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    かもめ

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    かもめ

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    過去作。20200922

    #まきのば
    rollRoom
    ##呪術

    【呪】まきのばと浴衣の着付け 普段は自分よりも高い位置に目線がある女が、今は目の前に跪いている。屋外で喧しく鳴く蝉の声と、絹擦れの音だけが狭い部屋に響く。野薔薇は些か緊張して、小さく唾を飲んだ。
    「下向くなよ、真っ直ぐ立ってろ」
     野薔薇が羽織った浴衣の裾の長さを調整しながら、目の前に跪く女──真希から注文が飛んでくる。野薔薇は「はい」と控え目に頷いて、無意識に真希のつむじを見ていた目線を正面の壁に戻す。どこを見ていればいいのかわからずに、視線がうろうろした。
     古い術師の家庭で育った真希にとっては、和服の着付けなど手慣れたものらしい。いつも背筋を真っ直ぐに伸ばして、弱いところも脆いところも晒さない強い女が、突っ立ったままの自分の着付けを施してくれている。悪いことをしているような、それでいて胸の奥がきゅっと高まるような、不思議な気持ちだった。
     「ちょっと反対向いて」とか、「こっちの手でココ押さえとけ」とか、真希の短い指示に従ってされるがままになっているうちに、あっという間に腰紐で布地が身体に固定された。「もう動いていいぞ」と言われて、漸く浴衣を着た自分の身体を見下ろすことができる。大振りの花柄をあしらった、今年のトレンドの浴衣。買い物に出た時に迷いに迷ったもう一着を思い出して、やっぱりこれにしてよかったと満足に浸る。アッチも色は良かったけど、柄が地味だったのよね、とか。
    「おら、もっかい前向け」
     自分の判断を内心褒め称えていると、不意に真希の頭が視界に入り込んできた。着付けの続きをしてくれるらしく、伊達締めを手に携えている。
    「……」
    「ほら、早くしろ、野薔薇」
     先ほどまで、目線を下すことを禁じられていたのであまり意識していなかった。何というか、距離が近い。些か苛立った様子で野薔薇を見上げてくる真希の顔は、端正に整っていて美しかった。その白く肌理の細かい頬の肌に、吸い寄せられるように指先で触れたくなる。きっと体温が低くて、柔らかい。
    「……おい」
    「あ、ゴメンナサイ」
     野薔薇は慌てて再び正面を向いた。「……ったく、次から自分で着ろよ」と小言を言いながら伊達締めを巻いてくれる真希に、少し早くなった心臓の鼓動が聞こえなければ良いな、と思った。

    fin.
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