莫玄羽と魏無羨 声と声が弾け合って、幸せを生む。ずっとこうして笑っていたいと思わせる。空はどこまでも広がり、青は白くてまぁるい雲で飾られている、その下。小さな家と広い庭で、僕は幼なじみと一緒に本を見ていた。たくさんの写真と文字が少し書かれた、子ども向けの花の図鑑。庭に咲いた花々の中に、今開いているページに載っているものと同じものを見つけて、僕と幼なじみははしゃぐ。「ここに来たら図鑑と同じものが見られるね」と僕が言えば、幼なじみは「そうだね!ほら、この花も、あそこの花壇にもあるよ」と返してくれた。優しく見守っていた老夫婦が、「次の季節にはまた別の花が咲くよ」と教えてくれて、次の季節を楽しみにして。
「ああ、幸せだなぁ」って僕は呟く。幼なじみが「何でしんみりしてるの」とくすくす笑った。
「しんみりしてるんじゃないよ、再確認してるの」
「ふーん、そういうことにしておいてあげる」
「もう!本当にしんみりしてるわけじゃないよ」
「本当なんだから」と言って、僕は図鑑を閉じた。幼なじみが「ああっ!」と残念そうな声を上げた。
「まだ読んでたのに」
「僕、近くで花が見たい。君はそう思わないの?」
「思う!よし、行こう!花壇の近くに行こう!」
「うん!……わっ、ちょっ、速いよぉ」
幼なじみが僕の手を引っ張って、花壇に駆けて行く。幼なじみは足が速くて、僕は遅い。だから着いていくのに必死だった。
幼なじみは笑顔で振り向く。聞こえる笑い声から彼は笑顔だというのは分かるのに、陽光が眩しすぎて、幼なじみがどんな顔をしているのか分からない。
彼は、どんな顔だったっけ。
「ははは!転ばないでよ、玄羽!」
こんな声だったかな。
もう、覚えていないな。
「莫玄羽ッ!!」
ハッと僕は目を覚ます。聞こえた怒鳴り声はとても高くて、耳の奥でキンッと音を鳴らせる。
楽しい夢はもう終わり。僕は現実に戻ってきてしまった。
「莫玄羽、早くしなさい!」
「はい、分かりました」
寝台らしい寝台も無くて、床の上に直接布団を敷いて僕は眠っている。起き上がって布団から出て、素早く制服に着替えると、僕は部屋を出た。真新しい制服は今日まで袖を通していなかったから、硬くて動きづらいけど、数秒でも遅れたらダメだから、僕は必死で足と手を動かして、朝の家事を行う。伯母一家全員の朝食を作って、昼食となる弁当も作る。そのあとは昨夜洗濯した衣服類を干す。この時大事なのは、僕の衣服類は干さないということ。僕のはひっそり自分の部屋で干す。そうでもしなきゃ、僕の衣服類と一緒に干されていることに伯母が嫌悪感を表したり、七歳になったばかりの従兄弟が悪戯に僕の衣服類にハサミを入れたりしてしまうから。そしてそれらに少しでも僕が何か言い返してしまったら、伯父に殴られる。ただでさえ普段から近くにいただけ、視界に入っただけ、息をしていただけで怒鳴られているんだ。これ以上怖い目に会いたくないから、僕はひっそりと生きるしかない。
ただ今朝は最悪なことに、伯母がいつもより早めに起きてしまった。僕がいつも通りにひっそり家事を終えたって、伯母に怒鳴られてしまう。
「莫玄羽!お前、起きるのが遅いんじゃないの!?」
いつも通りだよ。
そう言おうものなら問答無用で平手打ちだから、僕は「ごめんなさい」と俯きながら謝るしかない。けれど伯母はそれが何故か気に入らず、俯いて下がった僕の頭を、持っていたカバンで殴った。
痛いけど、しょうがない。伯母が早く起きると知らずにいつも通りにしようとした僕が悪いんだから。
「お前のせいで朝食を食べそびれてしまったわ!ああ、腹立だしい!」
湯気が立っている朝食を一度も見ることなく、伯母は家を出て行った。家の外からカツカツとヒールの音が聞こえるんだから、きっと苛立ちはまだ収まっていないんだろう。僕は叩かれたことで乱れた髪を直して、伯母の分の朝食をどうしようかと考えた。今日の僕の昼食にしてしまおうかと皿を手にした時、どたどたと大きな足音がした。
「おい、莫玄羽!」
メモ
莫玄羽と魏無羨が幼なじみで同級生の現代AU
莫玄羽の家の隣は魏無羨の家。近所に心優しい老夫婦がいる。莫玄羽にとって心休まる場所は魏無羨の隣と老夫婦の家。よく2人で老夫婦のところに遊びに行っては、飼っている猫ちゃんと遊んだり、お菓子を貰ったりしていた。老夫婦には息子と孫がいたけれど、どちらも遠く……遠くに……行ってしまったので、2人を孫のように可愛がっていた。
魏無羨の両親が事故死してしまう。魏無羨は父の従兄弟だという江楓眠に引き取られる。「俺たち、離れてても友達だからな!」「うん!また会おう、絶対会おう!」「ああ!」電話では、莫玄羽のろくでもない家族に切られてしまうからと最初は文通していたけれど(手紙等を取るのは莫玄羽の役目。家事全部莫玄羽)途中で叔母にバレてしまい、それからは返事を出せなくなってしまった(小学生の頃)莫玄羽は魏無羨が引っ越してからはいじめられるようになっていた。
中学を卒業する頃、従兄弟のお世話係として雇われている男に夜這いされる。それを従兄弟(5歳)があたかも莫玄羽が悪いように叔母に言い、余計に家に居づらくなる。高校行かせてもらえるのはあくまで世間体のため。
とか他にも色々捏ねくり回してたら回し過ぎて何も分からなくなった。