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    @kohako585

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    ボーダーだけど、原作軸のボーダーとは違う世界線で迅嵐
    一種のパロディ

    昼時の学食は混み合うので、少しだけ時間をずらして一時半頃訪れると、ピークを超えた学食は、自分と同じような事を考えている学生がちらほらいるだけで、空席が目立つ。
    朝から決めていたアジフライ定食を頼んだら、他に唐揚げが二つついてきて、あれと思った。いつも小鉢はついてくるけれど、唐揚げはついていないはずだ。
    「えっと……」
    「おにーさんカッコイイから、おまけ」
    カウンター越しに「内緒ね」と続けて言ったのは、自分と同じ年齢くらいの男だった。
    この学食の厨房には、自分の母親よりも年上と思われる女性達ばかりが勤めているから、若い男がいるのは新鮮で、思わずじっと見てしまう。
    最近入った人だろうか。ここ二週間程は学食には顔を出さずに、家から弁当持参だったり、コンビニだったので、いつ来た人なのかは分からない。
    おばちゃん達と同じようにエプロン、三角巾、マスクという厨房スタイルなので、その顔をしっかり見ることはできないが、頭の白い布の隙間から覗く薄茶色の髪と、吸い込まれそうな美しい青い瞳が印象的な青年だった。
    目が合うと、彼はその碧眼をふわりと和らげる。口元は見えないけれど、きっと優しく笑っているのだろう。
    「どした?」
    「あ、す、すみません……、これ、ありがとうございます」
    「どういたしまして、じゃ、またあとで」
    「あと?」
    「こっちの話。食べないの?」
    「あ、そ、そうだ」
    余りにも不躾にじろじろ見すぎた。コホンと咳ばらいを一つ、慌てて定食の乗ったトレーを手にその場を離れる。でもしっかり胸元のネームプレートをチェックするのは忘れなかった。
    『迅悠一』
    じんゆういち。
    何故かドキドキと鼓動が早くなっているのを感じる。しばらく弁当を持ってくるのはやめようと決めた。





    嵐山はごく普通の大学生だが、一つだけ、人には言えない秘密があった。
    界境防衛機関ボーダーの隊員として、人知れずネイバーと呼ばれる謎の物体からこの世界を守っている。
    『〇丁目付近にて、ネイバー目撃情報あり』
    嵐山はインカムに入ってくる通信に従い、〇丁目に向かっていた。
    このように出動命令があれば、トリガーと呼ばれる装置で対ネイバー用に換装し、駆けつける。
    換装すれば、身軽に、例えばビルからビルへ飛び移ることも可能だ。ただし、テレビでよく見かける魔法少女のように、可愛らしい変身シーンはないし、キラキラフリフリの衣装になるわけでもない───もしなっていたらボーダーなんてやっていない───。
    一般人に紛れ込みやすいようにダークスーツ姿で、腰のホルスターには刀のような武器を下げている。
    それは弧月と呼ばれ、見た目は刀そのものだが、鞘から抜き放つと刃の部分は黄金色に輝くブレードとなって、硬いネイバーの装甲をも貫く。
    音もなくビルの間を駆け抜ける嵐山の眼前に、曲がり角から突然黒い影が飛び出した。
    「……っ!」
    目標のネイバーかと思い咄嗟に弧月の柄に手をかけたが、紙一重で衝突を避けたのは一人の男だった。
    こちらに気付いて、チラっと一瞬その青い目を嵐山に向けたが、男は何も言わずに前を駆けていく。
    換装して身体能力の上がっている嵐山の前を行けるということは、一般人ではない。
    嵐山と同じダークスーツに、腰には弧月。
    薄茶色の髪と、全開の上着にネクタイをなびかせて走るその男は。
    「迅悠一!!」
    「フルネームっ」
    前から「ははっ」と愉快そうな声が聞こえてきた。学食のカウンター越しに見た男が、目の前を走っている。
    「嵐山、また会ったね」
    一速スピードを上げて彼の隣に躍り出れば、迅は視線は前方のまま、にやりと口角を上げた。
    「またあとで」と迅が言った意味がやっと分かったが、こうしてまた会うことがなぜ分かったのか。
    「どういうことだ!?」
    スピードを落とさずにビルの間を駆け、壁を蹴って障害物を避ける。着地と同時に、通りがかりの野良猫が甲高い声でひと声鳴いた。
    「おまえ大学で有名人だろ。おばちゃん達が色々教えてくれたぞ。嵐山准、大学イチのイケメンで、モデルやってる」
    噂に尾ヒレがついている。モデルをやらないかと声をかけられたのは確かだが、その件ははっきりと断った。
    「やってないし、そういうことじゃない!」
    「おれもボーダーなの、この辺にネイバーがいるって情報が入って、おまえの大学に潜入して様子を伺ってたんだけど、任務が被ったみたいだな」
    「そんなことあるのか」
    「実際こうしてあっただろ、まあ一人より二人の方が仕事は早く片付く」
    「そうだな」
    きゅっと革靴がアスファルトを擦る音とともに、二人のスピードが落ちる。
    会ったばかりの二人が見せた絶妙なコンビネーションで、いつの間にか袋小路に追い詰められたネイバーが、最後の悪あがきとばかりに大きな両腕を振り上げた。
    嵐山と迅が、横目で視線を合わせたのはほんの一瞬。
    「旋空」
    「弧月」
    腰を落として抜刀の姿勢で構えた二人の声が重なった。その瞬間二本の光の刃が空を裂き、ネイバーの白い装甲はバラバラになって崩れ落ちた。





    駆けつけた事後処理班の手際のいい仕事によって、ネイバーは跡形もなく回収されていく。
    それを黙って見守っている静かな背中に声をかけた。
    「迅」
    このネイバーを追っていたということは、倒してしまえば任務は完了だ。迅が大学に潜入している意味はなくなって、彼との接点もなくなる。
    心の中にじわりと広がる喪失感に、嵐山は戸惑った。
    出会ったばかりの彼に対して、どうしてそんな風に思うのか。片手で首のうしろを擦りながら、彼の隣に立って作業の様子を目で追う。
    「……また会えるか?」
    「もちろん、会えるよ」
    するりと当たり前のように迅の口から紡がれた答えに、嵐山は目を瞠った。気休めで嘘をついている風でもなく、迅の青い目はまっすぐに嵐山を捉えている。
    「どうして分かるんだ?」
    「おれには、未来が視えるんだ」
    「未来……」
    「ボーダーはこれから大きくなって、市民に認知される。その時、嵐山は嵐山にしか出来ない仕事を任される」
    「そうなのか」
    「信じる?」
    「うん、信じるよ」
    躊躇わずに頷いた嵐山を見て、優しい空色の瞳がふわりとゆるんだ。
    嵐山はその日が早く来ればいいと思った。この優しい笑顔がまた見たいと、そう思わずにはいられなかった。





    ボーダー内で「伝説の会見」と称されることになる記者会見を嵐山が盛大にぶちかまし、想定外のことに迅が椅子から転げ落ちて、二人の間で甘酸っぱい何かが始まるのは、この半年後のことだ。



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