こっち向いてよヅッギィイイイ!! 昔々、いじめられっ子がおりましたとさ。いじめられっ子はある時かっこいい1人の男の子に出会いました。
いじめられっ子は、世界一かっこよくてステキな男の子にいつの間にか恋をしてしまいました。
大きくなって、いじめられっ子はいじめられなくなりました。
友達、幼なじみ、チームメイト、色んな名前が2人の間にはありましたが、どうしても恋心を捨てることはできません。
この恋をどうしますか?
「諦められてたら最初っから諦めてるっつーの、こんな叶わない恋」
ぼそっとした呟きは空気に霧散して他の誰に聞かれるでもなく跡形もなくなった…と思った。
「なにが?」
「うわっ!??」
驚き過ぎて頭から地面に突っ込んだ。
べしゃっとなんとも間抜けな音がした。自分の体からグギッなんて嫌な音も。
「ぇっええぇぇ〜なんのことかなぁ〜俺頭打ったから忘れちゃってさぁぁ」
「へぇ…それで、頭を打って忘れちゃった山口クンはなんで僕の質問だけ覚えてるのかなぁ?ねぇ、僕に隠し事なんてしないよね?ねぇ」
目からハイライトが消えたツッキーは見下ろす、いや、見下す様に地面に倒れた俺を睨んでいた。
それからツッキーは目を合わせてくれない。とことん、とことんだ。
流石に部活中はパスはするし声出しはする。最低限に、それ以外は悲しくなるほどの無視。
「いやぁあ!ヅッギィイイ!」
「お前が行けよ」
「いやいや、こういう時こそ王様の出番じゃね?」
「王様言うんじゃねぇ!!
「ごっごめんって影山ぁっ!!」
誰も慰めてもくれない。くそぉ…。
そんなことを言っている間にツッキーはさっさと帰る支度を整えて歩いて行ってしまう。
「いつもなら、一声くらいかけてくれるのに…ヅッギィ…」
「ほら、行けよ大地、部長だろ」
「いやいや、こういうのは個人同士の問題だし、な?そういうスガが行けよ、お母さんだろ?」
「ちげーから」
外野がうるさい…。だってこんな気持ち伝えたらツッキー迷惑だろうし、何より嫌われたくない。考えてたら余計暗くなってきた。体育座りって落ち着くな、一生このままで居たい。
「ほらっ!あんなにどんよりして体育座りのまま倒れたぞっ!」
「もー仕方ないなぁ、俺じゃ駄目だったら大地行ってくれよな」
「スガさん流石っス!」
「尊敬しまっス!」
「うるさいよ君たち、じゃあ行ってくっから」
足音が近づいてきた。もう誰でもいい、この気持ちを聞いて欲しい、ツッキー以外に。
「菅原さぁん、実は…」
「あ〜それで拗れちゃったわけね」
「俺が何も言わずに逃げたから…うぅ」
「なんで月島は怒ったと思う?」
俯いた顔を上げる。思ったよりもずっと真剣な顔をした菅原さんがいた。
「なん、で」
「そう、理由考えたんか?月島だって興味ない事で人のこと無視するようなやつじゃないだろ。つまり、それくらい山口に関心があるってことなんじゃないの?」
「ツッキーが、俺を気にしてる?」
そりゃ、嫌われてるなんて思ってなかったけど、あの冷たい顔も、素っ気ない態度も全部全部、俺に関心があるから?
「話さないより話した方がいいと思うよ、俺は。」
「でも、俺、ツッキーに嫌われたくない…気持ち悪いって思わないっスかね?」
「そんなことねーよ!」
「うわっ!」
バシンっと力強く背中を叩かれる。
「山口が好きになった月島はそんなカッコ悪いやつじゃねーべ?」
ニカッと笑う菅原さんの後ろには同じ笑顔を浮かべたチームメイトが居た。
そうだ、ツッキーは世界一かっこいい。嫌われるのが怖いんじゃなくて、フラれるのが怖いんだ。一緒にいる権利が無くなるなんて、そんなの無理だから。
拗らせて、煮詰めたこの気持ちは、届かなかったらどこに置いておけばいいんだろう。
「難しく考えんな。自信がないなら一緒に考えよう。」
「菅原さん…」
いい先輩を持った、本当に。目の縁に溜まった涙を拭う。
「「「題してっ!!月島に告白だいさくせーん!」」」
キラキラした顔がいっぱい居る…無駄にノリの良いチームメイトも持ったようだった。
『1、男には強引さも大事!』
曰く、いつもツッキーに合わせるんじゃなくて、俺が主導権を持て、ということらしい。といってもどこを強引にすれば良いんだか…。脳筋達は、気合いだ!としか言わないし。
校門で下校するツッキーを待ち伏せする。今日だって無視は続行されているのだ。
「そうは言ってもなぁう〜ん、強引ねぇ」
「また独り言…」
グッドタイミンクでバットタイミングなツッキー登場。チラリと向けられた視線は相変わらず氷点下でたじろいでしまう。
やっぱり無理…いや、皆んなに協力してもらってるんだ、ここで頑張らなきゃ男じゃない。
「ツッキー!ちょっと来て!」
「は?僕早く家に帰りたいんですけど。僕の質問無視した山口クン」
腕を掴んだものの力だけで言えばツッキーの方が強い。ツッキーの視線と周りの生徒の視線が集まっているのを感じる。
ここが第一関門だ。
「いいからっ!校舎裏来て!」
「うわっ!?山口っ、ちょっと!いい加減にっ!」
「ちょっと黙って、早くしないと喧嘩だと思われちゃうよ」
「っ」
教師に目をつけられるのは俺としてもツッキーとしても不本意なはずだ。
腕を握る力を少し強くして歩き出す。後ろを歩くツッキーは何も言わない。まだ怒ってるかな、怒ってるよねぇ…。
仲直りするような雰囲気でもなかったし。
でも、ツッキーが俺に着いてきてくれるなんて、不謹慎だけど嬉しいなって思った。
『2、相手を思いやるべし』
曰く、男なら相手の考えを優先して、好きな人ファーストにしろということらしい。
要はきちんとツッキーの話を聞け、と言うことだ。
足早に歩いたから思ったより早く校舎裏に着いた。腕は握ったまま、ツッキーに向き合う。
怒っている顔を想像して、恐る恐る顔を合わせる。
そこには、バツが悪そうに斜め下に視線を逸らしたツッキーがいた。
こんな時なのに下に視線を投げているツッキーが、なんだか色っぽく見えてドキッとしてしまった。
「ツッキー、なんでそんなに怒ってるの?俺、頭悪いからさ、教えてもらわないと分かんないよ」
「…」
「ね、ツッキー、仲直りしたいんだ…だめ?」
「山口…僕、」
「うん、なに?ツッキー」
モゴモゴと口を動かして、開いては閉じる好きな人は強烈なほど可愛い。視線を彷徨わせて、少し赤くなった頬は早足でここまで連れてきてしまったせいだろうか。
しばらくしげしげと観察していると視線を逸らしたまま、か細い声が聞こえた。
「ごめん、山口、僕、大人気なかった」
「そっそんなっ!ツッキーは悪くないよ!俺が逃げちゃったのがそもそも悪いんだし!」
「まぁそれは単純にムカついた」
「ごめんツッキー!」
「ははっ」
口に手を当てて笑うツッキーはいつもより柔らかい雰囲気になった。俺も緊張していたけど、ツッキーも緊張していたのかもしれない。
俺たち、あんまり喧嘩ってしたことなかったもんな。
「ねぇ、ツッキー、なんで怒ったのか聞いてもいい?ツッキーの事もっと知りたいんだ」
「なんか、いつもと雰囲気違くない?どうかしたの?」
「俺の事は後で話すから、ツッキーの事教えてよ」
「チッ、逸れなかったか」
「今舌打ちしたっ??いやっ、そんな事したって離さないからねっ」
キュッと腕を握り直す。周囲を見渡してるし、隙を見て逃げ出しそうな気配がする。
「はぁ、分かったよ…言います言います。でも引かないって約束できる?」
「引かない、絶対に」
俺がツッキーに引くなんて今のところ思いつかない。
それに、今から引かれるのは俺の方。
これまでの関係を壊すような気持ちを伝えるんだから…。
『3、バシッと気持ちを伝えるべし』
曰く、俺にもツッキーにも頼りになるチームメイト達がいる。
オッケーならお祝いもしてやるし、駄目なら肩くらい貸してやる。気まずいなら間に入ってやる。できる事は全部してやるから、自分とチームメイトと、なにより月島を信じてどーんと行ってこい、とのこと。
今までそんなに親身になってくれる人達なんていなかったし、なんだか照れ臭くなった。
男同士の恋愛を否定しないで、むしろ協力的に見守ってくれる優しい人達。
本当に恵まれている。
「僕さ、山口に好きな人が居るって知って、その…嫉妬したんだ」
「へっ!??」
「だからっ!嫉妬っ!どこのどいつだよっ!お前が好きな奴って!」
手は振り解かれて気づいたら胸ぐらを掴まれていた。
ていうか怖い、すごく怖い。瞳孔開いてるし気持ち髪まで逆立ってる気がする。
ぎゅうっと首を圧迫される。でも、掴んでいるツッキーの手が、小刻みに震えている事に気づいた。
「なんっで、ぼくじゃないの、?いっつも一緒にいたし、ツッキーっ、ツッキーって、ぼくの後ろ着いてきたっ、ぐせにっ、」
「へっ!?それってまさか、いやいや、そんな都合のいいこと、」
「うるさいっやまぐちのばかっ!ばかっ!」
言い終わる前には、胸ぐらを掴む手は緩んでいた。
いつもすらりと伸びている背筋は緩いカーブを描いて覇気がない。
ぼろぼろと溢れる涙が地面を濡らしているのを見て、緩い思考が回る。地面になりたいと思った。ツッキーの涙を貰えるなんて、随分な役得だ。俺だって貰ったことないのに。
こんな事まで考えるなんて、随分おかしくなったもんだ。
それくらい、積もり積もって隠してきた気持ちは重い。
「ねぇ、ツッキー、好きな人、ツッキーって言ったらどうする?」
「えっ…?」
綺麗な瞳は溶けてしまいそうな水気を帯びている。まん丸く見開かれて、いつもより幼く見える憧れのひと。
「こんな言い方じゃ卑怯だよね、カッコ悪い…俺、ツッキーが好きなんだ、ずっと昔から、初めて会った時から、さ…俺の方がツッキーに引かれるはずだよ、友達のフリしてずっと恋愛対象で見てたんだから」
ギリっと奥歯を噛み締める。ツッキーが俺を好いてくれていたとしても、まさかこんなに長いなんて思ってなかっただろう。
ズルいやつとか、ツッキーが1番嫌いなタイプじゃないだろうか。
しかもウジウジしてしまった、ツッキーに嫌われるのが、怖い。
「ねぇ、山口…ほんと?本当に僕の事が好き、なの?友情とかじゃなくて、その、恋愛的に…」
「うん、月島蛍が好きです。カッコよくて、頑張り屋で、皮肉屋で、頭が良くて、狡賢くて、意地っ張りで、優しくて、世界一カッコいいツッキーの事がずっと一緒に居たいって意味で好きだよ。俺と付き合ってもらえませんか?」
「なにそれ、悪口入ってるしカッコいいって2回言ってるし」
「ぜんぶ、全部好きって事だよ」
「っ!あ〜っ!もうっ!悩んでたの馬鹿らしいっ!くそっ」
「つっ、ツッキー?」
「あーもうっ!付き合います!はぁ…、これからもよろしくね」
「ほんと!!??ほんと!?なしって言っても駄目だからねっ!」
「ちゃんと聞いてたでしょ!もう言わない、絶対イヤ」
ズンズンと校門に向けて歩くツッキーは、長いコンパスを贅沢に使って来た時よりも早いスピードで行ってしまう。
「待ってよツッキーっ!」
「山口が遅いんでしょ」
昔話みたいに上手くいくなんて、思ってもみなかった。そんなご都合主義俺だって欲しいよ、なんて斜に構えてみたりして。
そんな俺が一歩を踏み出すには仲間が必要だった。それこそ物語にしか登場しないような、後押ししてくれて信頼できる人達が。
「ねぇ、ツッキー、後で皆んなに報告しなくちゃいけないんだ、その、告白の結果…」
「はぁあ!?なに?これあの人達も関わってんの、うわっ、引いた、うわぁ」
「ごめんっ!ほんとーに申し訳ないですっ、だから引かないでぇえ」
「はぁああ…まあ、感謝しないといけないんだろうね。でも、あくまでも端的に、事務的に報告してよね、教えて欲しいって言われても絶対に様子なんか言わないって約束して」
「うんっ!告白成功した事しか言わないよ。安心してツッキー」
「それなら、まぁ、いいけど」
「改めて、これからもよろしくね、ツッキー」
「よろしく、山口」
こうして俺たちは、晴れて恋人になりました!
めでたしめでたし