Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    nayutanl

    @nayutanl

    無断転載及び無断利用禁止

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💪 🌟 ❣ 💮
    POIPOI 50

    nayutanl

    ☆quiet follow

    月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)

    #魔法使いの約束
    theWizardsPromise
    #月花妖異譚
    moonFlowerDemon

    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
     
    「「それはね……」」
     
     行儀よく、そして好奇心に満ち溢れた目をして待っているアーサーに、スノウとホワイトは少しばかり勿体つけるように笑みをみせてから答えた。
     
    「竜族は成年を過ぎると年をとるにつれまた幼くなっていくからじゃ!」
    「我らも昔はオズやフィガロのような長身の美丈夫だったのじゃよ」
     
     嘘八百である。正確には、前半が冗談で後半は事実だが、真に受けたアーサーは美しい青い目を瞬きなにかをひらめいたような表情を浮かべた。
     
    「でしたら、オズ様もいずれは……?」
     
     アーサーは、脳裏にオズの姿を思い描いた。自分よりもずっと上背の高いオズも、年を重ねていくとスノウとホワイトのようになるのだろうか。自分の知らない幼いオズの姿を想像しようとしたが、ぼんやりとしていて輪郭すらはっきりしない。見たことのないものを想像するのはやはり難しかった。
     
    「そうじゃな。少しずつ若返って、そのうちそなたと同じくらいの背格好になるかもしれんのう」
    「オズも昔はもっと線が細くての。それはもう可愛かったのじゃ。それがいつのまにかあのように立派になって……」
     
     想像がつかなかったことにしょげたアーサーの頭を励ますように撫でながら、スノウとホワイトはアーサーの知らないオズのことを語り出す。
     オズはあまり自分の話をしない。たまにアーサーが訊けばいくらか話してはくれるが、そう多くは語らないし思い出すのにやや苦労するそうで、沈黙が長くなる。そういった時間もアーサーにとって心地よいが、スノウとホワイトの口から語られるオズの話もそれはそれで好きだった。自分の両親がまだ物心つく前の自分について話してくれるのに少し似ていて、嬉しくて楽しいような不思議な気持ちになるのだ。
     
    「あのときのオズときたら、それはもう―」
     
     双子の昔話に花が咲きアーサーは夢中になって聞いていたが、廊下側からすたんと襖が開いてオズが姿を現すとすぐにそちらに向き直り頬をほころばせた。対するオズは物言いたげで苦い表情を浮かべているが、アーサーはたったいままで聞いていた自分の知らないオズの話に心を弾ませていたのだった。
     
    「オズ様! いま、スノウ様とホワイト様からオズ様のお話をうかがっていたのです」
    「与太話だ。真に受けなくていい」
    「やっと出てきおったか。随分長い立ち聞きだったのう」
     
     与太話と言われてもどこ吹く風でホワイトはオズを見上げ、わずかばかり意地悪そうな微笑を作った。話の途中から、オズが部屋の外にいたことはお見通しだったのである。いつ入ってくるかと思いながらアーサーに宝物を見せるようにあれやこれやを聞かせてやっていたが、案外もった方だろう。すぐさま入ってきてもおかしくはなかったというのに、おそらく昔話にはしゃぐアーサーの可愛さと秤にかけて様子をみていたのだとすれば、それこそスノウとホワイトからしてみれば可愛いものだった。
     
    「いまとっておきの話をしてやろうと思っていたのに。アーサー、残念じゃがお預けじゃ」
    「はい、是非また聞かせてください!」
     
     残念そうな表情にひとひら愉悦をまとわせるスノウと、なにも疑いをもたないアーサーが頷くのを見るオズは、苦い丸薬を噛み潰したような表情を浮かべていたが、双子に追及しようとは思っていなかった。話なら概ね聞いていたし、与太話なのは竜族の外見の変化についての話であって、双子がアーサーに話した自分の話に関しては決してでたらめを言っているわけではなかったからである。自分でもよく覚えていないような話をふたりともよくもまあ覚えているものだと思いながら、オズはアーサーに声をかける。
     
    「……同じ年格好がよいというのであれば、待たせずとも見せてやれる」
     
     フィガロほど変化の術は得意ではないが、自分の外見的成長度を変えることくらいなら容易い。アーサーが双子の話を信じないよう後で言っておくにせよ、一目見て気が済むのならそれで完結させてしまってもいいだろう。そう思い、オズはあまり使わない術式を展開させた。
     実のところ、外見的成長度を変えるという結果は同じでも自分の術式と双子のそれはまったく違うのだが、そこまで説明するのはやや億劫なのだ。先程から教えてやろうと考えてはいるのだが、基礎が分からない相手でも解るように言葉を選ぶのは時間がかかる。よって、この場での説明は放棄した。
     
    「可愛い~!」
    「懐かし~い!」
     
     瞬く間に姿を変えたオズを見た双子は歓声を上げてはしゃいだ。もうずっとずっと、他の種族のものからしてみれば気が遠くなるほど昔のオズの姿である。上背もそれほどなく線の細い、つい先程アーサーに話した通りの格好のオズを囲んで頭や顔を撫でくりまわして懐かしむ。
     
    「ねえねえ、向こう100年くらいこの姿でいない?」
    「断る」
    「アーサー、おいで。オズと並んでみよ」
     
     ふたりは、幼くなったオズの隣にアーサーを連れてきた。オズが頑張ったのか、ふたりはおよそ同い年くらいの背格好で、普段とは違う目線の近さにアーサーの表情からは喜色が溢れている。姿が違えば声も違うが、それでもオズはオズであるというのが分かって嬉しいのだ。
     
    「……満足か?」
    「オズ様。もしよろしければ、このまま街へ遊びに行きませんか?」
    「行かない」
    「……」
    「……少しだけなら」
    「やったー! ありがとうございます!」
     
     一度はしょげたものの、小さく羽をはためかせ跳びはねるアーサーを見て、オズはふと物言いたげにした唇を結び眉間に力をこめる。目線が近く表情がより分かりやすいからか、訴求力が増しているように感じられつい頷いてしまった。まさか、精神が姿に引っ張られているのか。いや決してそんなことは。
     しかし、アーサーはよほど嬉しいのかすでにオズの手を握りしめて双子に向かって「いってきます!」などと言っている。
     
    「待って待って。オズ、街に出るならもっと気を抑えるのじゃ」
    「これ以上抑えると気絶するが……」
     
     オズの術式は、自分の気を抑えながら自らの姿を幻術でもって変えて『みせている』。フィガロほど得手ではなく、スノウとホワイトほど慣れているわけでもないので、この手の術に関して彼らと比べると、子ども騙しのようなものなのである。
     アーサーには説明し損ねたし本人たちもいま明かすつもりはないようだが、スノウとホワイトの姿はまさに気を抑えることで保たれており、幻術の類いは一切使っていない。竜は年を重ねれば重ねるほど幼くなっていくというのは真っ赤な嘘だが、年を重ねて熟練したものでないと制御はできない。気を放出しすぎないよう抑えることで周囲のものに与える圧力や自らの疲労を減らすことができる反面、抑えすぎれば意識を保っていられなくなる。
     街へ出るなら―それもアーサーと共にとなればもっと気を抑える必要があるのは承知しているが、匙加減が難しくこれ以上となると不安定になる。自分ひとりであれば気にしないことについて煩わしく思っていると、ホワイトが「我らが手伝ってやろう」と言って襖を開け放った。
     
    「フィガロちゃん、いつまで盗み聞きしておるのじゃ。さっさと出てきて!」
     
     廊下には、気まずそうな顔を作って笑っているフィガロが立っていた。オズはわざとらしい男だと思いながらフィガロを見上げたが、アーサーは彼と会えたのが嬉しいのか羽をふるふる震わせてフィガロに挨拶をしている。
     
    「フィガロ様、こんにちは。これからオズ様と街へ出かけるのです」
    「それはいいねえ。今日は天気もいいし、散策日和だよ。七の市もやってるはずだから、楽しんでおいで」
     
     七の市とは、桜雲街で毎月『七』のつく日に行われる縁日のことで、商店が安売りをしたり屋台を出したり、普段はしないこの日だけのもてなしをしたり街全体がいつも以上に活気づく。街の内外問わずやってくる客が多いが、皆子どもには優しいので不自由なく見て回ることができるだろうとフィガロは話した。
     
    「オズもそなたも今日は立ち聞きが好きじゃな」
    「いや、どう話が転がるのか気になって。一番楽しそうなところで出ていこうと思ってたんですよ」
    「では最高の頃合いじゃな。早うせい」
    「もう。人使いが荒いんですから」
     
     フィガロが街へ繰り出して過ごすのが好きであることはオズも知っていた。いつも奇特だと思いながら出掛けていく彼を見ていたが、まさかこんな風に世話になる日がくるとは思いもしなかったけれども―。
     スノウとホワイトにせっつかれながら、フィガロは楽しそうに困り笑いを浮かべオズに向き直った。双子は仕方ないにしても、フィガロにはこの姿を見られたくなかったオズは不服そうにしているが、双子同様懐かしく思っているフィガロは、いまでは失われた丸みを一時的に取り戻したオズの両頬に手を沿わせてもちもち撫でた。
     
    「しかし可愛いな、オズ。100年くらいこの姿でいろよ」
    「おまえまでふざけるな」
    「結構本気なのに。それで、遊びに行くんだっけ。何になりたい?」
     
     手を振り払われても気を悪くするでもなく、フィガロはオズに尋ねる。街へ出るのに竜の姿のままというわけにもいかないので、別の種族のものに見せかける必要があるのだ。オズは変化は不得手だし、おそらく双子は自分達で気を抑えてやるつもりでいるので姿のことは任せるつもりなのはホワイトが「手伝ってやる」と言った時点で察していた。完璧にやる自信はあるのであとはどの種族に見せたいかなのだが、オズはおそらく興味があまりないのだろう。隣ではアーサーが全身で「わくわくしています」といった様子でいるというのに反応が薄い。
     
    「我らはいつも妖狐にしてもらっておるぞ。可愛い双子の子狐じゃ」
    「どうせすぐ帰る。何でも構わん」
    「じゃあ俺の好きにするからな。文句言うなよ」
     
     何でも構わないというなら考えている時間の方がもったいない。アーサーが待っているし、こんな機会はほとんどないのだから早く準備して出掛けた方がいいだろう。フィガロが術式を展開させると、それに続いてスノウとホワイトも別の術式を展開し始めた。
     姿を変え、自らどうこうせずとも気を抑えられるようにし、これでやっと市井によくいる子どものできあがりである。よくいるというには整いすぎているようにも思えるが、薬種問屋の息子も将来が楽しみな美しい白狐だしおおよそよくいると言える範囲だろう。
     
    「よしできた。我ながら完璧な仕上がりだ」
    「オズ様が猫又に……! フィガロ様、ありがとうございます!」
     
     アーサーが言ったのを聞いてオズは無意識に頭上へ手をやった。見せかけなのでそこにあるのは普段と手触りが違うだけの角だったが、スノウが持ってきた鏡をのぞけば、うつっているのは角の代わりにぴんと立った三角耳のついた自分と、その隣に並ぶ満面笑顔のアーサーだった。
     
    「普段の姿ならもっと立派な猫又にしただろうけど、子どもだからね。いい塩梅だろう」
    「気も術が効いている間は並みの種族程度には抑えられておるからの。心置きなく遊んでくるがよい」
    「小遣いもやろうな。土産はいらぬぞ」
    「ありがとうございます。オズ様、可愛いお財布ですよ!」
    「……そうだな」
     
     アーサーの気が済めばそれでいいと思っていたのに、意図しない方向へどんどん話が転がっていってしまった。スノウとホワイトから持たされた猫の顔型の財布をアーサーと二人で受け取りながら、オズは小さく息をつく。
     妙なことになってしまった。けれども、アーサーはあまり見ないほど嬉しそうにしているし、周囲のものにこちらのことを気にさせずに街を歩くことができるのはアーサーにとっては過ごしやすいことだろう。果たして彼が満足するような散策ができるかどうか、それは分からないけれどもアーサーの願いをひとつでも多く叶えられたら僥倖である。
     
    「それでは行ってまいります!」
    「あっ、アーサー待って。いいこと教えてあげる」
     
     財布をしまっていまにも駆けていってしまいそうなアーサーを呼び止めたフィガロは、少しばかり身を屈めてそっと耳打ちした。黙っていても何ら構わないのだが、オズのことだからアーサーにスノウとホワイトの冗談を信じないようにどう説明しようかなどと頑張って考えているはずだ。せっかく遊びにいくのにそんな屈託はいらない。子どもも大人も、遊ぶときは無理してでも全力で遊ばなければ。
     
    「双子様もその気になれば美丈夫の姿になれるからね」
    「びじょうぶ」
    「俺とか普段のオズみたいな男のことさ。詳しくは気が向いたら双子様に訊くといい。
     ……さ、行っておいで。お財布落とさないようにね」
    「分かりました。気を付けてまいりましょう、オズ様」
     
     そうして今度こそアーサーはオズと共に出掛けていった。よほど嬉しいのか、目線が近くなったことによって距離感が近くなったからか、ふたりが手を繋いで歩いていくのを見送りながら城に残った三人はゆるりと笑み交わした。無垢なる疑問から始まりこのようなことになるとは、なんとも楽しくて、面白い。
     
    「いいなあ。俺も一杯ひっかけに行こうかな」
    「我らも久方ぶりに七の市を見て回りたいのう。茶菓子の買い置きも欲しいし、たまには自分で選びたい」
    「うむ。この間買ってきてもらった豆菓子がうまかったから、店を見てみたいと思っておったところじゃ」
    「ああ、お気に召しましたか? あれ酒の肴にもいいんですよね。俺もいくらか欲しいので案内しますよ」
    「「やったー!」」
     
     決してアーサーとオズが心配だとか、ついていきたいというわけではないが、ああして楽しそうに出掛けていくのを見ると気が乗ってくるというもの。三人は術をかけ連れだって浮かれ気分で桜雲街中心地へと向かったのだった。
     
     
     
    <おわり>
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💕☺☺🙏🙏🙏☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺👏👏👏☺☺☺☺☺🌸🌸💯💯👍👍🍌🍡🍭🍬🍵🍱☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺👍👍👍👍👍☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    nayutanl

    DONE月花Webオンリー展示
    年長者と強絆のゆるめの話です。
    アーサーの疑問から始まる四人のあれやこれやです。アーサーが外見年齢12~13歳くらいのイメージ。自分が絵で見たい話を書いた形かも。
    公式にない設定が一部ありますが、雰囲気でふんわり読んでください。書いた本人も雰囲気で押し切りました。
    9/9追記:追録書きました(https://poipiku.com/3138344/7470500.html)
    和やかな城 ある日の桜雲街、竜の住まう城の一室で青い目をした天狗の子どもが尋ねた。
     
    「スノウ様、ホワイト様。おふたりは大人なのにどうしてこのようなお姿なのですか?」
     
     この城でそのようなことを尋ねるのはこの子―アーサーだけであろう。スノウとホワイトは一度顔を見合わせてからふたりしてにっこり笑った。
     もう随分長く生きている彼らはこの城の主である。今でこそオズに譲るが強い力をもち、気が遠くなるほど昔からずっと竜族の頂点に君臨している。ここ近年は「早く隠居したい」が口癖で、どうにかオズかフィガロを後継者にしようとしているものの、ふたりにその意志はなく聞き流されてばかりだった。そんなものだから、このところはオズが助けて以来この城にホームステイしているアーサーが後継者になってくれたら……とオズに牽制をかけているが、本気ではないと思われているようである。とはいえ、アーサーが後継者に向いているという直感と竜の住まう城の主が天狗でよいかどうか、そしてアーサーの実家である天狗の一族の事情はそれぞれ別の問題なので、スノウもホワイトも食い下がったり押し付けようとしたりといったことはしない。ただ、隙さえあれば隠居したいと思っているだけで。
    6203

    nayutanl

    DONE紫陽花見ながら話してるホワイトとフィガロの話
    ホワイトから見たスノウとフィガロのこととか、フィガロから見たホワイトのこととか
    ほんの少し生きた心地がしないけど、気のせいかと思うくらいのあったかさはある つもり
    あと、文末に話に関するちょっとしたことが書いてあります。
    ハイドランジアの幽霊師匠と植物園を散策―などといえば聞こえはいいが、実のところは連れ回しの刑である。フィガロは曇り空のもと美しく物憂げな色彩の花を咲かせるハイドランジアに目をやりながらこっそりとため息をついた。
    ホワイトがやってきて「ハイドランジアの花が見頃だから出掛けよう」と誘われたのだが、あまり良い予感がしなかったので一度は断ったのだ。断ったのだが、今回の誘いはこちらに選択権がないものだったらしい。有無を言わさず連れてこられてこのとおりである。

    「そなたら、また喧嘩したじゃろう」
    「喧嘩とはいえませんよ、あんなの」

    少し先をいっていたホワイトが戻ってきて、ごく自然に手を繋いできた。こんなことをしなくても今さら逃走なんてしないのにと思ったが、これは心配性なのではなくて物理的な束縛だ。都合の悪い話をするつもりなのであろうことは断った後の出方で何となく察していたが、切り出されるとやはり身構えてしまう。いいことでも悪いことでも、心に叩き込むようなやり方はホワイトの得意とするところなので、分かっていてもわずかに寒気がした。
    2892

    related works