数日前の仕事以降、Vは強化腱を入れた脚から時偶軋むような異音を聞いていた。痛みはなく、歩くのにも支障はない。しばらく放っておいても良いかとVは思っていたが、脳裏にちらつくサングラス越しの眉間の皺にとうとう屈した。用があるときよりない時の方が来たくなるのも変な話だ、などと考えながら、Vはリトルチャイナの通い慣れた道を歩いた。
昼前に着いたヴィクターの診療所には先客がいた。ヴィクターはVを一瞥すると、奥のソファーで待つよう目配せした。Vも勝手知ったるもので、軽く頷くと、ヴィクターの仕事の邪魔にならぬよう黙って奥に引っ込む。ソファーに身を横たえたVは、目を閉じる。Vはこうしてヴィクターと見知らぬ患者の雑談をなんとなく聞いているのが好きだった。だが、今日はいつもよりヴィクターの口数が少ないようだ。二言三言差し障りのない雑談をして、ヴィクターの客は帰っていった。
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