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    hitotose365day

    @htts611_365days

    好きなものをだらだらと
    駄文ですがあげる予定です

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    hitotose365day

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    文食満の日おめでとうございます
    くっつくまでの短い話です

    #文食満
    manjoman
    #文食満の日
    #忍たま腐
    ninjaSpiritRottenEggs

    たった一言の言の葉を珍しく予定もなく揃った六年全員で長屋前の庭先で鍛錬することになった。各々の得意武器は庭先では危険だと言うことで組手をする事になった。今はい組とろ組で組手をしているのを同室の伊作と休憩をしながら眺めている。
    「文次郎、前よりもキレが良くなったなっ!」
    「鍛錬量なら、俺が一番だから、なっ!!」
    文次郎と小平太が合間に言葉を交わす。体力バカの小平太に褒められて文次郎は嬉しそうだ。俺との場合、こんな穏やかな空気にはならない。ついさっきも言い合いになり、鍛錬どころではなくなると周りに止められたばかりだ。
    「ねぇ、留三郎」
    「ん、何だ伊作?」
    隣から掛けられた声に視線を移す。竹筒を差し出され、俺は素直にそれを受け取った。冷たい水が喉を潤してくれる。
    「随分と熱心に見てるね」
    「そりゃ、勉強になるからな」
    自分以外の相手の動きを見て、いい所は吸収したいと思うし何より忍務の際の連携にも重要だ。個別の忍務や、委員会の仕事、最上級生だからかこうして全員揃うのは本当に久しぶりなのだ。学べるところは学んでおきたい。
    「えー、ほんとにそれだけ?」
    「?」
    何か言いたげな、含みのある伊作の言葉に俺は首を傾げる。
    「文次郎に告白、しないの?」
    「はっ?!えっ!」
    驚きで素っ頓狂な声が出た。
    次いで一気に顔に熱が集まるのを感じる。
    「あはは。留三郎、耳まで真っ赤だよ」
    まるで紅葉の葉のようだ、と伊作が続ける。楽しそうに笑う伊作だが、俺はそれどころでは無い。自覚は無かったが、そんなに分かりやすく見てしまっていたんだろうか。
    顔を合わせればケンカになる、文次郎の事を俺はいつの間にか好きになっていた。この気持ちは己の内に秘めておこうと誰にも話したことは無い。伊作に知られているなんて思ってもみなかった。
    「好き、なんてアイツに言えねぇよ」
    「そんな悠長なこと言ってていいの?僕達もうすぐ卒業しちゃうんだよ?」
    「俺たちは今の関係が一番いいんだよ」
    そう、犬猿の仲と言われようがあいつの唯一無二の好敵手で居られるのならそれで満足だ。
    ふ、と目の前に陰が出来、顔を上げれば目の前に文次郎がいた。いつもと違う真剣な顔付きで。何故、ここに?鍛錬はどうした、と問おうとしたら文次郎が先に口を開く。
    「留、今の言葉、本心か?」
    「はっ、もんじ?!聞いてたのかよっ?」
    本人には決して言うつもりはなかった。そのまま想いをしまい込んで卒業するつもりだったのに。文次郎本人に知られてしまった恥ずかしさと居たたまれなさで思わず立ち上がり、足が駆け出していた。
    「あ、待て!」
    直ぐさま文次郎が追いかけてくる。今し方まで小平太と組手をして疲れているだろうに物凄い勢いで俺を追いかけてくる。
    「追ってくんな!!」
    「バカ留!俺の話も聞け!!」
    「聞きたくない!」
    何を言おうとしているのか。大方、俺への文句だろう。卒業前に今の関係すら失うのは嫌だった。この学園での六年間は良い思い出として大切にしておきたいのに。
    捕まる訳には行かないと、足を前へ前へと踏み出す。
    さっきまでの晴天はどこへやら、空も俺の心を映したかのように暗雲が立ち込めてくる。遠くでは雷の音も聞こえてきて、途端に降り出した大雨に地面が泥濘む。それでも必死に走っていたのに、俺の後ろ手を文次郎に掴まれてしまう。手首を掴まれ、引っ張られた勢いのままにきつく背後から抱き締められてしまう。
    「っ、離せ、もんじ!」
    「離すか、バカタレ!」
    俺の前で固く交差する文次郎の腕を振り払おうと抵抗するも、ビクともしない。雨で重みを増し、濡れた忍服が不快だ。冷たい雨に体温が下がっていくのを感じるのに文次郎が触れている部分だけが酷く熱く感じてしまうのは何故なんだろうか。
    「俺も、お前が好きだ」
    「っ、情けなんていらねぇよ!」
    文次郎の言葉が信じられなかった。そんな訳あるはずない。声を荒らげて抵抗すれば、離すまいと文次郎も力を強めてくる。
    「んなもん情けでこんな事言うわけ無いだろうが!バカタレ!」
    未だ逃れようと藻掻く腕を押さえつけられ、どうしたら良いのか分からない。
    「言え、留」
    言うまで離さん、とより一層腕に力が込められた。骨が軋んで痛い。
    俺の意思なんて関係ない、と言わんばかりの強引な言い草。そのくせどこか縋るような声色に俺は思わず口を開いていた。
    「っ、好き。お前が...文次郎が好きなんだ」
    ああ。
    抑えていたのに。
    溢れ出してしまったこの想い。
    たった一言言葉にしてしまえば止められなかった。幸いなのは、きっと情けない面をしているであろう、自分の顔を文次郎に見られずに済んだことだろうか。そう思っていたのに、腕の拘束が解かれたかと思えば、文次郎の方へと体ごとひっくり返されてしまう。
    顔を見られたくなくて思わず視線を地面に向けようとすれば、文次郎の手に阻まれる。絡まった視線の先には、普段俺には見せないような笑みを浮かべる文次郎がいた。そんな優しい顔、出来たのかよ。
    「留三郎、俺もお前が好きだ。この言葉は嘘偽りねえ。俺の本心だ」
    次いで告げられた文次郎の言葉。
    真っ直ぐに俺を見つめる文次郎の真剣な眼に、言葉に嘘ではないのだと俺に伝えていた。
    「俺だってなぁ、お前とのこの関係壊したくなくて悩んでたんだぞ」
    今度は正面から抱きしめられる。
    文次郎の顔が肩に乗り、耳元でぽつりぽつりと語り始める。
    「あんなの聞いたら、我慢できんだろう」
    「な、なんか、すまん」
    「いや、お前の気持ちが知れて良かった」
    俺の肩から顔を上げた文次郎が、濡れて額に張り付いた前髪を存外優しい指先でかき上げてくる。普段と違う雰囲気に俺は心臓が爆発するんじゃないかと言うくらい音を立てていた。
    「なぁ、留。俺は今まで通りお前の好敵手でありたいと思うし、恋仲にもなりたいんだが」
    「こ、恋仲?!」
    「なんだ、お互い好き合ってるなら恋仲になりたくないのか?」
    「い、いや待て!俺とお前が付き合うのか?」
    そもそも三禁は?学園一忍者している文次郎の台詞とは思えない。まさかこんな展開になるとは思ってもいなかったから、頭が追いつかない。俺自身文次郎に気持ちを伝える気もなければ、まさか互いに好き合っていて恋仲になれるなんて想像もしていなかったのだ。
    「俺とお前以外に誰がいんだよ!」
    「そ、そうだけどよ…」
    「お前の気持ちも知った以上、俺は引かねぇからな」
    掠めた鼻先。
    唇に温かいものが触れる感触に驚きで声も出なかった。
    「留、」
    文次郎が何か言おうとした瞬間、周りの音が掻き消えるくらいの土砂降りの雨が俺達に降り注いだ。
    「とりあえず、長屋に戻るぞ!」
    「お、おう!」
    文次郎に手を引かれ、俺達は元いた長屋まで全力で走った。


    俺と文次郎が並んで六年長屋に戻れば伊作が一人変わらず待っていてくれた。他の三人はこの雨で鍛錬が中断になり、風呂へ行ったらしい。
    「良かったね、留三郎」
    俺達の様子に伊作は笑顔で迎え入れてくれる。雨の中並んで戻ってきたところを見て、全て悟ったのだろう。伊作の言葉が素直に嬉しかった。そして俺を手招くと準備してたであろう手縫いで濡れた髪を拭ってくれる。
    「風邪引かないように。ほら、文次郎もこれ」
    「ああ、すまん」
    もう1枚の手縫い文次郎に手渡す。その間も俺を拭う手は休めずに。その手の優しさだけで伊作が俺をどれだけ大切にしてくれているのかが解る。
    「ありがとう、伊作。俺、伊作の事も好きだからな!」
    「分かってるよ、留三郎。僕も留三郎の事大好き!!」
    「おい、留!俺とそういう関係になったんだから伊作との距離感考えろ!!」
    「はぁ?俺たちはこれが普通なんだよ。心狭ェな、文次郎くんは」
    「そうだよ、文次郎。僕達のことなんて今に始まった事じゃないだろう?」
    なんてったって六年間苦楽を共にしてきた同室なんだから、と伊作は楽しそうに話す。
    「留三郎のこと、悲しませたりしないでよ?」
    「…あぁ、そこは努力する」
    「ちゃんと約束してくれないと留三郎は渡せないなぁ」
    「ぐ、」
    伊作に抱きしめられる俺を見て文次郎が不満そうにこっちを睨んでくる。文次郎に嫉妬されるのも悪くないと思ってしまった。
    冷えた身体に思わず俺と文次郎が盛大にくしゃみをする。
    雨は小雨になっていた。
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