想定問答集 単純な火力という点ではこの弟子はもう自分をこえているであろう。あとは経験や知識があれば。経験や知識は数日程度の修行では多くは手に入らないが、しかし心構えぐらいなら多少は渡せるかもしれない。
マトリフは修行の合間に幾度もポップに問いを投げかけた。こういう時にどうするんだ?どう対処するんだ?と。その問いそのままのことが実際の戦いの場でおきるとはかぎらない。しかし思考の積み重ねは、戦いの場での判断の材料になることをマトリフは熟知していた。
そしてまたマトリフはポップに問う。
「ポップ、おめぇは俺という強大な火力を決戦の場へ連れて行こうとしねぇな?どうしてだ?」
「だって師匠の身体はよぉ」
「一発二発ならメドローアも撃てるだろう。一緒に戦ってくれとどうして言わない」
ポップは黙り込む。今回の問いへの回答は既に頭の中にある。しかしそれを口にするのははばかられた。いくら傲岸不遜が服を着たマトリフが相手とはいえ、今の自分の考えを師に伝えるのは弟子としての道に外れたことのように思えた。
「ポップ、オレは怒らねぇ。言ってみな。おまえは正しい」
見透かされている。見透かした上でしかしその優しい物言いなのだと知ったポップは自分の見解をゆっくりと口にする。
「師匠はさ……一分勝負とか、おれへ修行をつけるならそんなに心配ねぇよ。だけど戦いの場は無理だ。つっつかれただけで死にそうになるやつがいると回復だってひと手間だし周りも動揺する。でかいのを一発や二発撃っただけで確実にガタがくるしそもそも戦いの場で撃てるかわからねぇ。どこでガタがくるか自分も周りもわからないから戦力として読めないんだ。それならひよっこだけど若くて元気なおれが力を底上げして戦う方がよ、だから師匠が頼りにならないってわけじゃなくて」
「上出来だ」
段々と小さくなる弟子の声を聞きながらマトリフは破顔する。全くもってクールな判断だ。長く生きのこってしまったが、自分の修得した全てを託すことのできる相手を見つけたのは僥倖に思える。岩屋にある書も道具もいずれ全てこいつに引き渡そう。そのためにこいつには生きて戻ってもらわねば困る。
師は戦力外であるとする弟子の見解を肯定され許されるどころか喜ばれて、涙もろい教え子は決壊寸前だった。
「おう今は泣け泣け、その代わり、戦いの場では必要なら仲間も捨て置け。そしてそん時は泣くな。魔法使いはパーティで常にクールでいるんだ」
「うん…」
許された泣き虫の弟子はボロボロと涙をこぼしながらも「次の問いはなんだよ」と気丈に言ってのけた。