アーモンドカフェ 則宗が庭に降りると重い羽音をたてて白い鳥たちが寄ってきた。きれいとは言えない鳴き声はまるで耳をつんざく絶叫のようで、黄色い冠羽を逆立たせ遠くの街まで届くような音量だった。則宗はそんな騒音に慣れたもので、何事もないように庭に置かれた椅子に座る。すると鳥たちは黒い足を不器用に動かしてヨチヨチ寄ってくるのだ。そのなかでも良く馴れたものは則宗の肩や足などに乗ってくる。それらは則宗の気を引くように、黒く大きな嘴で服を引っ張ったり、器用に動く指で則宗の指などを握っては催促するのだ。目的は則宗が持っているアーモンド。それが欲しくて彼らは人を模した刀にも愛嬌を振りまいている。
この騒がしい本丸にやってきた当初は、則宗もこの状況に驚いた。なにせ見たこともない大きな白い鳥や、派手な色合いの鳥たちが集まってこの世の終わりのように鳴いているのだ。耳を塞いでも突き抜ける声量は到底我慢できるものではないのに、本丸を案内してくれた加州清光などは何も聞こえていないかのように涼しい顔をして、「あんたもそのうち慣れるよ」と笑って言った。慣れるはずないだろうと腹の底で思って数ヶ月、騒がしいことには変わりはないが不思議と気にはならなくなっていた。その頃には短刀たちの真似をして果物や水などをあげるようになり、庭に専用の椅子まで置いたのはつい最近のことだ。
則宗がアーモンドが入った瓶の蓋を開けると、鳥たちは急かすように瓶をつつき、太い舌でぺたぺたと舐めている。特に気の早いやつは瓶に突っ込んだ則宗の手の横から顔を入れようと必死になっていた。つるりとした羽がこそばゆい。手を引き抜いてせっかちなやつにアーモンドを差し出せば、奪い取る勢いで嘴で受け取って足で握って食べている。行儀良く待っている鳥たちには何も持っていない方の指を出す。すると握手をする様に鋭い爪のついた指で握ってくるのだ。まるで芸のような行動は大変愛らしく、日々の辛さなどは簡単に吹き飛ばしてくれた。
「またここにいるのか」
一際大きな鳥が、ため息混じりでやってきた。この鳥は則宗よりも先に顕現しているためか、それとも鳥の名を持つためか、やってくる鳥たちは毎日アーモンドをあげている則宗よりも馴れているものもいる。ちょっとした嫉妬を覚えるほどだ。今も木にとまっていた色鮮やかな小鳥が彼の肩に降りて、顔を擦り付けている。
「爺の唯一の楽しみさ」
則宗は新たに飛んできた鳥にアーモンドを渡した。この鳥は則宗が一等気に入っていて、白露と名付けて可愛がっている。機嫌が良いと腹や頭を撫でさせてくれた。今は残念ながら機嫌が悪いようで、腹を触ろうとした指は嘴に阻まれてしまったが。
「今日は私と畑番だろう」
「やれやれ、大きな鳥と野良仕事よりもよっぽど有意義な時間なんだけどなあ……」
「私との時間は有意義ではないと」
「でかすぎる鳥はかわいくない」
瓶の蓋を閉めると、則宗に興味を失ったように鳥たちは去っていく。馴れたとはいえ、そこは所詮野生だ。代わりに近寄ってきた鳥は立っているだけで威圧感があった。
「鳥に可愛さを求めていたとは、初耳だな」
「見ろ、このピョンと出ている羽を。僕に似ていると思わないか」黄色い冠羽を指差して、跳ねた髪の一房を摘んで見せた。
「それに愛嬌があるところも」
「なるほど」後ろに着いた鳥が腕を差し出せば、白い羽を羽ばたかせ、鳥がとまった。則宗の気に入りである白露だ。代わりに小鳥は飛び立ってしまったが、白露は腕をよじ登り肩に乗り甘えた声を出している。「確かに似ている」頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
則宗は椅子から立ち上がり、そんな二羽の姿を横目で見ると無言で畑へ向かった。