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    nayutanl

    @nayutanl

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    nayutanl

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    これ(https://poipiku.com/3138344/7260914.html)の何時間か後、街歩きから帰ってきた年長者たちの話
    昔のことを振り返ったり言いたいこと少し言ったりする、スキット的なかんじ

    和やかな城《追録》 全盛期のスノウとホワイトはそれはもうすごかった―と、フィガロは思い返す。いまは童の姿をとり気を抑えて楽に生きているふたりが、常時目も眩むような美丈夫であったころ。自分がまだ童姿のふたりよりももっとずっと幼かったころ、なんならそれよりも前から続いているのであろうことがある。
     それが、喧嘩である。
     喧嘩といえど、竜の本気の喧嘩。それもスノウとホワイトの大喧嘩である。他の種族の特に力のあまり強くないものはふたりが発した気だけで意識を失うことさえある。いまは然程でもないが、全盛期の喧嘩はそれはもう、それはもうすごかった。……と、今日アーサーに冗談のネタ明かしをしたのをきっかけに記憶の糸を気まぐれに引っ張っていた。
     
    「百と五十年ごとにふたりで天変地異を起こすほどの喧嘩をしてたんだから、すごいですよね。いまもしてますけど……次はあと何年後かな。そろそろきそうな気がする」
    「天変地異とは失礼な!」
    「そこまで荒らしてないもん!」
     
     久しぶりの七の市を楽しんで帰ってきた後、三人とも幻術を解いてくつろいでいたらいつの間にかそんな話になった。始まりは確か、アーサーが訊くことなのだから冗談なんか言わないで素直に教えてやればよかったのにという話だったはずだが、会話は流転するのが常である。
     
    「いやいや、すごかったですよ。少なくともあの頃の俺にとっては天変地異でしたし。本当に……、俺が声あげて泣いたのはあのときだけですからね」
     
     ふたりが喧嘩して出ていってしまい取り残されるまでは我慢ができたが、その後のことは駄目だったのだ。吹き荒ぶ暴風、止む気配をみせない雨にふたりと出会うよりも以前に暮らしていた集落が土砂崩れで埋まってしまったときのことを思い起こして、なにかを感じるよりも前に涙が溢れた。
     きっと生まれたときとその後しばらく、それ以外にはろくに泣いた覚えがなく生きてきたなかで、はっきりと記憶に残っているほどの出来事だった。しかし、あまりに恥ずかしくて絶対に話さないようにしているので、このことを知る者は双子以外にはいない。スノウもホワイトも事あるごとに口を滑らせそうにしているが、阻止を続けて幾星霜。フィガロの懸命な努力によってオズでさえこのことは知らずにいる。そのはずだ。墓穴を掘りたくないので確かめたことはないけれども。
     
    「それは覚えておるぞ。そなたの泣き声で我にかえったのじゃ」
    「我が子を泣かせて何をしておるのかとな。ふたりして大急ぎで帰ったのう……」
    「まあ、あなた方の子じゃないですけどね」
    「「概念!」」
     
     しかし、自分の子でもないのに遠く離れたところで泣いていることなどどう知るというのか。謎のひとつだが、あのときはそれどころではなかったし、余計なことを言って面倒な方へ展開しても困るので結局訊けずじまいだ。それで特に問題はない。今日のようにたまに思い出しては、どちらでもいいことだと心の箪笥の奥にしまいこむということを繰り返すだけである。
     
    「でもあれからそなた、少しずつわがままや生意気を言うようになって我ら嬉しかったのじゃ」
    「怪我の功名ってやつ?」
    「違うと思いますし、喧嘩に後付けで意味を持たせるの虚しくないんですか?」
    「そういうとこ~」
    「生意気~」
     
     早速面倒になりかけているなと感じながら、フィガロは微苦笑を浮かべた。美丈夫だったあのころのふたりにあらゆる面において近づいたか追い越せたか、たまにそんな風に思うこともあるけれどもふたりは相変わらずふたりのままで、揃うと何事も少なからず連携してくるので優位に持っていかれてしまい厄介なのだった。
     いくつになっても、どれだけ生きても自分は彼らには『子』だと思われているのかもしれないし、対等であろうなどという考えはあまりないのかもしれない。だからこちらも生意気とやらをやるのだ。言い換えれば甘えているということなのだが、当然言ってはやらない。
     
    「大体、おふたりは結局どうして喧嘩をなさるんです? 一五〇年おきとはいえ、消耗のが激しいでしょう」
    「それでもやらねばならぬときはあるのじゃ……」
    「意地があるからの、男には……」
    「何を仰る。前回の喧嘩の理由、あれおやつのことじゃないですか? スノウ様は羊羮が食べたくて、ホワイト様は葛切りが食べたくて、ちょっと揉めたときあったじゃないですか。あれ喧嘩の直前だった気がするんですよね」
     
     この推測が合っていれば、ふたりの言う意地というのは自分の意見を押し通して譲らないということになる。いつのころからかなんとなくそんな気はしていたけれど、互いに譲らないと決めたふたりを止めることなどできはしない。
     それに、自分もいつまでもあのときのままというわけではない。もう慣れたといってもよく、喧嘩をして出ていった彼らをどちらが折れるか、飽きてやめるかといったことをオズと話しながら過ごすようにもなった。彼らが出ていったところでひとりではない。ただ、アーサーがこの城にいる限り喧嘩はよしてほしい。それだけだった。
     
    「はあーどうだったかのう。過ぎたことはよく覚えておらんのじゃ」
    「フィガロや、今日のおやつは何かのう」
    「七の市で食べたでしょ」
    「まだ食べてないよ!?」
    「あれは前菜! おめざ!」
    「冗談ですよ。今日のおやつはどら焼きです。しかも栗どら」
     
     ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室。色々あっても、今昔変わらず和やかな午後だった。
     
     
    <おわり>
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    Replies from the creator

    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
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    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
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