ショートストーリー・チャレンジ 9巻目 パプニカで作られた金属や布は高値で取引されると言われている。そこには、ただ高品質であること以上の理由がある。
例えばパプニカの布は、糸と共に魔力を織り込んで縫い上げられ、染色に使われる水には、わざわざ「魔法の聖水」を……そんな噂がまことしやかに語られているのだ。国のシンボルたるパプニカの王女が賢者の血筋であるという事実が、またこの噂に説得力を加えているのだった。
「まあ、他の国で語られている噂も半分は本当よね……ああ、もう!」
「あら、あなた今『身かわしの服』を織ってるのね。もっと集中しなさいよ。織ってる途中からもう効果が現れ始めるんだから」
「シャトル飛んでくわよ」
パプニカ王家の人間も御用達の織物工房では、そんな会話がなされていた。職人達はおしゃべりしながらもリズムよく織り機で糸を整える。同時に魔力も込めていく。この国の織物職人は魔法使いでもあるのだ。
魔法と歌や踊りは親和性が高いものだが、この工房の職人魔法使いにとっては、シャトルを左右に動かし、ペダルを踏み、糸をトントンと揃える音と動きこそが、魔法であり、歌であり、踊りだった。
「今度私、レオナ姫に献上するドレスを作る大役を仰せつかっちゃったわ」
「良かったじゃない!」
「体のサイズ、どのくらい変わったかしら。レオナ姫も日に日に成長されているものね」
「私達の身分じゃそうお目にかかれないはずなのに……何歳の時にお体の大きさはどのくらいだったかは知ってるもんねー」
「お目にかかれないのに母性わいちゃうわ」
職人の多くは年季の入った女性達だった。女は三人以上寄れば姦しいもの。そして性格にもよるが、ある程度の年齢を越すと「母性」がわく対象がどんどん広がっていく女性は多い。
「ああ、でも……」
ドレスを献上する大役を受けた職人がため息をついた。
「最近、レオナ姫……自分の国の布が他の国で高く売れることを覚えちゃったみたいなのよね……」
「いいことじゃない」
「レオナ姫は、……年頃の娘さんらしくお小遣いが多ければ普通に喜ぶお方らしいのに?」
「あっ……」
工房に沈黙が降りた。
「ひ、姫様が必要とご判断されたものを買うために私達が作ったドレスを売るなら本望じゃない!」
「姫様のお小遣いになるなら本望!」
仲間達に励まされ、ドレスを献上することになっている職人は少しだけ笑った。しかし
「……今度献上するドレスは、姫様に長く着てもらえるような渾身の魔力を込めてやる〜!」
「な、なんか呪いになりそうな勢いよ」
「ちゃ、ちゃんと見た目もこだわるのよ」
こうして職人達はひとしきり盛り上がるとまた作業に集中し、工房は織り機の音だけが響く空間へと戻っていった。