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    nayutanl

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    nayutanl

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    「シュガーポットの魔法」向け展示だったもの
    賢者とアーサーの幸福の話です。時期的にはクリスマスの話。

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra
    ##晶くん
    ##ひか星0109

    ナターレ しっかり晩ご飯を食べたのに、夜も更けてから嘘みたいに空腹感を覚えてしまい、どうしようか迷っていると近くの部屋のドアが開いた音がした。
     お腹が空くからって一人でキッチンまで行くのは少しためらうけど、誰かと一緒ならという思いで追いかけるように俺も部屋を出たところで、階段の方へ向かう途中のアーサーが振り向いて目が合う。
    「賢者様! どうなさったんですか?」
    「ええと……実は、」
     かくかくしかじか、恥ずかしながら話すと、アーサーは困り笑いを浮かべて「私もです」と言った。
    「不思議です。夕食の直後は、確かにもう食べられないと思ったのに……」
    「そうなんですよね! 俺もそんなかんじで……よかったです、自分だけじゃなくて」
     ちょっと食いしん坊がいきすぎてるんじゃないかって心配になったけれど、仲間がいると分かると安心できた。安心できたところで、俺がそもそも食いしん坊であるということには変わりないとしても……。
    「では、今宵は共犯ですね」
    「あはは……怒られそうになったら、俺が罪を被りますね。王子様をたぶらかした悪者になります」
    「いえ、私たちは二人で空腹に負けたのです。共に叱られましょう」
     こっそりコソコソ、囁くような声で話しながら歩く間、そうやってやりとりをしていると自室からは少し離れたキッチンまでの道も短く感じた。
     空腹に負けたからって一人で何か探しに行くには長すぎる道のりだったけど、運良く出会えたアーサーが隣にいるおかげか、しんと静まりかえった廊下も怖くないし、それどころか楽しい。共犯効果だろうか? こんなことを考えるのはよくないかもしれないけど、そう感じるのもあってものすごく楽しい。
    「空腹感が気になるというのもありますが、少し気分が高ぶっているのかもしれません。寝付けそうになくて」
    「今日は二日ぶりの魔法舎でしたもんね」
    「はい。たった二日ですが、皆とずいぶん話していないような感覚になってしまって。今日は二日分のことを聞いたり話したり、忙しかったです」
     夕食の後も中央の魔法使いをはじめとする若い魔法使いたちで集まって盛り上がってたから、それで少しハイになっているのかもしれない。でも、そういうときって疲れてすっと眠ってしまうか、何かもて余したように何故か遅くまで元気か極端な気がする。今日のアーサーは元気な方だったんだな。
     
     何事もなく辿り着いたキッチンにアーサーが明かりをつけると、中は無人だった。もしかしたら俺たちと同じようにお腹を減らした誰かがいるかもしれないと思っていたけど、この時間は俺たちだけらしい。
     きれいに片付いているキッチンに入って、アーサーはびっくりするほどためらいなく保管庫の扉を開けた。思いきりがいいなと思ったけど、ここにきて遠慮したって仕方がない。明日のために準備してあると思われるものに手をつけないようにして、荒らさず後片付けをちゃんとすれば、大丈夫だろう。
    「私の寝付きが悪いときや、夜も更けて休むような時間になってから空腹を訴えたとき、オズ様はよくあたためたミルクを飲ませてくださいました。そのときに見て覚えた方法で、賢者様にもお作りしますね」
     ふたりで保管庫のなかを覗いてすぐ、アーサーはミルクの入った瓶を手に取った。ホットミルクは眠れない夜の定番だ。もといた世界ではカップにいれてレンジで温めてたなあと少ししんみりしながら、俺はカップを用意する。
    「暖める前に砂糖を加えるのだそうです」
     アーサーはそう言いながらミルクパンにミルクを注ぎ、整頓された調味料の棚からとった砂糖を慣れた手つきで入れた。家事はひととおりできると話していたけど、その言葉に違わず彼の手つきにはそつがない。もしかしたら、俺の方が危ういかもしれないくらいだ。
    「オズ様は、シュガーをひとかけ入れてくださることが多かったです。蜂蜜を入れるのもよいと聞きました。そちらはまた、機会があれば」
    「はい、是非」
     うなずいた俺の目の前で、アーサーは手のひらの上にシュガーを作り、ミルクパンのなかに落とした。彼が幼い頃、オズもこうして―こんな風におしゃべりはしなかったかもしれないけど、寝付けない子のためにミルクをあたためることがあったんだと思うと、何だかそれだけであったかくなって眠たくなってくるような気がしてくる。
     それから最近の出来事や何かの世間話をしながらミルクが温まるのを待って、いい具合のところでアーサーがカップに注いでくれた。ほわほわと湯気のたつミルクの香りの、なんて、なんてやわらかいことだろう。
    「お待たせしました。お気をつけて召し上がってください」
    「ありがとうございます!」
     ふーっと息を吹きかけて湯気が一瞬消える。その間にふとアーサーを見やれば、彼はカップを手にしたまま年相応か普段より少し幼く見える表情で俺を見ていた。
    「少し熱かったでしょうか……?」
    「いえ、そんなことないですよ。丁度いいと思います」
    「でしたらよいのですが」
     きっとアーサーは感想が欲しいんだろう。彼はオズを慕わしく思っているから。オズのレシピで作ったこれを俺が気に入るかどうかがとても気になっているんだ。自分が相手のためにしたことを喜んでもらいたいのは自然なことだし、自分が敬愛しているひとから教わったことを誉めてもらえれば誇らしく思うのも何ら不思議なことじゃない。
     俺は今度こそカップに口をつけて、ミルクを飲んでみた。一口めは熱さを警戒して少しだけ。二口めで、少し量を増やして味わってみる。
    「いかがでしょうか」
    「おいしいです!」
     やさしい甘さが加わったミルクの味と香りは、空腹感と少し冷えてきた体にゆっくり効いてくる。これが、アーサーが幼い頃口にした味。オズがアーサーのために作ってあげたもの。改めて考えながらもう一口飲んだ。おいしい。でも、おいしいという言葉だけで表現できないような気持ちがある。
    「アーサー、」
    「はい」
    「あの……」
     このミルクみたいにあたたかくやわらかくて、優しく包んでくれるようなもの。その時々で形を何にでも変えるもの。
    「幸せって、たぶんこんな味をしてるんだと思います」
    「……よかった。私もそう思っています」
     誰かの編んだそれを違う誰かが編んで、俺に結んでくれた、奇跡みたいな幸福だ。
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    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
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    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
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