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    usizatta

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    花と海とポケモンの楽園【本人の考えるところ六(前編)】
     わっはっはっと笑うテッセンさんの声が印象に残っているから、そこから書き出そうかな? ああでも、この日はテッセンさんだけでなくナギさんもいた。少し変わったトリオになってしまったけど、盛りだくさんで楽しい一件だったから思い出して少しずつ書いていくよ。
     と言っても三人で遊んでいたわけではない。トクサネシティには「宇宙開発センター」という、ロケットの打ち上げ場所まであるすごい施設があって、ナギさん、テッセンさん、そしてボクの三人はそこに呼ばれたんだ。トクサネは天気が安定してるから、こういう施設を建てるのに向いているんだってね。
     それで今回呼ばれたのは、機械の不具合があったり、監視カメラに怪しげなものが映ったり、荷物が荒らされたりと、センター内に問題がいろいろ起こっているからだそうで、原因はどうも施設に入り込んだポケモンのせいじゃないかという話になっていた。だからボク達のようなトレーナーが解決にやってきた感じだ。
     宇宙開発センターはとても広大な施設で、ボク達が最初に行ったのは、研究員さん達が普段働いている建物だ。でも例えばロケットが組み立てられる棟でトラブルがあるのなら、ちょっと遠くてもそこまで駆けつけるつもりだったし、その場合には高いところまで飛行タイプのポケモンに乗っていけるナギさんが頼りになっただろう。
     そしてテッセンさんは電気タイプのジムリーダーの上に、そもそも機械に詳しい人だから知恵を借りたかったのだと言う。もしポケモンが電子機器にくっついていたりしたら、テッセンさんが一番安全に引き離せるだろうからね。
     ボクはまあ、二人の付き添いのつもりだった。この町に住んでいるし。そもそもこの町のジムリーダーはフウくんとランちゃんの二人が勤めているのだけど、この日はどうしてもジムから離れられないと言っていた。「楽しそうだったのに」なんて残念そうにしていた。いやいやだから、遊びに行ったわけではないんだよ。
     えっと話を戻すけど、センターの一室に三人で通された。前から後ろに向かって人一人が操作できるコンピュータや、小さめのモニターがずらっと並んでる部屋だった。テッセンさんは部屋に入った瞬間からもう楽しそうだった。
    「いいのお! 新しい機械の匂いだ。こういう匂い好きなんだなあ」
    ボクは「新しい機械の匂い」というものを意識して嗅いだことがなかったので、その言葉でつい空気を吸い込んでみてしまった。そしたらボクの鼻とほぼ同時に隣のナギさんからも「スン」という音がした。それで思わず顔を見合わせてしまった。
    「いやだわ、お恥ずかしい」
    「はは、お互いさまですよ」
    テッセンさんもボク達の方に向き直って、わっはっはっと笑った。
    「ほら二人とも見てごらんよ。ここにはお天気予報が映っているぞ!」
    「あら本当。観測方法は、一一九番道路の天気研究所と同じ方法なのかしら?」
    ナギさんが住んでいるヒワマキシティの近くにはそういう施設があるので、疑問が口から出たようだった。そこへ一人の研究員さんがやってきて、モニターに映る情報についてあれこれと教えてくれた。そのままこの人が施設の案内役をすることになった。
     研究員さんは「ちょっとこの子を見てください」とモンスターボールからポケモンを出した。
    「出ておいで、おツメ」
    おツメと名付けられていたそのポケモンはテッカニンだった。その方によると、ツチニンの頃からツメで引っ掻いたりする攻撃が得意でメスだったからこの名前にしたのだそうだ。
    「センターの皆さんで育てている子なんですか?」
    とナギさんが聞いた。
    「いえ。私個人のポケモンです。私、実家がシダケタウンなのですが、最近カナズミシティとシダケの間でカナシダトンネルが開通したでしょう。里帰りしたついでにトンネルからカナズミに向かいまして、その道中でツチニンだったこの子と出会ったんですよ」
    その話にボクは「あれ?」と思った。隣でテッセンさんが
    「ああ! 開通したってワシも聞いたな」
    と答える。でもボクは初耳だった。むしろ、ボクが以前聞いた情報では、あのトンネルの工事は中止されたということで、だから「あれ?」と思ったんだ。
    「あの辺りにはゴニョニョがいて工事の音に悪影響を受けてしまうから、彼らのために中止したと聞いたのですが」
    実際に質問してみることにした。するとこう教えてもらった。
    「ええ。そうだったらしいんですけど、恋人に会いたい一心で機械を使わず掘っていた男性がいたんですよ」
    「まあ、すごい……」
    ナギさんが目を丸くしていた。
    「だ、大丈夫だったんですか? その男性は……」
    「はい。無事にトンネルが開通した後、恋人と再会して二人で歩いているのを見かけましたよ」
    「わっはっはっ、それは良かった! あとは偉業を成し遂げた彼に特別なお手当て出さないとな!」
    「はい。実際に『デボン』から出たそうです」
    実家の会社名が出てきて少しドキッとしたけど、それはこの時は置いておこうと思った。今度父に会う機会があったら聞いてみようかな。
     おっと、書く時間が足りなくなってきたから、続きはまた今度書くよ。

     はい、続きを書きます。テッカニンのおツメちゃんは、ちょっとした荷物運びなどで活躍している子で、研究員さんもとても素直な性格だと話していた。にも関わらず、他の職員からの評判が悪いということだった。
    「最近のおかしな現象はこの子が原因なんじゃないかと言ってくるんですよ……。確かに、この子がテッカニンに進化して、うちの仕事を手伝ってくれるようになったぐらいから、不具合が起こるようになったもんですから」
    「ふうむ。テッカニンは飛行タイプが入っているはずだが、ナギちゃん何か気づいたことあるかね?」
    テッセンさんがナギさんに相談を持ちかけた。
    「そうですね……少しおツメさんに触ってもよろしいかしら?」
    「どうぞ」
    そして彼女が丁寧な手つきでおツメに触れた。
    「特に変わったところは見つけられないです。羽の状態は健康そのもの。テッカニンは飛ぶスピードがどんどん加速していくポケモンで、その分気をつけていないと羽が痛みやすい……でもこの子の羽は綺麗だわ」
    「まあ、おツメは私の腕にくっついてる事が多くてあまり飛ばないですから」
    みんなのやりとりを聞きつつボクは内心、おツメがくっついている時の様子を想像してしまった。腕にくっつけるぬいぐるみってあるし、「ナマケロを育ててる時のセンリさんみたいな姿かな」とも思ってしまって。見たことあるんだ。そんな感じのセンリさん。
    「そういえば、監視カメラにおかしな影が映る不具合もあるんでしたっけ。テッカニンがナギさんの言うように素早いポケモンで、あくまで仮にですが犯人と考えた場合、その影も素早く動いていそうですね」
    一旦センリさんの姿を頭から追い払って、ボクも真面目に考え始めた。
    「うーん。はっきりとした映像ではないんですけど、そんなに早くはなかったと思います」
    と研究員さんが答えた。
    「お見せします」
    彼の使うコンピュータがある机に行き、映像を見せてもらった。画面に監視カメラで撮影されたロケットの組立棟の風景が映った。ロケット専用の特大扉が閉まっている映像で、扉の向こうには組み立て中のロケットが入っているそうだった。
     研究員さんが動画をズームして、画面の端を指し示すのでボク達三人が覗きこんでみた。小さな点くらいにしか映っていない黒いものがゆったりと浮かんで動いていた。
     ただこれは数日前の映像で、組み立てを担当する人達が建物の中や周りを探し回っても、この黒い点の正体は見つからなかったとも説明された。また画像はこれしかないので、犯人のポケモンは複数いる可能性より一匹だけの可能性の方が高いのではないか、とも施設内では話し合われていたそうだ。
    「もっと大きくできない?」
    とテッセンさんがさらにズームを促したけれど、出来ないらしく研究員さんは首を横に振った。
    「ううん。でもこの黒い点、飛行タイプに詳しくないワシでも、鳥とか、後おツメちゃんみたいな虫の飛び方じゃないなって思えるんだが」
    「映っている建物の大きさと比較して、この黒い点はポケモンだととしてもそんなに大きくないわ。この映像ではちょっと正確な大きさは予測できませんけど……」
    「なんだろう、この飛び方。ボクのメタグロスみたいに磁力で浮いてる感じなのかな」
    「どちらかと言うと、超能力で浮くネンドールに近いのではないかしら?」
    そう言った後、ナギさんは研究員さんに「ダイゴさんのネンドールは可愛いんですよ」と付け足したので、ボクはひっそり嬉しくなった。
     すると研究員さんが少しワクワクした顔でボクに声をかけてきた。
    「参考までにどう飛んでいるのか、ネンドールを見せてもらうことはできますか? ああいや、決してチャンピオンのポケモンを見てみたいとか、そういうのでは……」
    「そうだな。飛び方確認してみよう。ちなみにワシはネンドール普通に見たかったりもするなー」
    「うふふ。私も見たいなー……なんて」
    「じゃあ……好評につきまして……」
    ネンドールに出てきてもらった。ボールから飛びだしたネンドールはその場にふわりと浮かんだ。
    「へえ、これがネンドール。土偶みたいだ」
    「科学の最先端みたいなセンターとのミスマッチ加減が素敵じゃろ?」
    「私はこの子の、どことなく鳥のようなお顔が好きです。ヨルノズクみたい……」
    「いやー宇宙人みたいにも見えてきました。そもそも土偶って宇宙人っぽくも見えますよね。そうそう、この施設には『ポケモンは宇宙から来た』って仮説を唱える人もいるんですよ」
    三者三様に見てもらえて、ボクたぶん顔がニコニコになっていたと思う。おツメちゃんもネンドールの周りをぶんぶん飛んでいた。そしてしばらく見てもらってから、気を取り直して犯人を考え始めた。
    「これがいわゆるエスパータイプの超能力なんですか? ネンドールが飛んでいる状態は」
    「そうですよ」
    「うーん。映像の黒い点の動きと似ているような、似ていないような……。あの点はエスパータイプのポケモンなのかな?」
    その言葉をきっかけに、みんなでタイプから考えてみる。タイプだけでも分かれば、隠れる場所の傾向や行動のパターンが予想しやすくなって、結果として捕獲が早くなるからね。
    「浮くポケモンは他にも色々いますけどね。特性が『浮遊』でなくても」
    「ワシのコイルとかね。まあワシは、今回の犯人……うん、犯ポケ? は電気タイプではないと思っているんだけどね」
    「あら、どうしてです?」
    「電気タイプでふわふわしている奴は、磁力とか電力とかのパワーを利用してるからなあ。精密機器の前でそんな真似してたら、今回の比じゃないくらい大惨事になっとるよ」
    テッセンさんがそう語ったので、
    「組み立て中のロケットに何か異常は……」
    とボクも聞いてみた。
    「なかったです」
    「ほら!」
    「ははあ。でも確かに、別の場所で故障した機械も、磁力で狂ったとかそういうわけではなかったです」
    「ふむふむ。よーし、じゃあ今度はそこに案内してもらえるかい?」
    テッセンさんが朗らかな態度のまま推理を進めてくれるので、その流れで別の部屋を見に行くことになった。ボクはネンドールをボールの中に入れようとしたけど
    「せっかくですから、もう少しそのまま」
    とナギさんに言われたので、ネンドールはそのまま付いてくることになった。
     ところで、この子はヤジロンの頃から育ててきたのだけど、進化してからはかつてよりもボクに飛びついたりしない性格になっていた。彼の方が、粘土でできた自分の体で触れてボクが汚れるのを遠慮しているらしくてね……少し切ない。それで、ええと、この日も彼は一定の距離を保ったまま浮かんでいた。
     おツメはネンドールを気にいってくれたようで、相変わらず周りを飛んでいた。ネンドールの方はおツメちゃんが動くのを目で追いかけていた。
     廊下で、研究員さんはテッセンさんの言葉をもう一度振り返ったらしく「普段は、人もポケモンも、特に重要な箇所に入る時はチェックされるんですよ」と話していた。それはそうだろうな。ボク達もこの日チェックしてもらってから施設に入ってきた。モンスターボールの中にいる手持ちも予め確認されていて、必要があれば周りに注意した上で出していいと許可をもらっていた。だからこの時もネンドールを出して咎められなかったんだ。
     そして、じゃあ今施設に入りこんでいるポケモンはどうやってチェックをくぐり抜けたのだろうという疑問も生まれるわけだ。
     宇宙ステーション補給機(そういうものもこのセンターでは打ち上げるらしい)に入れる積荷が置かれた部屋に来た。この部屋にある機械に不具合があり、さらに積荷も荒らされたと言う。
    「おツメはここでも荷物運びを手伝っていたのですが……」
    研究員さんが、だから疑われたんですと悲しげに付け足して話した。
    「なんとか彼女の無罪を証明しましょう」
    とナギさんが答えた。
    「どーれ、ワシは不具合のあった機械を見ようかな」
    テッセンさんは早速そちらの様子を見始めたので、
    「ボク達は荒らされた荷物を見てみますね」
    手分けをすることにして、ナギさんと二人で積荷の中身を見せてもらった。水、食べ物、人間の生活用品、宇宙で育てられるポケモンの飼育装置……壊されていたのは、飼育装置のようだった。
    「パック詰めの木の実」
    そう言って、ナギさんが真空パックのひとつを手に取った。ボクも「こういうのもあるんですね」と言った。宇宙に持っていく食べ物のパックなんて実物は始めて見たな。
    「はい。野菜やフルーツって、宇宙で食べるものの中でも人気あるんですよ。あの、宇宙で働いてる人に」
    「宇宙でフルーツか、すごいな」
    ネンドールとおツメもジッとパック詰めの木の実を見ていた。モモンの実やオレンの実、ポケモンもおいしく食べられる木の実ばかりだ。
     ここで、おやと思った。
    「生き物が人の荷物を荒らす時って、まず食べ物を狙う気がするんですが」
    「えっ? でも木の実は見ての通り無事ですよ」
    研究員さんがきょとんとされていたので、ボクは首を捻った。
    「パックに詰められてたから開けられないと思って無視した……?」
    「ポケモンによりますが、大概は開けられると思いますよ。それこそ仮におツメさんで考えれば、爪で容易く破けるでしょう」
    ボクの推測に、ナギさんがそう返した。
    「でもこっちの飼育装置は爪で壊されてる傷がありまして……」
    研究員さんは、また少し悲しげに伝える。ナギさんも壊されたポケモンの飼育装置を見た。それからしばらくナギさんと研究員さんで話が進んでいった。
    「犯ポケはなんでこれを壊したのかしら?」
    「あ、あの『犯ポケ』って表現、これから使っていくんですか?」
    「それにしてもこの飼育のための器具は小さめですね。小型のポケモン用なのね。おツメさんの大きさくらいまでかしら」
    「……えー、あ、それ、前に同僚も冗談で言ってきたんですよ。でもひどかったなー。『ほらピッタリだぞ』とか言って、おツメを詰め込む真似までして『このまま詰め込んで宇宙に送り込んでやろうかー』なんて言いやがりまして……」
    「まあ」
    ボクは二人のやり取りを聞いていたものの、会話には入っていけなかった。どうにも、食べ物には手をつけていないことが気になってしまったんだ。
     電化製品を齧る電気タイプだって、金属を食べる鋼タイプだって、もちろん普通のご飯も食べる。それに、ここでパック詰めされていた木の実は、どのタイプのポケモンも食べそうなものばかりだった。
    (木の実に興味がないポケモンが思いつかない。まさかポケモンではない? いやでも……)
    そんな風に悩んでいた。
    「おーい。ちょっといいかい?」
    機械を見ていたテッセンさんから声がかかった。
    「不具合が起きてた箇所をとりあえず見せてもらったよ。ここの配線が切れちゃってる」
    大きな、ボクではなんの機械かよくわからないものの前扉を開けて、テッセンさんが言った。
    「それでな。この千切れ方はポケモンが中に入りこんじゃって、体が引っかかって、ちぎっていったんだと思うんだよ」
    確かに隅の方を見ると、小さいポケモンが入り込めそうな穴が空いてしまっていた。
    「ええ、ええ、うちのスタッフも一応そこまでは推測してました。どうですか。もし他に分かることがあれば……」
    「そうだな……ワシが変だと思うのは、こんな線をちぎって、そいつの身体にビリビリこなかったのかってことじゃな。ビリビリして、びっくりして、もっと暴れて……みたいな痕跡は全くないのが気になると言えば気になる」
    「電気が全く効かないタイプだったんでしょうか」
    とボクが言うと、
    「となると、地面タイプとか……」
    「でも、ふわふわと浮かぶことができるような地面タイプ……」
    だんだんみんなの目線がボクのネンドールに集まってきた。さすがに慌ててしまった。
    「ちょ、ちょっと待ってください。ボクは今日初めてここでネンドールを出したんですよ」
    「わっははは、分かっとるよ! ダイゴくんのネンドールではないだろうよ!」
    ナギさんも頷いてくれたけど、深刻な顔でこう言った。
    「でもそう言えば私、最近報道で見ましたね。有名人の手持ちと同じポケモンで犯罪を犯す人がいるとか。そういう人のネンドールである可能性はありえるかと……」
    そのニュース、確かにボクも前にカゲツから聞いた。でも……
    「ネンドールだったら、引きちぎった線に土がついてると思います。そもそもここに入るには、ネンドールは大きすぎます。あと、他の地面タイプのポケモンでも、何かつく可能性が高いんじゃないかな」
    あれこれ思いついたことを伝えてみると、三人とも「あっそうか」という反応をした。すごくホッとしたよ。
     ボク、おツメが疑われていた研究員さんのこと、もちろん可哀想だと思っていたのだけど、改めて自分のポケモンに疑いの目を向けられるってこんなに焦ってしまうものなんだなと実感したよ。ほんのちょっと向けられただけなのに。

     ……おや、また時間が足りなくなってきた。また今度続きを書こう。でも当日からあまり日数が経つと細かい会話を忘れそうで怖いよ。
    (続く)
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