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    じゃむ

    @JSpettekaka

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    ※デキてない
    ※33×14か15くらい

    もしかして日本刀の知見いる?と思って調べて書いたやつです。チャイが好きなのでクローブも好きです。
    福沢さん、乱歩さんと出会ったあとは普通に刀持ててるのが気になってたので消化できてよかったです。

    #福乱
    happinessAndMisfortune
    #腐向け
    Rot

    ジンジャーマンの記憶 福沢が帰宅後の片付けをしていると、乱歩がふらりと寄ってきた。
     手にはクッキーを持ったまま、口角には食べかすまで付いていた。手は洗ったのか、と問うが返事がない。食べるなら座って食べろ、と続けると、これも乱歩は返事をせず、福沢の胸元に顔を寄せてきた。なんなんだ、と思ったら匂いを嗅がれていた。福沢の胸から襟に沿って、すんすんと熱心に鼻を鳴らしている。
     やめなさい、と言って止める子ではないが一応言った。他所でやったら揉め事になる。言って止める子ではなくとも。
    「このクッキー、福沢さんと同じ匂いがする」
     ようやく言葉を発した乱歩が、左手に持ったままだった焼き菓子を福沢の目の前に差し出した。ひとくち分齧られた簡素なひとがたの焼き菓子が、意思をもって福沢の口元に向けられる。乱歩を妙に気に入った様子の今日の依頼人(御年配の御婦人だった)に謝礼のついでに貰っていた菓子缶のものだろう。洋菓子特有の牛酪のに加え、かすかに洋風の香辛料の香りがした。福沢は少し迷ってから、差し出されたそれを齧った。薄い見た目より硬めのそれをざくざくと咀嚼すると確かに覚えのある匂いがした。ニッキの匂いに紛れる匂いの記憶から引っ張り出す。
    「丁子か?」
    「それだ!」
     ぱちん、と指を鳴らして満足そうに乱歩が言う。「そうだよね、丁子油持ってるもんね」
     自覚はなかった。自覚できないほどに染み付いているのか、と腑に落ちると同時に、福沢はかすかに気分がふさぐのを感じた。それはほんとうにわずかだったが、水たまりを踏んでしまって濡れた足袋が肌に張り付くような、どうしようもない不快さだった。左手の小指にはまだ消えないかたい胼胝がある。
     もう刀は持たないと決めたのに、手放すどころか、未練がましく手入れをし続けている。手入れのための丁子油もまだ手元にある。日本刀は放っておけばすぐに錆びるが、使わないのだから錆びても問題ないはずだった。ではどうして錆びさせたくないのか、福沢はずっと応えを出しあぐねている。
     疑問が解けて満足したのか、乱歩はクッキーの残りを口に放り込み、ふところに飛び込んでぎゅうと抱き付いて、僕この匂いすきー、と福沢の胸に顔を擦り付けた。おおよそ十代後半の男子がする仕草ではなかった。
     刀を待つ者の匂いだというのに、それを知らないわけがないのに、これが好ましいと言うのか、と福沢は思ったが言えなかった。
     人を殺した事実は消えない。反芻し続け、償い続けるつもりでいたし、いつか司法に裁かれるならそれでもいいと思っていた。いつか赦される日などない。ないはずなのに、今日のように、乱歩に好きだと言われると、すこしだけなにかが軽くなるような気がするのだった。償いとも赦しとも違う感覚だった。この子どもがそばにいてくれるなら、今度は間違えずにいられるのではないだろうか、と都合のいいことを考えてしまうくらいには。
     福沢が自責に沈むたびに、乱歩は幼児のように福沢への好意を口にした。おそらく乱歩なりの気遣いなのだろう、と福沢は思っている。買い被りかもしれないし、他に意図があるのかもしれない。確かめたことはないし確かめる勇気も出なかった。
     福沢のちょうどみぞおちにめり込まんばかりに頭を押しつけてくる黒髪のつむじを見下ろす。ひとふさだけへんな方向に跳ねている髪を見付け手櫛で整えてみたが、やっぱり直らず元どおりに跳ねた。撫でられたと解釈したのか、てのひらに擦り寄ろうとする頭を、今度はちゃんと撫でてやる。存外にちいさな頭蓋骨の丸さを愛おしいと思う。
     所帯を持つ資格はないし、だれかを特別におもうことすら退けたかったから隠居のように暮らしていたかったのに、転がり込んできたこの子どもはあっというまに福沢の内側に入り込んでしまった。抱き付かれるのも撫でるのも、お互い遠慮がなくなるくらいに慣れてしまった自覚はある。
     猫の毛並みとは違うが、見た目よりも細い黒髪を梳くように撫でていると、乱歩が大きく息を吸った。肺に空気を貯め、着物に口を付けて勢いよく吹き込む。吹かれた腹のあたりがひどく熱くなる。乱歩の最近気に入りの遊びだった。たしなめようと口を開くと、福沢より先に乱歩が言った。
    「クッキーと同じ匂いだなんて、御伽話みたいで可愛いねぇ」
     主語は省かれたが、福沢は、そんなことは初めて言われた、と思った。驚きで押し黙る福沢に乱歩は続けた。
    「齧ったら甘かったり?」
    「それは、……お前の方だろう」
     口を開いてから、言うべきではなかったと思ったが、出てしまった言葉は飲み込めないので仕方なく最後まで言った。福沢を見上げて、ぽかんと目と口を開いた乱歩にひどく心外な気持ちになった。あんなに毎日菓子ばかり食べているくせにどこに驚く要素があるのいうのか。
    「それって、福沢さんは僕のこと甘そうって思ってるってこと?」
     真っ直ぐ見つめながら言われて、その意味に顔に熱が集まり、眉頭にちからが入る。無表情を保とうとするときの癖だった。甘そうだなどと、まるで睦言ではないか。福沢にそんなつもりは毛頭なく、しかし甘そうだと思っていることも否定できなかった。目を逸らすこともできず、乱歩の幼さを残した頬の丸みをつい目でたどってしまい、薄い下唇にほとんど粉になった焼き菓子が張り付いているのに気付いてしまう。思わず奥歯を噛み締めると、口の中に残る少々のざらつきとあまい香辛料の香りがした。いまの乱歩の口内も同じ匂いがするのだろう。応えない福沢を気にする様子もなく、もう一度強く胸元に頬を押し付けた乱歩が、ふふ、と満足そうな笑い声をこぼした。
    「福沢さん、心拍数上がってるよ」
     得意そうな言い方が癪に触ったので、両手でその頭を鷲掴み、つむじに先ほどやられたように息を吹いてやった。艶やかな黒髪は年相応の汗の匂いがした。先に手を出したくせに反撃されると思っていなかったのだろう、あっつい! やめて! 禿げたらどうするの! と大騒ぎされたので福沢は満足して鼻を鳴らした。お互い生得の負けず嫌いなのだ。
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    じゃむ

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    もしかして日本刀の知見いる?と思って調べて書いたやつです。チャイが好きなのでクローブも好きです。
    福沢さん、乱歩さんと出会ったあとは普通に刀持ててるのが気になってたので消化できてよかったです。
    ジンジャーマンの記憶 福沢が帰宅後の片付けをしていると、乱歩がふらりと寄ってきた。
     手にはクッキーを持ったまま、口角には食べかすまで付いていた。手は洗ったのか、と問うが返事がない。食べるなら座って食べろ、と続けると、これも乱歩は返事をせず、福沢の胸元に顔を寄せてきた。なんなんだ、と思ったら匂いを嗅がれていた。福沢の胸から襟に沿って、すんすんと熱心に鼻を鳴らしている。
     やめなさい、と言って止める子ではないが一応言った。他所でやったら揉め事になる。言って止める子ではなくとも。
    「このクッキー、福沢さんと同じ匂いがする」
     ようやく言葉を発した乱歩が、左手に持ったままだった焼き菓子を福沢の目の前に差し出した。ひとくち分齧られた簡素なひとがたの焼き菓子が、意思をもって福沢の口元に向けられる。乱歩を妙に気に入った様子の今日の依頼人(御年配の御婦人だった)に謝礼のついでに貰っていた菓子缶のものだろう。洋菓子特有の牛酪のに加え、かすかに洋風の香辛料の香りがした。福沢は少し迷ってから、差し出されたそれを齧った。薄い見た目より硬めのそれをざくざくと咀嚼すると確かに覚えのある匂いがした。ニッキの匂いに紛れる匂いの記憶から引っ張り出す。
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    福沢さん、乱歩さんと出会ったあとは普通に刀持ててるのが気になってたので消化できてよかったです。
    ジンジャーマンの記憶 福沢が帰宅後の片付けをしていると、乱歩がふらりと寄ってきた。
     手にはクッキーを持ったまま、口角には食べかすまで付いていた。手は洗ったのか、と問うが返事がない。食べるなら座って食べろ、と続けると、これも乱歩は返事をせず、福沢の胸元に顔を寄せてきた。なんなんだ、と思ったら匂いを嗅がれていた。福沢の胸から襟に沿って、すんすんと熱心に鼻を鳴らしている。
     やめなさい、と言って止める子ではないが一応言った。他所でやったら揉め事になる。言って止める子ではなくとも。
    「このクッキー、福沢さんと同じ匂いがする」
     ようやく言葉を発した乱歩が、左手に持ったままだった焼き菓子を福沢の目の前に差し出した。ひとくち分齧られた簡素なひとがたの焼き菓子が、意思をもって福沢の口元に向けられる。乱歩を妙に気に入った様子の今日の依頼人(御年配の御婦人だった)に謝礼のついでに貰っていた菓子缶のものだろう。洋菓子特有の牛酪のに加え、かすかに洋風の香辛料の香りがした。福沢は少し迷ってから、差し出されたそれを齧った。薄い見た目より硬めのそれをざくざくと咀嚼すると確かに覚えのある匂いがした。ニッキの匂いに紛れる匂いの記憶から引っ張り出す。
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