親友問答歌ーー夏油傑は自分を理性的で常識的だと思っている。
「そうだよね?」
と最も信頼を置いている唯一無二の親友に尋ねたところ、ニコーっとした目隠し越しの笑みで黙ってブラックコーヒーを渡された。
「ありがとう悟」
「どうしたのさ傑、突然自己分析なんて殊勝なこと」
いや何、と目の前の椅子に腰掛け、
「最近『夏油先生もやっぱり、五条先生の同級生なんですね』とか『やっぱセンセーも呪術師なんだなー』みたいなことをよく言われ…え、何その」
話し始めた瞬間、親友は信じられないものを見たような顔をして自分をジロジロと見やる。
「傑。…これまで紆余曲折、本当に色々あったけれど…僕みたいなワガママ放題な奴とよく友達から同僚、やってきてくれたよね。ホント…嬉しいよ。あんがと。」
「唐突なお綺麗な語りに驚愕を隠せないんだが…まあ、君は自由奔放で。私はこういう…」
「それだよ」
ズビシ、と指さす親友。
何がそれなんだい。
「傑は確かに真面目だ。授業もキチンとやって、生徒からの信頼も厚くて、…うん?なんかこれだとまるで僕が授業フマジメで生徒から信頼されてねーみたいだな?いやまさかそんなことねーよ。…ないよな傑?僕だって僕なりに、皆に、」
「ああ、悟は生徒により親しまれるタイプの信頼だろう?私の受けている信頼とは少し違うカタチなだけ。不安になる事はない。」
ウンウン色んなタイプの信頼がある!そう!とすぐ元気を取り戻し、
「まーなんだ、つまり僕と傑は太陽と月のように対であるように思われているわけだよねー勿論僕がたおやかな月!傑が力強い太陽!」
「はは、悟はもう少し自己分析をするかたおやかという単語の意味を調べ直しな?…で?」
「つーまーり。皆こう思ってんのさ。」
ーー『あの』五条悟と一緒にいるなんて、やはりマトモなヤツではないのでは。
「………? おかしい…イカれた所は年単位で表立っては見せてない筈なのに…」
「ハァー自覚的じゃん?俺の相棒ホント最悪だなー…」
「あえてイカれた所を全部請け負って全面に押し出している最強に言われたくはないな…」
くるり、くるりとコーヒーをカップで回す。
ゆらゆらと、二人の顔が揺らめく。
「つーか、だ。今更ほんのすこーしそのイカれた部分が見えた程度で引く奴ら、僕らの周りに…ああ僕らって言っちゃった。うん、僕らの周り。
ーー…居ないじゃん?なーに今更気にしちゃってんのさ、なに?恋?」
「………、いや、まあ…そりゃ確かに…?」
「え」
「…………?」
しきりに首を捻る相談者。
もしかして。
「なあ、してんの?」
「……」
「すーぐーるっ!ねえ!恋ッ!してーんのっ!!」
「やめろ悟。そんな、もう学生じゃないんだから…」
「学生だろーと教師だろーとフリーのオッサンだろーと恋はするし落ちるモンでそれが人間だろーがよ。
…ヘタに自分の情や想いを否定して隠したヤツがどんな『呪い』を生み出したか、…オマエが知らねーワケねーよなあ??」
夏油はじとり、と相談に乗ってくれている親友を見やり。
「勿論把握して理解もしているさ。
己の感情を不自然に押し隠して握り潰すようなマネは、もうしないよ。」
ただね。
「悟?ーー君、単に私を揶揄いたいだけだろ。」
「………。」
えへ、やっぱりバレちゃった?とペロリと舌を出したタイミングで。
ーー今月数度目のアラートが、学校に鳴り響いた。