寿司を作りたい晶ちゃん前の賢者の書にはこう書いていた。
「寿司は一応作れるけど、味と見た目が一致しなくて混乱するよ」と。
こちらの世界に来てから日本食はすべて「もどき」のもので作っている。味噌もどきとか、醤油もどきとか。味と見た目がそれっぽいものを利用している。調味料は大体「もどき」を使っていれば何とかなっていた。
具材は違った。肉は元住んでいた世界のものと大差ないから大丈夫だ。問題は魚だった。
例えば、肉なら「宇宙鶏」と聞けば鶏肉と、「オアシスピッグ」と聞くと豚肉だとわかる。魚の場合「スペクターフィッシュ」「ビネガーフィッシュ」という名前になっているから、なんの魚に似ているのか推測しにくい。実際調理して食べても、何とも言えない未知の味しかしなかった。何らかの魚の味に近いのだろうけれど、思い出せない。
そんなこの世界で私はふと「寿司を作りたい」と思ってしまった。日本の味が恋しくなって、ついに気持ちおにぎりやネロ作の味がそこそこ似てる味噌汁では足りなくなってきた。
酢飯はビネガーを使ってもできる。でも、ネタがない。いや、あるのだけれどそれを刺身にして乗せて本当に寿司と呼べるものができるかはわからない。
「どうしよう…でもどうしてもお寿司食べたい…」
図書館から魚の図鑑を引っ張りだしてきて必死で読んでみたけれど、寿司向きの魚はどれかわからない。
前の賢者は「味と見た目が一致しない」と言っているから、日本の寿司のネタに近い魚が存在するのだろう。食べたことがあるスペクターフィッシュとビネガーフィッシュではないな、と考えているとあることに気づいた。じゃあ前賢者が食べた魚はどこから持ってきたんだ?まさか「偶然釣れた魚で作った!そこそこ美味かった!魚の名前は知らない!聞かなかった!」ってことは…あるかもしれない。
前の料理担当の魔法使いは亡くなったと聞いている。ネロは私の代からの料理担当だから聞いてもわからないだろう。
「…あ、でもレノックスに聞いたらわかるかもしれない」
レノックスはよく釣りに行っているから魚のことには詳しいはずだった。生息場所がわかれば自分で釣りに行けばいい。いろんな魚を釣って刺身にして食べることから始めてみるか、と図鑑を閉じて席を立った。
いつか、誕生日やパーティーのときに寿司を作れたらいいな、と思いながら。
そしてその夢が実現するのはそう遠くない未来の話。