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    omaenozirai2

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    現代AU

    モブに嫉妬される魏無羨がホラーに巻き込まれる 使われたものは百号のキャンバスと白と黒の絵の具。いっそ水墨画を専攻した方が良いのではないかと思ってしまう、たった二色のそれ。だがそれは水墨画ではなく西洋絵画でないと表せない生々しさがあった。
     たった二色で描かれているのは、決してこちらを見ることのない、古装の男性の姿。風景の揺らぎとぼやかしは夢を見ているようで、その中心に立つ男性だけが現実のよう。近寄って見れば、幾度も塗り重ねられていることが分かる。けれど、描いている時に決して迷いなんて無かったと察することができる力強さがあった。長い間をそれ見たあと、目線を下へ下へと移す。絵画の下には、絵画のタイトルと作者名の書かれたプレートが壁に付けられていた。

     『酔夢前塵 魏無羨』

     魏無羨。私は彼の名前を知っていた。同じ学科の天才児。モデル無しに全てを描けると噂され、一時間を与えると他の人ならば三日かけて描く絵を完成させるとまで言われている。まあつまり……絵画の神に愛された青年だ。だが彼はそれだけではなかった。顔も良ければ性格も良く、IQもかなり高い。元は孤児院にいたが、亡くなった父親の知り合いが国内有数の大金持ちの江家の当主でそこに引き取られたというドラマのようなバックストーリーもある人物だ。ここまで凄いと、妬む気持ちも起きないだろうか?憧れ、崇拝……そういったものを抱くだろうか?……残念ながら、もしそれらの感情を抱くようなら、この学校、特に私と同じ学科ではやっていけないだろう。
     魏無羨。彼は西洋画科の全ての人の憎悪と嫉妬の対象だった。

    「また魏無羨よ!」

     私の隣にいつの間にかいた同学科の女子が、ヒステリックに叫んだ。

    「モノクロのこれが西洋絵画ですって!?」

     信じられない!講師の目は節穴ね!
     親指の爪を噛んで彼女は魏無羨の絵を睨む。そして鼻息を大きく吐き出すと、その場から荒々しい足取りで去って行った。

    「…………」

     私も彼女と全く同じ気持ちだ。だが、こうも思う──この絵を描いたのが魏無羨ではない、まったく別の誰かだったなら、こんな気持ちにもならず、素直に賞賛しただろう。
     例えば、魏無羨が私と同じ学科どころか同じ学校、同じ歳、同じ国、同じ時代に生きる人間でなかったら?私は彼を崇拝しただろう。そしてその存在を疑ったに違いない!それほどまで、彼の全てが素晴らしかった。だが現実は同じ時代の同じ国に生まれ、同じ歳で同じ学校の同じ学科に通う人間だ。
     なのに何故?
     何故私と彼はこうまで違う?
     私は今まで多くのデッサンをしてきた!実家の私の部屋にある本棚には、本より多くスケッチブックが入れられているし、床にもそれらは積み上げられている。手が何かを掴み始めた頃からペンを握り、物心がついてからは絵の具のついた筆を握った。勉強よりも絵を描くことに集中し、そのおかげで一時は親に利き手を折られそうになったけど、ずっとずっと描いてきた。
     なのに……どうしてこうも……才能という理不尽で努力が否定されるのか……?
     どれだけ頑張っても、この魏無羨に勝つことはできない。彼がそこにいる、ただそれだけで、私や他の人々は展覧会に出ることは出来ず、賞を取ることはできず、信じて送り出してくれた親に冷たい目を向けられなければならない。

     ああ、酷い。
     なんて酷い。

     私にだって、誰かの努力を踏みにじることができる才能があったはずなのに。

    「……」

     白黒の絵の中で、振り向かない男性と揺らいでいる景色。色が無くても、この現実の延長にあるかのような絵。

    「………………」

     努力を踏みにじる神からのギフト。人はそれを才能と呼ぶ。じゃあ、それを踏みにじるものを人は何と呼ぶ?この絵をめちゃくちゃにし、彼の根も葉もない噂を広める人を何と?

    「…………………………」

     ……いや、何を考えているんだろう。馬鹿馬鹿しい。そんなことより絵を描くべきだ。
     私は首を振って、その場を去った。



     そのニュースは、私が登校した朝には既に学校を騒がせていた。

    「なんてこと……」
    「これはさすがに……」
    「こんなことあっていいの……?」
    「いったいだれが……」
    「信じられない……」
    「でもきっと……」
    「ああ、多分それは……」

     違う学科の生徒、同じ学科の生徒。皆が皆、口に手を当て驚愕し、軽蔑し、非難し、悲観した。

     『酔夢前塵 魏無羨』

     そう書かれたプレートの上に絵画は無い。取り外されたのだ。だがこれが問題なのではなく、取り外された理由こそが問題だった。
     酔夢前塵と名付けられた絵画に、存在すべき古装の男性。彼が消えていたのだ。塗りつぶされたのだろうが、その能力はあまりに高く、まるで男性が絵画の中から立ち去ったかのように修正されていた。勿論、魏無羨はそんなことをやっていない。犯行予想時刻と思われる昨夜から今朝まで、彼は家で家族と一緒だったと、彫刻科に通う彼の義弟がそう証言していた。
     では誰が?
     そこで学校中が思い浮かべるのが、西洋画学科。当然だろう。学科中が魏無羨を憎悪し嫉妬していたことは、常識だった。それに、このような修正を伝統絵画科ができるだろうか?水墨画科ができるだろうか?彫刻科ができるだろうか?その他多くの学科ができるだろうか?

    「あ、魏無羨だ」
    「落ち込んだ顔ね」
    「そりゃそうだよ」
    「犯人ははやく名乗り出るべきだ」
    「人としてどうかと思うね」
    「魏無羨も可哀想に」

     魏無羨への同情、犯人への嫌悪。西洋画科の生徒たちの、警戒するような目。でも、私の心はとてもすっきりしている。あの魏無羨がついに痛い目を見たからだ!

    「魏兄!」

     一人の生徒が魏無羨へ駆け寄った。彼は聶懐桑。魏無羨の幼馴染らしい。水墨画科の彼は、自分で作ったという綺麗な扇子を強く握りしめ、「私は、私は……っ!」と思いを言葉にした。

    「私は許せない……!犯人探しを手伝う!必要なら、警察の兄の手を借りるよ!」

     聶懐桑のそれを皮切りに、生徒たちは魏無羨に声をかける。彼らは犯人探しを手伝うことを約束していた。

     ──ああ!!

     言っておくが、私は犯人ではない。決して、そうではない。だが……そう……ムカつく。ムカついた!酷く酷くムカついた!!

    「何あれ」

     近くにいた同学科の生徒がそう吐き捨てた。私はその言葉に心の中で同意した。悲劇のヒロインのように皆に言葉をかけられる魏無羨の姿は、嫌悪に値するものだった。もし私が同じ目にあったら数人は声をかけてくれるだろうが、あのように多くの生徒は声をかけてくれることもないだろうし、遠くで誰かしらが「まあ、あいつってさ……」「ああ、確かあいつは……」と私の悪い噂話をするのだ。
     魏無羨は生徒たちにいくつかの声をかけると、普段講義に使用している教室へと向かって行った。どういうわけか、落ち込んでいた表情に比べ、彼の後ろ姿は生き生きとしているように見える。
     自作自演はアリバイのせいで有り得ないが、もし彼が誰かに頼んで自分の絵を修正させていたら……?まさかまさか、彼は悲劇のヒロインになるべくわざと……?
     そう馬鹿な考えをしてしまうが、きっとそれは真実ではない。もし真実だったら、明るみになってほしいと思うし、面白おかしく騒ぎ立てる自信があるが、実際はただの空想である。底辺のものが上にいるものを引き摺り落とすことができないから、頭の中だけで引き摺り落とすマスターベーションのようなものだ。だがこのマスターベーションを現実にしたい輩というものは、必ず一人はいる。そしてそれは、この現状の場合、誰もが察することのできるように西洋画科の生徒だった。

    「人の目を惹きたくて、わざとやったに違いない!そう、人を使ってな!」

     金子勲だ。彼は西洋画科で物理的にも社会的にも最も声の大きい人物だった。しかし、今回もそうであるとは限らない。

    「そう言う金子勲が最も怪しくないか?」
    「ああやって言うやつほど、何かを隠したがっているのさ」
    「魏無羨がそんなことをする人だろうか?」
    「それこそ、金子勲が人を使ってあんなことをやったに違いない!」
    「昔から金子勲のいい話は聞かなかった……」

     多くの疑いの目が金子勲に向かった。西洋画科の生徒たちは、「ああ、あいつか」「これで事件は終わりだね」「体が軽くなったようだよ」と口々に行って、魏無羨と同じ方向へ向かって行った。他の学科の生徒たちから疑いの目を向けられるのは苦しかったし、「何故!」の気持ちが強くなる一方。しかしこうして一人だけにその目が向くのなら、例え金子勲が犯人でなくなって良かった。結局のところ、誰だって人に延々と見られ続けていたくないのだ。目を惹き付けるのは自分が描いた絵であってほしい……勿論、「惹き付ける」と言うのだから、良い意味で!






    モブに嫉妬される魏無羨とホラーと忘羨が書きたかった……のかもしれない
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