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    shimotukeno

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    shimotukeno

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    鈴懸フーイルでふご君が惚気るだけの話

    my fair glass「イルーゾォとはどうなんだよ?」
     藪から棒に「どうなんだ?」とミスタに聞かれて、フーゴはディスプレイに目をやったまま眉をひそめる。
    「どうって、何が」
    「うまくいってんのか? って」
     ミスタは頬杖をついて、にやついた顔できいた。その双眸には悪戯っぽい光がやどっている。フーゴはやれやれ、と心の中で呟いた。
    「うまくいってますよ。これで安心した? さ、仕事に戻った戻った」
     そっけなく答えると、ミスタはむっと不満げな顔をする。デスクワークに飽きて、雑談でもして気分転換を図ろうと思ったのだろうが、残念ながらフーゴはそれどころではない。さっさと終わらせて、一刻も早く帰ってしまいたいくらいである。はや日が傾き、窓からは金色の光が差し込んでいる。今夜はイルーゾォと何か約束をしているわけではないのだが、約束があろうがなかろうが、恋人の待つ家にはやく帰りたいと思うのは当然の心理だろう。
    「だってさあ、気になるじゃねえか……。アイツ、初めて顔合わした時、かなりツンケンしてたからな。ま、無理ねーけど……」
     ミスタは傍らのピストルズたちに語りかける。彼の小さなスタンドたちは皆うんうんと頷いた。賑やかなスタンドがいるのだから、初めからそうすればいいのにとフーゴは思った。
    「フーゴとクッツクナンテナ~」
    「デモ、ジョルノハコウナルッテ分カッテタミテーダゼ」
    「ココマデ上手クイクトハッテ言ッテタケド……」
    「フーゴは意外に情熱的ダヨナ~」
    「スッゲーノ見チャッタヨナ……」
     フーゴはたまらず大きく咳払いをした。数週間前、フーゴが復帰する契機となった任務の後、医務室でむつみ合っているところをミスタ達にばっちり見られていた。あの時の表皮がじりじりと燃え立つような羞恥は今でもはっきり思い出すことが出来る。
    「そういう話、本人の前でするか? 普通……」
     キーボードを叩く指に力を込めながらミスタをにらみつけると、ミスタは相も変わらず悪戯っぽく笑うのだった。こういうときのミスタは結構しつこい。
    「じゃあ、フーゴも参加してくれよ~。俺とピストルズだけじゃあ話題がこんなんだぜ」
    「もっとないの? 他の話題はさあ……」
    「せっかく仲間になったっつーのに、イルーゾォ、よくわかんねえヤツのまんまだろ? あれで意外に物静かなやつだし。最低限の会話しかしねえし……」
    「まあ、それは」
     今は別の用事で不在だが、イルーゾォは大抵フーゴの傍にいるし、フーゴ以外の人間と仲良く話しているところは見たことがない。彼なりのケジメなのかもしれないが、そのせいかジョルノにも「まるでフーゴのスタンドが増えたみたいですね」と苦笑される始末である。プライドが高くて面倒な性分だし、そもそも元暗殺チームのメンバーというだけで、他の者からすれば近寄りがたいところがあるだろう。
    「――で、『どう?』って聞いてるワケよ。これは相互理解第一歩のためだぜえ、フーゴ」
    「はあ……」一瞬納得しかけたが、フーゴはすぐに頭を切り替えた。「いや、僕とイルーゾォがうまくいってるかどうかは関係ないだろ。イルーゾォと話したいなら僕の方でも働きかけるけど」
    「違うんだよな~。お膳立てされたのじゃなくてイルーゾォの自然体を知りたいんだよ。知らなきゃ色眼鏡で見ちまうもんだ」
    「そんなこと言われてもね……。なら、ミスタが積極的に話しかければいいでしょ。話してみれば普通の青年ですよ、彼だってね」
    「ほんとにい? 普通ってこたーねえだろ。暗殺チームのメンバーだぜ?」
    「元、ね。あまりにも仲間を喪いすぎたせいか、寂しがりなところがあるぐらいのもので、特別……」
     瞬間、ミスタの目が爛々と輝いたのを見て、フーゴはまずった、と思った。今のミスタには大きすぎるネタだ。
    「そう! そこ! そういうやつだよ! 詳しく!」
     早速食いついたミスタは、前のめりで話をねだる。完全にペースを持って行かれた。経験上、こうなったらしばらく付き合うしかない。フーゴは大きなため息をついた。
    「ソファに座ってるとくっついてきたりとか……一人で寝てるときに肌掛けを抱きしめて寝てるとか。……いいでしょ、これで」
     ミスタはにやついた顔でふむふむ、と頷く。だが彼はこれだけでは満足するまい。
    「一人でも平気そうな面してるし、なんならアイツの能力、言ってみれば『生命のない世界を作れる』ってのに、ちょっと意外だよなあー」
    「生命のない世界っていっても、ベッドやソファの沈み込みとか、物体の動きは反映されるんですよ。もちろんそのおかげで外の様子を少しは探れるわけだけど、一人でいるときも誰かの気配は感じていたい内心の表れでもあるかもしれないって僕は思ってる」
    「へえ……他には?」
     わかりきっていたことだが、やはりミスタは満足していなかった。フーゴは逆に考える。隠そうとするから余計に食いつかれるのだ。思いきって惚気てやったほうが、こういう手合いは黙るかもしれない。
    「……僕が夜遅くベッドに入ると、必ず目覚めて抱きしめてくる」フーゴはやけくそ気味に言った。「そのまま、朝まで離してくれないんですから。逆に夜中、僕がベッドから抜けるときはじっと見つめてくるし……」
    「お、おお……へ、へええ~」
    「何引いてるんだよ? 聞きたがったのはそっちだろ」
     フーゴはジロッとミスタを睨む。しかしその口元には余裕の笑みが浮かんでいた。
    「い、いや……人って分からねえもんだなあって……。アイツ結構ガタイいいしさ……」
     ミスタは目を泳がせる。彼の知る普段のイルーゾォの様子とどうにも結びつかないのだろう。
    「そりゃあミスタ、表面だけ見てちゃわからないだろ。僕だって、君だって、ジョルノだってそうでしょ」
    「そりゃそうだが……だって、アイツまあまあ年上だろ。フーゴに対してそんな甘えたとか、――なあ?」
    「甘えたっていうか、むしろ、彼なりに甘やかしてくれてるんだけどね……」
    「へえ……?」
     ミスタは片眉を上げてピストルズと顔を合わせる。フーゴはそれ以上は語らず、キーボードを打つ手を速めた。
     イルーゾォはプライドが高く、気持ちを素直に言葉にしない。『素直な自分』そのものを恥ずかしがって、口からはひねくれたものが出てくる。
     そのイルーゾォが年下の自分に対して寂しがったり甘える素振りを見せるのは、「お前が必要だ」という暗黙のメッセージである。「好き」だとか「愛している」だとか軽々に口にしない彼の愛情表現であり、背伸びをしたいフーゴへの甘やかし方である。少なくともフーゴはそう思っている。フーゴもイルーゾォも、互いに互いを必要としたことでこの世に留まることにしたのだから。
     作業に区切りがついたところで、フーゴは手を止めノートパソコンを閉じた。ミスタの相手をしていたので予定よりもかかってしまったが、まあ許容範囲だろう。
    「――というわけで、僕はさっさと終わらせて帰りたかったんだってば。わかったなら邪魔しないでよね」
    「なんか、すいませんねえ……」
     フーゴは席を立ち、部屋を後にする。あれから作業の進んでいないミスタは、釈然としないものを抱えたまま、目の前のディスプレイに向き直った。
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