ほどける(仮)下着とは、文字通り下に着るものだ。ズボン等の下に着用し、服が直接擦れたりしないように、
「それは分かってんだよ」
例によって雑な呼び出しで夏油の宗教施設に来てしまっている虎杖の目の前には、現在、女性ものの下着が存在している。
男のそれと違い布面積が少ないデザインが多いのは、ポジションをキープしたり、包み込む部分を考慮せず済むからであろうか。
また華やかなデザインも多い気がする。多い、というのは虎杖が何枚数百円の下着を買いに行く苗字を冠したファッションセンターなどでふと目に入ったりする類のものだ。少なくとも自分が売り場で手に取ったり、風呂場で一緒になる友人、先輩たちのボクサーやトランクス等と比べれば確実に色柄やデザインはカワイイ。無地にロゴや総柄チェックがメイン、とかではなかったと思う。
いや、じっくり見ていたわけではないけれど。
「や、だからそーいうんでもなくてさ」
ナイナイ、とひとり手を虚空に振り改めて『それ』と向き合う。
「…」
まず、面積がちっちゃい。ちょっぴりポジショニングがキツそうだなという印象を受けた。
そしてつぎに、カワイイというかセクシーだ。なんだかスケスケだし、チョウチョとか花とかの模様がその狭いスケスケ一杯について、フリフリもバッチリだ。世のステキな女の子はこういうんを、なるほど。その点においてのみ、虎杖は深く頷いた。
そして更にさらに、虎杖を一番困惑させているのが。
「……コレ、どうやって履くんだろ…?」
ぺろん、と持ち上げる。するとそのカワイセクシーなパンツは、なんと腰に当る部分がリボン状になっており、アレコレいじってリボンを解いた結果、下腹と尻部分が、蝶のようにピラン、と全開になって持ち上がってしまった。
「え、ええ…何、コレふんどしみたいな感じなんかな…でも俺どっちも履いたことねーし…」
そもそも履かずにこんなものを御用意しくさった教祖に投げつければ全てが丸く収まるのだが、
『へえ、虎杖君紐パン分からないんだ?女の子と「そういう」仲にはなった事、ない?まあまだ15歳じゃあね、…ふふ、まあしょうがないよねえ…』
とか言いながら人の下半身をまさぐりつつなんだかんだ履かせてきそう、いや絶対そうする。だからヤダ。
なのでひとりで完璧に履いてやるのだ。あんな奴の手など借りてなるものか。
たとえ性別は違えど同じ人間の下着なんだからこんなん履けるに決まってんだろ、バカにすんなよ。
虎杖はいつも通り、変な勘違いをし、勝手にポコポコゆだって、意地を発揮してしまっていた。
◇◇ ◇◇
「…で、」
「アンタみたいな変態に言われなくても、こんなんひとりで履けるけど?」
いつもの制服に、紐パン。
当然だが夏油は紐パンだけを置いていた訳ではない。ちゃんといつも通り、その下着が映えるような可愛い服も置いていたし、それに見合うようなガーターベルト等の装身具も見繕っていた。
まあ趣味嗜好はさておき、制服を取り上げて女性用下着だけを置き、
「これに着替えて、私に見せてご覧。…待ってるよ。」
などという危険な指示はまだ与えていないし、そんな『向こう側』に、心を許した唯一無二の親友を置いて渡って行ってしまってはいない。それに親友に知られたら今度こそ命を消される。『死因:十数歳年下の学生に紐パンを強制着用させたことによる無量空処』は御遠慮したい。
「……、あ、ああ。履いてくれたんだ、虎杖君。すごいね?…ところで他の服は」
「………」
風より早く目が逸らされ夏油は大まかな思考の流れを悟った。この子は本当にこの先大丈夫だろうか。そのうち他の呪詛師に騙されて、自分の想像を絶する酷い目にあってしまうのでは?それはいけない、今のうちにキチンと学習をさせなければ。
夏油の不安要素がまたひとつ増えた。
「いや虎杖君、とてもセクシーだし、私の心の中に末永く留め置きたい素敵な光景だと思うんだけれどね、私、確かワンピースとか、ガーターベルトなんかも一緒に置いておいたはずなんだが…ああもしかして紐パン一枚は健康に良いって宗派?成程成程、君にはいつも私好みの服をただただ着てもらうだけだったが…やはりそろそろ君にも『好み』というものが芽生えてきたんだね?!素晴らしい…!
ならばここからはお互いの価値観の擦り合わせを行うというより高みへ…」
数分間、物理的に価値観の擦り合わせが行われた。
「や、最初からそうして欲しかったトコだし俺の答えはノー一択なんだけどアンタの目の前にはマジで今何が映ってんの?幻覚の見える花畑?」
「そうだね、強いていえば楽園かな…」
「現実戻れよ。通常日のデビルマンとかギンパラに座って札シュレッダーすると戻りやすいと思うなあ」
「ふふ、その手の怨嗟ならちゃんと伝わっているからね虎杖君」
最近のものはとかく派手で少し疲れる。人はやはり海と道化師に帰るべきだよなとも思うところも無くはない。
「で、そのカッコで体術までキッチリこなすなんて、君もしかして気に入ってるの?ノーパン健康法ならぬ紐パン健康法?やるね」
「なわけねーでしょうがっ!」
「じゃあ着替えなきゃあね?善は急げだよ?」
「ねえ、そんなら俺の制服」
要望は案の定、意図的に無視された。