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あいにくの雨だな、と窓越しに空を見上げる。
湿気を纏った空気の重さを感じるような空だが、室内は賑やかだ。
キッズスペースの遊具の移動を頼まれて、作業を終えて立ち上がれば、女の子が2人、俺を見上げていた。
年齢はわからない。子供の年齢、というのがどの部分から判断したらいいのかわからないからかもしれない。
2人はコソコソとお互い話をした後。
「オスカーさんの好きな人は誰?」
と俺に聞いて来た。
物怖じしないその様子に、屈んで話すべきかと頭を掠めて、ゆっくりとその場に腰を落とす。
女の子達は少しだけ怯んだように一歩下がったが、その視線は俺から外れていない。
そう、返事をしなければ。
好きな人。
「ブラッドさまだ」
そう言うと、2人は顔を見合わせて。
「そういうのじゃなくてー」
と言う。
「そういうのとは?」
意図が見えなかった。
俺の返答に少し口を尖らせて考えを巡らせていたような2人は。
「うーん、そういうことなのかなあ?」
と言う。
そこに別の声がかかった。
「あ、呼んでる。またねー」
あっさりと去って行くその背中を見ながら俺は立ち上がった。
「ああ、気をつけて」
そういうの、とは。
子供と会話すること自体が少ないからその話題をトレーニングの合間にウィルにしたところ、それは恋の話だったのではないかと言われた。
恋してる、好きな人、小さくても女の子はそういう話題が好きな子も多いですからね、と言ったウィルの顔はどこか微笑まし気な様子で、改めてメンティーから学ぶことも多いのだな、などと思った。
そういうのではない、そういう好きな人、か。
絡まって取れない言葉遊びのようだ。
あまり得意な分野ではないな、と思うのに、そういうの、とそうでない、の違いが引っかかる。
自分の中の揺るがない場所にブラッドさまがいて、揺るがないのだから変わりようがないのだ。
だから、答えはブラッドさまでいいのだろう。
「今日はよく降るな」
「ブラッドさま」
リビングに入って来たブラッドさまに、俺はソファから立ち上がる。
「今日は会議では?」
「夕方に変更だ」
「それではコーヒーをお淹れしましょうか?」
「頼む」
「はい」
頼まれたことに心が弾む。
ブラッドさまに疲れた様子がなく、休憩をとってくれるとこが嬉しい。
あなたの役に立ちたい。
あなたの側に居たい。
だから。
きっと俺の答えはブラッドさまなのだ。
「何かいいことでもあったのか?」
コーヒーを差し出せばブラッドさまが受け取りながら言う。
いいこと、ブラッドさまがここにいること。
「はい」
「そうか」
ブラッドさまはゆっくりとコーヒーに口を付けた。