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    @rio_danmei

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    天官賜福日本語訳一巻のパラレル。鬼市に千秋じゃなくて一真が同行メンバーだったら?と言う話です。地下闘技場で一真が瞬殺されます。
    以前shuten(@shutenkou)さんが一巻の郎千秋の紹介文が東方武神ではなく西方武神になってますけどこれ千秋じゃなくて一真が鬼市来てても面白いですよね~!って言ってたことにメチャ触発されて書きました。

    千秋じゃなくて一真が来てるのもそれはそれで見たいっていう。鬼市、鬼賭坊。


    「あ、あの巻き毛!一真だ」

    傍らの青玄の言葉に謝憐は彼の視線の先へ顔をむける。そこには確かに巻き毛の少年が居た。
    少年はこちらに気が付くことがなく、ふっとそのまま鬼の群れの中に姿を消してしまった。
    謝憐と風師は人も鬼も入り乱れるこの鬼賭坊で、共に行動するはずの西方武神・権一真と落ち合うこととなっていたのだ。
    噂通りの男である一真は奔放で、なかなか合流できずにいたのだが、ようやく見つけた途端にまた見失った。風師は「どこに行った!?」と驚愕と悲痛を混ぜた声をあげて、頭を押さえていた。謝憐は軽く彼の肩を叩いて「風師大人、私は右から貴方は左から坊内を手分けして探してみましょう」と声を穏やかに声をかけた。

    謝憐と青玄はくまなく探したが、あの少年武神の影も形も見つけることはできなかった。

    「……本当にどこ行ったよあいつ……」
    「……まさか仙僚と合流するまでにこんなに時間がかかるとは。いや風師大人、諦めてはいけません。もう一度探してみましょう」
    「……うん」

    謝憐は既にちょっとぐったりした青玄を励まし、二人はまた闇雲に鬼たちを掻き分け、目を皿にして巻き毛を探そうとした。

    その時、謝憐はふと、あることに気が付いた。

    「……減ってる?」
    「え?」

    鬼賭坊に居る人数が減っている。
    出ていく客もいれば入ってくる客もいる。当然、客は流動しているのである。
    最初、謝憐もただ単に遊びに遊んだ客たちが満足して帰っていくのだろうと思った。
    しかし、長い時間多くの特徴的な姿形を見ていれば何処となく違和感を覚えることもある。彼は賭坊の出入口の横に立った。
    謝憐は視野を広くして場内をよく観察した。

    「太子殿下?何をしてんの?」

    駆け寄ってきた青玄がコテっと首を傾げて聞いた。

    「おかしい」
    「何が?」
    「消えている」
    「え?」
    「さっきまでいた自分の腕を咥えた右足の無い鬼も、人の皮の襟巻を巻いた首無し鬼も居ない。鬼が減っている。ここから出てない」
    「それはどういう?ほかに出入口があるの?」
    「わかりません。どこに消えていっているのか」

    風師と謝憐は賭坊を歩き、やがて一体の鬼に目を付けた。
    その鬼は一応人型ではあったが、キアゲハの幼虫を連想させる黄緑と黒の縞模様に赤い点が散らばる不気味な体色の鬼だった。

    「あの鬼、どこの卓にもつこうとしないのに、賭け金の確認ばかりしている」

    謝憐が言った。

    「単純に遊びたいのにお金がないのかもよ?」
    「そうかもしれない。でもここでは金銭がなくても賭けられるものがあれば参加できます。賭け坊の女性に声をかけては何度も断られているようにも見える。金がなければいけない理由があるのかも」

    謝憐と風師は顔を見合わせ、鬼に声をかける。

    「やぁ!よかったら金を貸してやろうか?ン!いや、貸すなんて貧相なことは言わない。やるよ!これで楽しんで!!」

    そのような気前の良いことを言うのは、やはり師青玄である。
    鬼は当然に警戒を露わにしたが、宥めるような柔らかな物腰で謝憐が続ける。

    「貴方を騙そうというわけではないんです。ただ、もしかしてこの鬼賭坊。私たちの知らない遊び場があるのではないかと思いまして」

    やはり鬼は警戒を解かないながらも、青玄から渡された袋を開いた。
    そして、その中で輝きを放つ金箔を見て、口をパカンと開けた。鬼の口は人形のようにカコッと「落ちて」しまいそうであった。
    謝憐は思わず、手を伸ばして鬼の顎を受け止めそうになる気持ちをぐっとこらえて朗らかに笑って言葉を続けた。

    「私たちは随分と遠くからやって来まして、あまり頻繁には来れません。せっかく鬼市の鬼賭坊まで来たんだから骨の髄まで遊びつくしたいと思ってるんです」

    これは暗に、金を渡してやるから貴方が行こうとしている場所に私たちも同行させてほしい、と言っているのである。
    謝憐と青玄はニコニコニコニコして自分たちに悪意がないことを全身で訴えた。
    鬼は顎を嵌めて、口をピタリと閉じてゆっくりと頷く。

    謝憐たちを手招きし、また先ほど話しかけてあしらわれていた賭坊の女鬼に話しかけた。
    女鬼はうっとおしそうに追い払おうとしたが、その手にある金子と後ろの謝憐たちを見て急に態度を変えた。その目は明らかに謝憐に向いていた。

    「公子、こちらへ。私の後ろに着いてきてくださいな」

    女鬼は盛り上がっている大広間を抜けて、坊の奥まった方へと向かう。
    謝憐は大広間を去る際、長い卓の奥にある主が不在の寂しそうな椅子が何故だか気になった。この賭坊の主が座るのだろうか。
    とにかく今は女鬼について行かねばならぬ。女鬼は何故か今通った道を踵を返して「戻って」もう一度通る……といった奇妙な動きをした。
    謝憐たちが声をかけた黄緑の鬼も黙ってそれに追随するので、二人もそれに従った。

    「こんなところに階段なんてあったっけ」

    やがて、女鬼が足を止めた先で青玄が言った。謝憐も目を見開く。廊下の端に下階へと続く階段があったのだ。階段は薄暗くて、あまり広くはない。

    「今までいた場所は一階ではなかったのだろうか。地下?」

    また青玄は呟いた。
    二人の神官は再び顔を見合わせたが、鬼が下りていくのでついて行くしかない。

    その先には一つの扉があった。
    扉が内側にゆっくりと開いていく。
    中から大広間に負けず劣らずの喧噪が漏れだしていく。
    案内を務める女鬼が振り返り、艶やかに微笑んだ。

    「では、ごゆっくりお楽しみください」


    ***


    「俺はあのキンキラの小僧に今日の勝ち金を全額賭ける!」
    「やれ!殺せ!!お前に賭けてるんだ全員コロセ!!」
    「あのガキ今んとこ何体倒したァ!!?」
    「アイツが上がってきたせいで全部パァだ!!」

    扉の先にあったのは、大広間の最も大きい卓を上回る盛り上がりだった。

    鬼たちの熱狂は相当なもので、ある鬼は緋色の舌が口から零れ落ちてしまい忘れており、またある鬼は盛り上がりすぎて眼球をポンッと飛びださせその奥のてらてらとした赤黒い眼窩が見えていた。
    猛烈な歓声と怒声がそこにはあり、びりびりと肌に刺さるようだ。
    勢いに気圧され、謝憐も青玄も思わずたじろいで溢れかえる大音声に耳を覆った。

    「闘技場か!」

    青玄が叫ぶ。謝憐も承知した。
    そう。此処では闘いの勝敗を賭けているのだ。鬼賭坊で賭けるものは、殆ど金ではない。しかし、このような大人数が一つの勝敗について賭ける場合には掛け金の配当の関係上、賭物を統一しなければならないのだろう。だから金が必要になるのだ。
    しかし、それでは賭け坊の主義に反している気もする。金銭を更に自分の望むものに変換する方法もあるのかも知れない。

    中央では、向き合う二つの影が殴り合っている。

    否、正確に言えば対戦している一方の少年が相手を圧倒している。

    「何やってんのアイツ!?」

    青玄が先ほどとは比にならない声量で目を白黒させて叫ぶ。傍らのその反応と少年の特徴的な巻き毛や戦い慣れた姿に、謝憐は彼こそが西方武神・権一真であることを察した。

    気がつけば、此処に案内した女鬼もあの芋虫柄の鬼も消えていた。
    謝憐が近くに居た鬼の一体にあの巻き毛の少年は何故、此処に上がっているのかと聞けば、面倒くさそうに「ああ!?あのガキは賭け坊で賭けもせずに散々飲み食いしたんだよ!それであそこで血祭にしてやろうとしたら、逆に全員叩きのめしちまった!!」と非常に明解に説明してくれた。

    一真は既に何十勝もしているようで、彼が何連勝するか鬼たちは賭け始めている始末である。

    殴られた鬼が完璧に失神した瞬間、試合は終わる。
    けれども、息をつく間もなくまた新たな腕に自信のある者が名乗り出てくるのだ。これでは一真に声をかける余裕などない。
    謝憐と青玄がどうしようかと思案しているうちに三体ほど叩きのめしていた。
    試合の審判をしているのは泣き顔の面をつけた黒衣の人で、一真がやりすぎる前に絶妙な塩梅で判定して彼を止めた。
    一真はなんとも言えない表情で審判を見つめたが、面の人はなんの応対もしようとしなかった。

    物足りないのだろうと謝憐は思った。それを裏付けるかのように一真はこう言った。

    「物足りない。誰かもっと強い奴と闘いたい」

    そして、ぐるりと会場に居る妖魔鬼怪たちを見渡し、一方向に視線を定める。

    「あんたと闘いたい。あんたが此処で一番強いだろ」

    一真は真っ直ぐ、重ねられた紗の裏側に居る影を見つめていた。
    それで謝憐は此処にも上の大広間のように紗の幕があることに気がついたのだ。
    一つ違うのは、上の賭場では幕は上がっていて一脚の椅子が見えていた。
    しかし、此処では幕が下りている。
    そしてその裏には誰かが居るようだった。

    鬼の群衆から一斉に「アイツ頭がおかしいのか!?あの方が誰かわかってないのか?」と喚き声があがる。
    視線の先。紅い紗の裏側から、くつくつと低くて深みのある笑い声がした。
    それは濁流のような喧噪の中で、不思議なほどに耳にすっと入ってくる。

    「凶にも満たない一介の鬼を叩きのめして、物足りないとは。全く持って貴様ららしいことだ」

    謝憐が聞いたその声は間違いなく、あの数日間を共に過ごした彼のものであった。
    しかし、記憶の中よりも幾分か低く、少年の溌剌さはそこにはなかった。
    その代わり、自負心という名の彼に相応しい傲慢とそれとは対照的な優雅さが絶妙な加減で入り混じり、耳に良く馴染んだ。

    「相手をするのか?」

    一真の声に花城は答えず、代わりに野次が飛んだ。

    「調子に乗るな!!いくらそこそこ強いと言っても俺たちの城主がお前なんかを相手にするわけないだろう!!」

    一真は首を傾げる。

    「一番強いのはアイツじゃないのか?」
    「城主が一番強いに決まってる!!」
    「俺は一番強い奴と闘いたい」

    鬼たちはこいつは頭がおかしい!と大いに憤慨した。
    一方、息を飲んで「城主?鬼市の主?」と言ったのは師青玄であった。

    「嘘だろ。あの後ろの人って、まさか例のあの人!?血雨探花?」
    「ええ……彼です」
    「確かなのか!?」
    「確かです」

    花城がこんな挑発に乗ると謝憐は思わなかったが、如何せん彼は悪戯好きだ。もしかしたら、と思った直後、椅子から立ち上がった気配がした。

    「お前は一番強い奴と闘いたいという。俺もそうだ。最も強い者でなければ俺と刀を交わす権利などあるわけがない。お前では物足りない」

    この言葉には謝憐も青玄も驚いた。二人は目くばせし合って言葉を交わす。
    花城はおそらく一真が鬼や人間の類ではないと気がついているようだが、厳密な正体はわからないのかもしれない。そうでなければ武神相手に尊大すぎるだろう?

    「でもここは彼の地盤であり、彼が王です。三郎は慕情や風信にもかつて挑んでいるのだから一真もかなり厳しいはずです」
    「だとしてもやはり血雨探花はとてつもないな。あれじゃあ、もっと強い人が此処にいるみたいにも聞こえる」

    その時突然、一真は花城との問答が面倒になったのかわからないが床に転がっていた今までの対戦相手の武器の槍を取って適当な風に花城へと投げた。
    適当に見えたのはその投げ方であって、別に槍は優しく投げられたわけではなかった。
    風を切る音がして、その槍はまるで空間に引かれた一本の線のようだった。
    つまりは、ついに鬼市で鬼市の主に勝負を仕掛けてしまったのだ。
    青玄は悲鳴をあげ、天を仰いで、嘆くしかなかった。

    「死んだ。これは死んだわ」

    しかし、その槍が紅幕の裏の人の元に届くことは無かった。
    空中で止まったわけでもない。花城は確かに片手を持ち上げかけていたが、その前に割って入った人に槍が叩き落されたのだ。
    一真はぽかんとして、その人を見つめた。紗の裏からも反応はない。

    そこに立つのは、白衣の道士であった。
    彼は権一真に向かって微笑む。
    そしてくるりと踵を返して紅幕の向こうにいる人にも一礼した。

    「城主、恐れながら申し上げます。先ほどのお話し、城主は最も強い者と試合をしてくださると受け取りました。もし、この者に私が勝利を収めることができましたら、私が城主のお相手となってもよろしいでしょうか?」

    幕の裏からは、含み笑いと「ええ」という短い返答。謝憐は感謝した。

    一真は突然の闖入者に目をパチクリさせていたが、謝憐を倒した後に花城を相手にすればよいと思ったのだろう。すぐに身構える。

    少し集中すれば「なんだあの道士!?何者だ」「あの槍を止めたぞ?」というざわめきに交じって「太子殿下!?あんたまで何やってんの!?あれ?!さっきまで隣に居たよね!?どゆこと!?」という青玄の混乱しきった声も聞こえてくる。
    謝憐は泣き笑いするしかなかったが、このまま一真を放置しているわけにはいかなかったのだ。

    試合が始まるとすぐに、謝憐は笑いながら無警戒に一真に向かって歩いていった。
    構えていた一真は空城の計よろしく隙だらけの謝憐に微かに混乱した直後、目にも止まらぬ速さの手刀が巻き毛の少年の首に落ちた。
    グラリと倒れかける一真を謝憐は支えて素早く抱き上げる。

    これには目撃した誰もが唖然として言葉を失った。
    そんな中、謝憐は一真を抱き上げ、悠然とした足取りで青玄へと受け渡す。
    青玄は口を金魚みたいにパクパクして、謝憐を指差したりしていたが、気絶した一真を受け取ると風のように退散した。

    さて、一真に話しかける隙がなく任務のことを伝えることができなかったため強行したが、ここまで注目が集まってしまってどう切り抜けるか。

    まさか本当に三郎と闘うわけにはいかないし……。

    武神のやり方で一瞬で一真を回収した謝憐であるが、どうやってここから退散したものだろうか。
    謝憐がそう思って頬を掻いていると、ぱち、ぱち、ぱち、と断続的な拍手の音が静寂を壊した。

    「さすが哥哥。見事です」

    哥哥!?という衝撃が会場中の鬼たちすべてに、雷光が如く走った。

    そしてついに、紅衣の人が紗の裏側から現れたのだ。

    それは少年とも男ともいえる姿だった。
    銀で統一された繊細な装飾。腰に下げられた奇怪な湾刀も銀だった。
    紅衣に散る黒髪の中には、細い三つ編みが一本だけある。
    そこには紅珊瑚玉が結ばれていた。

    謝憐がぼんやりとその姿を見つめていると、彼は悪戯っぽく笑った。

    「それで、哥哥が三郎の相手をしてくれるの?」

    美しい紅衣の鬼の全貌を謝憐は見た。
    しかし、彼のその一方の瞳は黒い布で覆われていた。





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