ショートストーリー・チャレンジ・3巻目 アバン先生は「メガネ」というものをかけていた。ダイが聞いたところによると、これをかけると周りの物がよく見えるようになるらしい。
だからマァムと出会い、彼女の頭にゴーグルがついているのを見た時、ダイはてっきり同じ用途なのだと思い込んだ。
「あれ? あんまり見えないや」
興味があったのでマァムにゴーグルをかりて装着したダイは、ついついそう呟いた。マァムが不思議そうな顔をしたので、アバン先生から聞いたメガネの話を語った。
「ああ。ふふ、そういうものとはちょっと違うのよ。これは目を守るためにつけるの」
マァムは腰に装備していた魔弾銃を取り出し、構える振りをしてみせた。
「狙いを定めている時、目に砂が入ったら大変でしょう」
「そっかあ」
「ところでよお、このゴーグルの紐んところ、ゴムとかいう素材なんだよな」
ポップが話に入ってきた。
「引っ張ったら伸びるっつー素材」
彼は実家で聞いたことがあった。スライムの皮(?)を加工してゴムという素材が作れるとかなんとか。そんなことも思い出しながら質問すると、マァムが頷いた。
「そうよ」
「へえ」
ポップは、まだダイの目についたままのゴーグルを掴んで引っ張った。ゴム紐は少しずつ伸びた。
「……そんで、手を離したら元に戻るとか!」
いきなり手を離した。ゴーグルはダイの顔のところに戻ってバチンとぶつかる。
「うわっ! いてっ!」
「なはははっ! マジだった!」
そのままケラケラと笑い続けるポップの頭をマァムが軽く叩いた。
「こら、意地悪しないの!」
「大丈夫だよマァム。お返ししてやるから! ほらポップもゴーグルつけてみろよ」
「分かっててつけるバカはいないぜー」
ここでマァムもいたずらっぽく笑って、ポップを後ろから押さえた。背中にマァムの体温を感じた気がして、ポップは心臓が跳ね上がり、口をパクパクさせた。
「ダイ、今のうち!」
しかしマァムの言葉でポップは我に返った。
「あっ、おい! やめろよ〜」
「くらえーポップ!」
辺りに再びバチーンという音が響き、続いて軽いうめき声と笑い声が広がっていった。
勇者アバンから教えを受けた、今もまさに世界を救わんとするアバンの使徒達は、しかしまだ十代の子どもでもあった。十代の子ども達が歩く道中は、どうしてもはしゃいだりふざけたりの明るい声が抑えられないものとなった。