Room 円堂が家に来ることになった。
不動が余計なことを吹き込んで、俺の家が汚いのがバレてしまったようだった。
「だから、悪かったって言ってんだろ?」
「言ってないだろ」
「チッ、バレたか。でもちょうどいい機会なんじゃねェの?片付けの」
「余計なお世話だ」
怒りのままかけた電話はこちらから切った。なんだかんだ世話焼きな不動に部屋の汚さを指摘されるのは何度目だろう。
別に、生ゴミを溜めたままにしているわけじゃない。取り込んだ洗濯物がそのままだったり、読んでいない本が積み上がっているだけだ。指摘されるところがあるとすれば、水で洗って乾かしたまではいいが缶ビンの日に出すのを忘れ続けている大量のビール缶くらいだろうか。
ただまあ、それを円堂に見られるというのはいただけない。円堂は、今も俺のことを『いつもきちんとしていて面倒見の良い幼馴染』として扱ってくれているからだ。
俺がどんなことをしてもずっとそう思っていてくれている円堂を、二度も裏切るわけにはいかなかった。
のろのろと黒いゴミ袋に捨てるものと捨てないものを分別していく。
まさかこんなに溜まっているとは思わなかった。片付けても片付けても終わらなくて、不動があんなに引いていた理由がやっとわかった。
ここに円堂を呼ぶのか。この部屋の酷さを実感して、改めてその事実にぞっとした。
もし、明日までにこれが片付かなかったら?
円堂に、自分が思っているより適当な人間だとバレて幻滅されたら?
そう考えたら、目の前に積み上がった本も、散乱した服も、すべてがゴミの塊に見えて。
「……全部捨てよう」
掃除は昼下りに始めたはずなのに、気がつけば夜になっていた。明日は円堂が来る日だ。もう大丈夫、部屋は綺麗だ。
***
「お邪魔しまーす!」
「ははっ、どうぞ」
部屋に招き入れる。わくわくした様子で部屋に一歩足を踏み入れた円堂が、立ち止まった。
「……え?」
「驚いたか?」
目を細めて、笑う。
埃1つなくて、ぴかぴかで、光だけが差しているがらんどうの部屋。
「……綺麗なもんだろ?」
そうだなって言ってくれ。お前に会うたび何かを得て何かを捨てる俺のことを肯定してくれ。そんなふうに祈りながら、俺はまた笑う。できるだけ不自然じゃないように、できるだけ恐ろしくないように。
円堂の口元をじっと見つめる。その唇からどんな言葉が飛び出るのか、見ていたかった。
「綺麗だけど…」
つきん、と胸が痛んだ。
「…なんにもないな、この部屋」
ああ、お前はそういうヤツだ。ずっと、昔から変わらない。俺を肯定してくれる癖して、同時に痛いところも突いてくる。
「家具を、新しく買ったところなんだ。テレビもテーブルもソファも、全部。手違いで新しいのが届くのは少し先になったけど」
白々しい嘘をつく。不自然なそれも、円堂なら受け入れるはずと踏んで。
「そっか、それじゃあ仕方ないな」
ほら、やっぱり。俺がそんなことを思っているとはつゆ知らず、円堂は言葉を続けた。
「不動がすっげー汚いって言うからさ、まさか風丸が!と思ったんだけど…やっぱ違うよなあ…昔から、机の中とか綺麗だったもんな」
俺の全部をわかっているような顔をして、肝心なところがわかっちゃいない。円堂はいつもそうだ。変わらないでいてくれることが嬉しくて、とても憎い。
「円堂、テーブルもなくて悪いけど、よければ酒でも飲まないか?」
「おーっ、いいな!久しぶりだな、風丸と飲むの」
「ああ。俺が買ってるやつでよければとってくるよ」
「おう!ありがとう!」
円堂に背を向けて、キッチンに向かった。
ビールを取り出して、冷蔵庫の扉を閉める。
冷蔵庫に映った俺の顔は、あまりに醜かった。
この部屋の中で何より、汚らしく見えた。