Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    abyssdweller_UR

    @abyssdweller_UR

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    abyssdweller_UR

    ☆quiet follow

    ちょも則入る前に飽きた文章

    飽きました「部屋は、なにか希望ある?」
     僕が本丸に来て、一通り案内が終わってから坊主に聞かれたことだ。うーんと唸っていると、「あんまり広い部屋とかは用意できけど、だいたいの場所とか、和室洋室くらいは」と付け加えられた。
     だから僕は、「部屋は寝れれば狭くても良い。ただ一文字の者らとは離してくれ。離れてれば離れてるほどいいな」と笑って答えた。すると坊主は嫌そうな顔を隠しもせず、僕を睨んできた。
    「もしかして、仲悪いとか……?」
    「そんなことはないと思うが……」なにせ隠居の身なので、今、一文字がどうなっているのかわからない。「色々と面倒だからな」
     坊主はこれみよがしにため息をつき、肩を落とした。
    「わかった。じゃあ、この一番端の部屋。和室の四畳半、収納もないけど、本当にいいの」
    「それで十分だ。じじぃは持ち物が少ないからな」
     こうして僕は、僕だけの城を手に入れた。僕の持ち物といえば、大事な本体と服と布団くらいなもので、部屋はたしかに狭く感じるが不便はなかった。
     わざわざ僕が一文字の者らから部屋を離してもらった理由はただひとつ。仲違いしているとか、気まずいとかでは、決してない。坊主にはまた呆れられると思って濁したが、僕の安らかな睡眠を確保するためだ。僕は朝餉を抜いてでも寝ていたい質なのだ。朝ゆっくりと目覚め、布団の中で微睡むのが至上の幸福である。その時間を誰かに邪魔されるのが嫌だった。近くにいたら間違いなく日光の坊主が起こしに来るだろう。もしかしたら日光に言いつけられた南泉の坊主かもしれない。それを一分、一秒でも遅らせるために離して貰ったのだ。
     そして僕が思った通り、日光の坊主はわざわざ遠いこの部屋まで通っては僕を起こしに来た。それもご丁寧に毎日、だ。ある時、僕に構うより山鳥毛の世話をしろと言えば、「お頭はご自分でなんでもされますので」なんて返ってきて、返す言葉も無くしてぐっと喉を鳴らしてしまった。
     いや、僕だって自分の世話くらい自分でできる。なにせ政府にいた頃は、全て自分でこなしていたのだ。仕事があれば朝だってきちんと起きていたし。だから何もない時くらいは、朝はゆっくりしていたい、それだけだ。
     そして今日。
     うるさい日光の坊主は遠征に出ている。心地よい爽やかな風が流れる朝は、惰眠を貪るのにぴったりな日だった。
     薄く瞼を開けて障子から透ける朝日を拝み、またうとうとする。横を向き、くしゃくしゃになったタオルケットを抱え込んで、目を閉じそのままふわふわ浮いているような意識が、一気に覚醒した。
     タオルケットを抱えている体に違和感がある。枕もなんだかいつもより位置が高い。恐る恐る目を開けてみると、タオルケットを握る手は骨張ったものではなくぷにぷにの子供の手になっていて、つるつるの膝を曲げた先に見える爪先はいつもよりも近くにあった。これを驚かない者がいるだろうか。眠気はどこか遠くへ消え去り、思わず立ち上がる。もちろん視界は低い。それも思った以上に。寝巻きは一緒に小さくならなかったようで、僕は素っ裸だった。
     寝巻きを着るにも大きすぎるし、衣紋掛けに吊ってある物も同様だ。短刀の者らに服を借りるにしても、さすがに裸で廊下を歩くのはどうかと思うが、ここにあるもので身につけられそうなものはない。こんな時に日光の坊主はなぜいないのかと、己が理不尽なことを言っているとわかっていても腹が立つ。しかし、いないものは仕方がない。なぜ縮んでしまったのかわからない以上、僕にはどうすることもできない。それならば、できることはただひとつ、布団に戻って寝るだけだ。僕は抜け殻のようにくたびた寝巻きを外に払い、もう一度布団に寝転がった。
     もしかしたらこれは夢かもしれない。そんな淡い期待を胸に僕は目をつぶり、深く呼吸をした。スッと体の力が抜けていき、手足がだんだん暖かくなってくる。……
    「じじい! いつまで寝てんのさ」
     スパンと小気味良い音とともに怒鳴り声が部屋に響く。驚いた僕の体はビクリと震え、そのまま飛び起きた。「あれ……」怒り顔から一転、表情を無くした坊主と目が合う。「じじい……?」ジッと見つめられ少しこそばゆい。僕の前にしゃがんだ坊主に頭を撫でられた。
    「本物……?」
    「本物だから困っているんだ」
    「あ、中身はそのままなんだ」
    「そのままもなにも、僕は昔の時文よりずっとこのままなのだが」さすがに隠居する前は少し違ったが、それでも本質は変わらない。
    「それはそうだけどさ。体と一緒に見た目相応だったらかわいかったのに」どこか残念そうな声に、僕はムッと口を尖らせる。
    「僕は性格もかわいいだろう」
    「はいはい。くそじじいのくせになに言ってんの」僕の頭を撫でていた手は、いつの間にか押さえつけられていて、今の身長差を見せつけられているかのように見下ろされていた。
    「とにかく服が必要だな。俺、誰かから借りてくるよ。ちょっと待ってて」
     そう言って坊主は部屋を出て行き、一人になった僕はまた布団に包まった。柔らかいタオルケットを握りうとうとしていると、頭を叩かれた。
    「なんで寝てんだよ」
    「眠いからに決まっているだろう」
     隠れるようにタオルケットを頭からかぶろうとして、坊主に剥ぎ取られる。恨みがましく見上げれば、はい、と白い寝巻きを渡された。
    「あとで博多にお駄賃あげて」
     むうと唸るが、背に腹は変えられない。早速寝巻きを着るも少し丈が長かった。「短刀の坊主たちより小さいとはなあ」手の半分が袖に隠れてしまって、少し邪魔だ。
    「ほら着替えたら食堂いくよ。もうみんな食べ終わっちゃう」
     坊主に手を引かれ少し歩いて、僕は足を止めた。
    「まだなんかあんの」
    「うむ……」ふと頭を過ぎる本丸にいる一文字の顔。
    「坊主、悪いが食事を部屋に持ってきてくれ」
    「はあ? なんで」
    「僕も祖としてのプライドがある」
     こんな情けない姿を誰が見せたいというのか。朝、理不尽に怒ったりもしたが、今は坊主がきてくれて良かったと心から思う。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺👍❤👍👍👏👏👏❤❤💖💖💖💘👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    abyssdweller_UR

    REHABILIシドニー本丸
    アーモンドカフェ 則宗が庭に降りると重い羽音をたてて白い鳥たちが寄ってきた。きれいとは言えない鳴き声はまるで耳をつんざく絶叫のようで、黄色い冠羽を逆立たせ遠くの街まで届くような音量だった。則宗はそんな騒音に慣れたもので、何事もないように庭に置かれた椅子に座る。すると鳥たちは黒い足を不器用に動かしてヨチヨチ寄ってくるのだ。そのなかでも良く馴れたものは則宗の肩や足などに乗ってくる。それらは則宗の気を引くように、黒く大きな嘴で服を引っ張ったり、器用に動く指で則宗の指などを握っては催促するのだ。目的は則宗が持っているアーモンド。それが欲しくて彼らは人を模した刀にも愛嬌を振りまいている。
     この騒がしい本丸にやってきた当初は、則宗もこの状況に驚いた。なにせ見たこともない大きな白い鳥や、派手な色合いの鳥たちが集まってこの世の終わりのように鳴いているのだ。耳を塞いでも突き抜ける声量は到底我慢できるものではないのに、本丸を案内してくれた加州清光などは何も聞こえていないかのように涼しい顔をして、「あんたもそのうち慣れるよ」と笑って言った。慣れるはずないだろうと腹の底で思って数ヶ月、騒がしいことには変わりはないが不思議と気にはならなくなっていた。その頃には短刀たちの真似をして果物や水などをあげるようになり、庭に専用の椅子まで置いたのはつい最近のことだ。
    1534

    recommended works