向いているが、それは掴みどころのない人とも言える。世界を滅ぼす力を持っていても、花を愛する心を失わない神に心奪われる人も多かった。
    だから、このような光景が存在してもおかしくはないかもしれない。

    しかし、これは少々度が過ぎているのではないだろうか。
    慕情が入った次の部屋は、壁一面、天井までも太子悦神図が張られているのだ。この量は……流石に異常である。どのような神に対しても、この数はない。

    …………。

    しかし、彼は遥か遠い昔、これに近い光景を見たことがあった。

    とある洞窟の神像群である。

    更に彼の思考は延長し、天庭が瓦解していなかったあの頃の思い出まで波及した。古い馴染みとその恋人を模したその神像は……神像は……巨大な玄真殿の庭のど真ん中で、あの精巧な二体の石像は………彼は考えることを止めた。これは彼の一つのトラウマであった。

    そう。こんな場所を作り上げるヤツを慕情はただ一人知っていた。
    改めて見てやはりこれは狂気の沙汰であった。

    …………。

    慕情は男の出で立ちを思い出す。……顔は、違った。
    だがそれがなんの証明になると言うのだろう。本相でいるときのほうが珍しい男だ。謝憐の前ですらあの小花とかいう姿で若作りをするくらいである。
    慕情は一階にある部屋全てを見たが、最初に入った一番広い部屋には石造が並べられ、次の部屋は本棚だらけ、更にその次の部屋には壁中に水墨画や油絵からデジタルアートまで幅広い手法の謝憐の一枚絵。その次の部屋には何やら作りかけの衣装まであった。隅には3Dプリンターまでおかれていた。

    慕情は思った。
    これ……絶対花城だろ、と。
    やはり彼が追ったあの男は花城だったのだ。こんなことするヤツは他に居ない。彼には確信しかなかった。

    その時、ふら……ふら……と紅いコートの男は部屋に入ってきた。
    霧の夜のガス灯の下を歩いてそうな男だった。男は家の中なのに、紅いコートを脱いでいなかった。

    この太子悦神図まみれの部屋には隠れられるような場所はなく、慕情は咄嗟に開けられた扉と壁の間に身を潜ませるしかなかった。
    男は扉を閉め、這いつくばって、舐めまわすようにファイルを眺めている。
    慕情は静かに気配を消して、男の背中を眺めていた。
    男はあまり花城に見えなかったが、あの紅衣鬼王はあまりにも多くの皮を持っている。謝憐の前では本相に近い姿しか晒さないが、他の場所ではそうとは限らない。
    慕情がそんなことを考えながら眺めていたが、急にカチャカチャと金属が触れる音がした。
    何をしているんだ?と慕情は彼に声をかけようとして、言葉を失った。なんと赤いコートの男はコートの前を開け、自分のズボンのベルトを外して、前を寛げようとしていたのだ。慕情は当然絶句した。

    ………コイツ、謝憐で自慰しようとしてる。

    慕情はシンプルに白目をむいた。

    これは花城のわけがない。

    まさか、花城以外にこんな場所を作り上げられる奴がいるなんて彼は信じられなかった。

    現代の世では、武神の地位というのはあまり高いとは言えない。

    人々から信心深さが失われつつあり、武が最大の権力を持たなくなった現世。
    武の力のみで信仰を維持することはとても難しい。

    実際に、例えばこの慕情は嘆かわしいことに掃除の神の扱いをされているし、謝憐はガラクタ仙人としての信仰(これは環境問題が懸念される現代では実はそこそこ高い地位である)が多いのである。
    しかし、謝憐の武神としての過去が失われたわけではない。仙楽太子像や太子悦神図などを見た者はその美しさに感動し、謝憐の波乱万丈な飛昇後の日々を憂う者も多い。彼の伝説を聞いて信仰というよりも虜となった者もいる。慕情はこの男もそのクチかと思った。確かに、とんでもない奴の方が謝憐には惹かれるものなのだ。
    実際に花城を筆頭として感情の方向性は異なれど、戚容に白無相。四大害のうち三人に酷い執着を向けられていたではないか。
    つまり、この謝憐のなんちゃって信徒はこのような場所を作り謝憐のことを信仰という名の欲望をぶつける対象にしているのだろう。

    「花城みたいにな」

    慕情がそう呟くと、まさか誰かが居るとは思わなかった男は悲鳴を上げて振り向いた。慕情が眉間に皺を寄せて、腕を振りあげると同時。

    部屋の扉が古びた洋館にシリアルキラーが入ってくることを連想させる音を立てて開いた。

    きいぃぃぃ———。

    「私はこのような不敬を殿下にはたらいたことはない」

    そこには深紅のレザージャケットに黒のハイネック姿の、完璧な均整のとれた男が立っていた。
    緻密に作られたニンギョウが、人の魂を持って動き出したらこんな男が生まれるんじゃないかというほど人並外れた美しさである。

    その目は異常に爛々として、怒りに燃えていた。

    重いブーツをゴトゴトと鳴らして入ってきた男は髪を乱雑に結っていた。
    それは無造作で、慕情の目にはだらしなく見えた。だらしがないのに、隙が無かった。
    長髪は闇夜に溶けてしまいそうなほど黒く、片目を覆う眼帯も黒い。髪に結ばれた紅珊瑚玉が深紅の瞳のように光る。

    花城である。

    美貌の鬼を見て、怯えのあまり呂律の回らぬ男が後ずさる。

    「私とこの方は運命なんだッ!お前はなんだ!お前っ、お前…っ」

    男は言いながら、落としたファイルを拾い上げたが、逆さまにしてしまったので中の用紙がパラパラと落ちてきてしまった。
    それをかき抱いて後ずさりしたのだから、紙はシワクチャになった。無論、そこに描かれていた謝憐の姿もくしゃくしゃになってしまった。

    花城は一瞬で怒りが頂点に達したといわんばかしに男の襟首を持ち、慕情のほうへと放り投げてきた。

    「!?」

    咄嗟に身を守った慕情に弾き飛ばされ、男は開けっ放しになっていた扉から廊下に転がるように飛び出した。男は懲りずに叫び声をあげる。

    「私はこの方を愛している!幼いころから彼を信望して崇めてきた!このような場所を見つけられたのもまた運命だ!!私の愛がこの場所を見つけさせた!!私はあの方の最も忠実な信……とッ……ガッ!!!!??」

    口を開きかけた男の胸元が蹴られた。

    「…………何を言っている?」

    びゅうびゅう風の吹き荒れる底の見えない谷底を覗き込んだか如く、悪寒がする声が花城の口元からどろりと流れた。
    慕情は唖然としたまま、隣でピクリとも動かなくなった男を見た。

    「お前が太子殿下を愛しているとして、それが太子殿下に一体何の関係がある?」

    花城の目は氷柱の先から滴りおちる雫のようだった。非常に透明度の高い瞳のまま、口元の端だけを吊り上げる人工的な笑みを浮かべていた。
    笑っているのに快も不快も感じられない不気味な微笑みである。

    「……殺してしまったんじゃないのか?」
    「まさか。なんでお前が此処に居る?」
    「こいつをつけてきた」

    隻眼の紅衣鬼王、花城は慕情に侮蔑の目を向けた。何百年たっても彼の慕情に対する態度は全く変わらなかった。

    謝憐は人間の身体を取っていても神としての本相と容姿を変えていない。

    ついこの間の話である。謝憐と花城はとある高級ホテルのバーに入った。
    男はそこのウェイターであった。

    男は元々仙楽太子に強い関心を寄せていた。そこに現れた仙楽太子像とそっくりな謝憐の顔を見て、男は強烈な感銘を受けたのだった。
    自身の目の前についに神が現れたのだと。
    その場には仙楽太子の真に忠実な信徒が居り、謝憐に奇妙な視線を向ける者の気配を如実に感じ取り、即座に術をかけて邪な視線から謝憐を守った。

    しかし、男の目には入店してきた際のオパールが歩むが如き立ち姿が目に焼き付いていた。
    長い睫毛と柔らかな髪がオレンジのライトに照らされて白いビーチの夕景のように輝いていた。

    謝憐のことを調べ上げ、謝憐の家と別荘を調べ上げたのである。
    家の窓を叩き割り、侵入して謝憐の私物を持ち出し、そのまま別荘に向かったのだ。

    「どうやってこの男はここを突き止めたんだ?まさかお前や謝憐がつけられたわけもないだろう」

    これは花城もわからなかったが、後に昏倒している男が目覚めて口を割ったので判明した。
    実は謝憐、SNSを実名でやっていた。顔も名前も住所もあげているし、このアトリエと自宅の位置情報付き写真までアップしていた。
    インターネットの心得が壊滅していた謝憐の痛恨のミスによって、この場所は特定されてしまったというわけであった。これに対して慕情が謝憐を罵ったが、花城は「申し訳ありません哥哥。私が正式な知識を哥哥にお伝えしていればこんなことには」と嘆いて謝憐にナデナデされて慰められていた。慕情はほとんど眼球上転といえるほど白目をむいた。彼の端正な美しさは台無しであった。
    まあ、それは後日談である。

    男を放置して消えようとする花城に、慕情は叫んだ。

    「おい!コイツの処理は私がするのか?!」
    「私が処理したらそれを消し炭にしてしまうだろう。私は明日までに哥哥に新作をお見せすると誓った。そのような廃物に関わっている余裕はない」

    花城はこの間謝憐と旅行に行った「日本」で着た、着物スタイルの一神一鬼の像を作るので忙しいのである。
    実はこの家はとんでもなく、下に巨大な地下空間が広がっている。そこには大量の巨大な像がさながら万神窟のように各領域に一つ置かれているのである。鬼王像もセットである。あくまで一階にある仙楽太子像は特殊な岩石や素材などで作り上げた奇をてらった特別な太子殿下なのである。花城はそれを見て謝憐とキャッキャすることが好きだった。ちなみにこの地下のものは後程慕情も見に行く機会があり、彼は度肝を抜かして口から魂が出た。
    まあそれもまた、後日の話である。

    とりあえず、慕情は呆れて呟くしかなかった。

    「やっぱりこの謝憐まみれの空間作ったのはお前かよ……」


    終。
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