【呪】アニメ17話ネタ 団体戦後の真依 死ぬ。その瞬間、禪院真依はそう思った。
直後、首筋に鋭い衝撃。痛いなんてモンじゃない。ただでさえ一日一度きりの構築術式の発動直後で、脳みそが焼き切れそうに痛いのに。目から火花が散って脳が揺れ、胃袋の中身がひっくり返りそうになる。緩んだ手から拳銃が離れて届かない場所へ転がっていく。木の根元に追い詰められ、成す術がなくなって相手を──双子の姉・禪院真希を見上げる。彼女が持つ刀の刃先が天を向いているのを見て、ああ、さっきのは峰打ちだったんだと察した。
彼女の刃と眼鏡が反射する日光が、痛いほどに眩しかった。
「うわあ! いったそう……」
その日の夜、京都校の学生に宛がわれた建物の談話スペースで、三輪霞は悲痛な声を上げた。真依が部屋着として着ているパーカーの襟首から、細く赤黒い痣が覗いている。真希に刀で打たれた痕だった。
「術師やってればもっと酷い怪我もするでしょう? これくらいで騒がないでよ」
「でも……」
霞は尚も言い縋った。言いたいことはわかる。お姉さんなんでしょう? 霞の目はそう訴えていた。
非術師の家で生まれ育った霞にとって、姉妹でいがみ合っている様子は見ていて心が痛むらしい。術師として伝統ある流派に門下入りし、様々な家のしがらみを見てきてもその感性を失わない霞のことを、真依は少し羨ましく思う。
「アンタこそ」
そんな胸の引っかかりを拭い去るように、真依は霞のTシャツの裾を捲った。
「ひゃあ! 真依、何するんですか!?」
細っこい胴体と臍が露出するまで布地を捲り上げると、霞の脇腹にも紫色の痣が見える。真依がその痕を指で辿ると、霞はひっと息を呑んだ。やはり、触ると痛むらしい。
「これだって、真希がやったんでしょう?」
「そりゃあ……、でも交流会って、そういうものですし……」
その言葉を口にしながら、先ほどの真依と言っていることが大して変わらないことに、霞も気づいているようだった。えへへ、と誤魔化すように笑う表情は、呪いを生業にしている人物のものとは到底思えない。
「家入先生に治してもらえばよかったのに」
「みんなが戦っている間寝てただけだった私が、あれだけ大勢を診ていた校医さんに頼ることできませんよ。真依こそ、首の怪我は悪化すると大変ですよ?」
「術式使った分くらいは回復したからいいのよ。それに、これは……、こんな痕、アンタや桃ならまだしも、付き合いの浅い人間に見られたくないじゃない」
霞は他人の怪我を見慣れていないから気が付いていないようだが、真希が霞の刀を持っていたこととこの痣の形状を繋ぎ合わせれば、怪我人を診慣れているあの校医はきっと気が付く。これは峰打ちでできた痕だと──真希に手加減されたということに。
屈辱だ。見下していた、認めたくなかった相手に敗けた。しかも、手加減された上で。相手を殺すような真似はしないように、という通達があったのは事実だ。それでも、あのタイミングで峰打ちに切り替える余裕が真希にはあったということが、真依にはこの上なく悔しかった。
思い出して歯噛みしていると、隣の霞が「ふふふ」と笑う声に回想を遮られた。「なによ」とつい不機嫌な声が出る。
「私や、桃先輩なら良いんですね」
どこか嬉しそうにそう言ったあと、霞は「あ、ごめんなさい! 怪我が見たいとかそういうわけじゃなくて!」と慌てて付け加えた。
「誰もそんなこと思ってないわよ」
複雑に絡まり合った術師同士のしがらみを、時折こうしてぽんと越えてくる。重い感情がこびりついた胸が彼女の笑顔で少し軽くなって、真依は眩しそうに目を細めた。
fin.