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    usizatta

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    花と海とポケモンの楽園【本人の考えるところ二】
     先日知り合った子どものトレーナーが、タウンマップを広げながら次の目的地はキンセツシティだと言っていた。
    「キンセツに着いたら、サイクリングショップに寄ってみるといいよ。折りたたみの自転車を手に入れると探検できる場所が広がるからね」とボクはアドバイスした。すると、この子もサイクリングショップのチラシを見たことがあるらしいことが分かった。
    「マッハ自転車かダート自転車、どっちにしようか迷ってるんですよ!」
    「確かに迷うね。それぞれの自転車で探検できる場所は変わるからね」
    「ダイゴさんは僕くらいの時、どっちの自転車に乗ってましたか?」
     そんな感じにおしゃべりを楽しんで彼と別れた後、ふと自分が自転車に乗れるようになったくらいの幼い頃のことを思い出した。

     実家があるカナズミシティは道が綺麗に舗装されているので、自転車の練習は比較的楽に始めることができた。
     始める少し前、当時は毎日何かしらのお稽古や勉強があったのだけど、ある日全ての予定が終わった時に「自転車に乗る練習がしたい!」と周りの大人に言った覚えがある。多分、当時のボクもサイクリングショップのチラシか何かを見たのだろうね。それからしばらくして綺麗な自転車を買い与えられたから、ボクは大喜びで家の前の道で自転車の練習をしたと思う。
     当時のボクは、家でたくさん習い事や勉強をしなければならなかったことも、お手伝いさんが親切にしてくださることも当たり前のように思っていた。ボクのことを「坊ちゃん」と呼んでくれて、親切にしてくれる周りの大人の人が好きだった。親も「使用人への感謝と礼儀を大切にしなさい」と教えてくれていたので、そう教えてくれた通りに、周りの人のこと、ありがたいなって思っていた。
     一方で、そうした生活を当たり前にしていたから気付けなかったことがある。外で遊んでいる時も、そしてあの時、自転車の練習を始めた時も、周りには優しい大人がたくさんいて、その大人の人達と過ごしていたボクの周りには、同じくらいの年の子が誰も近づいてきてくれなかったことに。
     ある日お手伝いさんがみんな帰ってしまうくらいの時、夕焼けが窓から部屋を照らし始めたくらいの時間帯だったかな、一人でこっそり自転車の練習をしにいったことがある。その頃は毎日、習い事の予定が終わると自転車の練習に行っていて、足は転んだ傷だらけだった。その傷はいっぱい練習した勲章だと思っていたけど、全部の傷跡にきちんと手当てをしてもらったガーゼや絆創膏が貼ってあることが、ふと気になったんだと思う。「転んじゃうたびに手当てしてもらうと、時間が足りなくなっちゃうかな」なんて感じたんだね。だから軽い気持ちで「手当てをする人が見てない時間で、一人で練習してみよう」と考えたのではないかな。少し記憶が曖昧だけど、たぶん。
     そうして一人で練習し始めた時、初めて、ボクの周りに同じくらいの年の子達が集まり始めた。もう夕方だったのに、元気いっぱいに声をかけてきたり、自転車を後ろから押し始めたり。「恐いよ」と声をかけても、構わず自転車を押してくる人がいるというのがボクにとっては初めての経験だったし、転んでしまっても「大丈夫? もう一回やろう!」とすぐにボクを自転車に乗せてくる人も初めてだった。
     しばらくすると夜に近づいて、カナズミのあちこちにある街灯に明かりがつきはじめたんだ。子ども達は少しずつ帰っていったけど、一人最後まで付き合ってくれた男の子がいた。ボクはその日、ふらふらでもペダルをこぎ出して進めるようになって、曲がったりすることもできるようになっていた。嬉しくて胸がいっぱいでその子に「ありがとう!」と言った。そしてまだ彼に名乗っていなかったことに気がついた。
    「ごめん。名前を言ってなかったね。ボクの名前はダイゴだよ」
    その時、男の子がいたずらを思いついたような表情をしたことをよく覚えている。
    「へー、そうなんだ。俺、君の名前『坊ちゃん』だと思ってたよ!」
     ……うーん、当時のボクには言い返したり、表情を取り繕ったりということが難しかったのだと思う。それを聞いてどんな表情になったか、自分じゃ分からないけど、ひどい顔だったんだろうね。その子はすぐに謝ってくれた。
    「ご、ごめん! ごめんな……大丈夫、ダイゴだろ? な、ダイゴ。明日も来いよ。一人で来て。子どもだけの時間にするんだ!」

     そんなことがあってから数年後、ボクに初めてポケモンのパートナーができた。ポケモンを持てるようになった子どもが夢想することと言えば、自分が住む地方全域を廻り、旅をすることかと思う。だからボクも自分が住むホウエン地方を旅をしようと思い立ったけれど、その前にもう一つ、親に告げなければならないと決意したことがあった。
     だからある日、父の部屋に緊張しながら入って意を決して話した。
    「お父さん、ボクもホウエンのあちこちを旅してみたいです」
    「おお、そうか。なら色々と準備を……」
    「一人で行きたいです」
    「うん?」
    「一人で行きたいです。自分で……どこに行くか考えて、自分の力で進んでいく旅にしたいです」
     こんな感じのことを言ったあの時、ボクの方はドキドキしていたけど、お父……親父は涼しい顔をしていた気がするな。
    「そうだな。確かに自分で考えて、好きな場所に旅してみることが大切だろう。ただし、一つ大切なことを忘れているぞ」
    「え?」
    「一人じゃない。ポケモンと旅をするんだ」
    と言われた。
    「一緒にいるポケモンを蔑ろにするのは絶対にダメだ」
    その通りだと気付いた途端に何だかとても恥ずかしくなってしまって、親父に謝った後、相棒のポケモンにも謝った。でもそのあと、親父も家の人々もみんな笑ってくれた。
     ポケモンも、笑ってくれたようにボクには見えた、ボクの希望が入ってるかも知れないけど。
     そして旅立ちの日、わざわざ父の会社からちょっと大げさに送り出されてしまった。やっぱり恥ずかしかったけど、ふと「人が自分を大切に思ってくれていることに、何を恥ずかしく思う必要なんかあるんだ」と気がついた。
    「行ってきます!」
    心の底から笑って、相棒のポケモンの隣でお辞儀をして、そして相棒に「行こう」と声をかけて出て行った。
     カナズミを出るところで、自転車がきっかけで友達になったあの男の子が立っていた。あの子もポケモンと旅立つところだったんだ。
    「やっぱり坊ちゃんは、お見送りも派手だなあ」
    「うん、そうだね」
    その子は何を思ったのか、この時も「ごめん」とつぶやいた。
    「隣の町まで一緒に行こうよ」
    「うん行こう」

     ……自分の昔を思い出してからしばらく経ったある日、キンセツシティに行くと話していた子から連絡が来た。悩んだ結果マッハ自転車を選んでみたそうで、そうしたら足で登ると崩れてしまう坂も駆け上がれるになったと嬉しそうだった。
     そんな感じにいろんな坂を駆け上がったら、ある坂の上に大きな木が生えている場所があって、その木の上に秘密基地を作った……と報告された。
     自分の秘密基地って、秘密のはずなのに友達には教えたくなってしまうよね。せっかく教えてもらったのだから、今度その基地に合いそうな家具かぬいぐるみでもお土産に持って遊びに行こう。あの子が好きなポケモンをかたどったぬいぐるみは売っていたかな? それともボクのお気に入りのポケモンのぬいぐるみでも探そうかな。
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