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    ryuhi_k

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    ryuhi_k

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    ファンタジーな世界でパーティ組んでる5thが、攻略に向かったダンジョンでなんやかや運命的な出会いをする話です。多分。
    今回の置いてかれ:ウェーブ

    ##海王星波
    ##置いてかれF

    一人残らないと先に進めないダンジョンって何なんですか?!「やだあああああ!!!!」

    青い髪の青年が泣き叫ぶ。かたかた震えながら引きつり青ざめた顔で周りを見渡した。

    「いや、仕方ないだろ」

    白い髪と場にそぐわない軽装の青年がそう切り捨てる。彼の他にいる6人も同意するように頷いているのを見て、青年の身体は耐えきれぬように崩れ落ちた。

    「やだ……置いてかないで……」

    か細い声は届かず、7人は向き返って扉の向こうへと進んでいく。彼らが全員通ると、無情にも扉は重い音を立てて閉まった。




    ――さてこれは、所謂ファンタジーな世界の話である。平面の地図に描かれた様々な国の多くには人間と亜人が暮らし、大小様々な街にはギルドがあり、冒険者が仕事を請け負いモンスター蔓延るダンジョンに行く。そんなよくある話だ。
    冒頭の青髪と白髪の青年、そして頷いていた6人の計8人も、そんなギルドで仕事を請け負った冒険者パーティである。

    クエスト名:海水の底に光る涙

    ……などという名付けたギルド職員のセンスを問いただしたくなるような文字の書かれた羊皮紙から始まった此度の冒険は、よくある「ダンジョンの奥でしか取れない限定アイテムを取ってくる」それだけの仕事の筈であった。地上に顔を出した洞窟から、海に眠る古代遺跡のような空間に出るこのダンジョンを8人は進んでいった。尚、海中だというのになぜ水が入り込まず空気があるのか?という疑問は8人の頭の中どころか世界の誰の頭にも存在しない。これはそういう世界の話だ。
    そんな浸水せず形を保った遺跡らしきダンジョンは、海中らしく魚や海月といった海の生物をサイズアップして殺傷性を高めたようなモンスターが蔓延っている。だが、そんな道中のモンスター達は外見から想像されるよりはずっと弱く、戦闘専門職の少ないこのパーティでもあまり苦戦はせずに中間地点らしき場所まで進むことが出来た。それ以外に特筆すべき点は、パーティの何人かが「気配がする」と言ったことだろうか。雑魚モンスターとは違う、視線のような気配がする、と。普通であれば警戒をするところであるが、このパーティはそういうこともせず進んでいった。
    いくら順調な道中といえど、このような雑魚が弱いダンジョンではボスが強いというのがお約束である。クエスト依頼書にも中ボス・大ボスの両方がいるのは明記されていた。そんな中たどり着いた広い水場のある大部屋ともなれば全員が「これは中ボスが出てくるやつ……」と身構えるのは必然である。その緊張の中、水場から飛沫を上げてモンスターが姿を表した。

    「……これは中ボスではなくダンジョンマスターでは?」

    パーティの一人、引きずりそうなほど長い紫の髪を持った魔物学者・ナパームが手の魔物図鑑とモンスターを見比べながら呟いた。ボロボロかつ古代語で記されたそれには、あらゆるモンスターや古代兵器のステータスが書かれている。

    「……あ、ほんとだ。このマークって大ボスのやつだよね」

    魔物図鑑を覗き込んだ手入れの行き届いた鎧を身につけた優男風の聖騎士・スターが同意する。抽象的に描かれているが、開かれたページの挿絵と眼前のモンスターは同一のように思われた。

    「なんで!? クリスタル、今回バッドイベントなしでイケるって言ってたじゃん!」

    悲痛な声を上げたのは青髪の青年・ウェーブ、水系魔法専門の魔法戦士である。前述のとおりこのダンジョンの雑魚モンスターは水棲系なので、ここまで魔法がほぼ封印状態で踏破する羽目になっていた。

    「その筈なんですけど……おかしいですね? ここから回避フラグとかあったり……しませんかねえ流石に」

    クリスタルと呼ばれた目を引く美貌の占い師が首を傾げる。彼の占いが良くも悪くも当たってしまうのは、パーティ皆がよくよく知っている。だからこそ、このパーティは謎の気配に何も対策はしなかった。それがパーティの不利益となるバッドイベントであるのならば、必ず占いに出ているからだ。尚どうでもいい事だが、出会った知性体の7割が間違えるがクリスタルは男である。

    「ありますよ」

    8人が顔を見合わせる。今の声は誰でもない。なら、と皆が見た先にいるのは勿論、

    「私と戦わずに先に進ませてあげますよ?」

    ダンジョンマスターであるモンスターであった。水棲モンスターに水フロアの組み合わせなダンジョンのマスターであるそれは、藍色の鱗に覆われた巨大な半魚人といったような見た目をしている。恐らくナパームに尋ねれば詳細な種族からステータスまで説明してくれるのだろうが、それをすると大変に面倒なことになるので誰も尋ねたりはしない。

    「そんな都合のいい話があるわけなかろう? どうせ罠じゃて」

    そうため息をついたのは武道家のチャージだ。年季が入っているのは見た目だけではなく、パーティの最年長だけあって過去にそういう話を聞いたか、体験したことがあるのだろう。

    「罠ではないですけど……条件はあります」

    モンスターの尖った指が、一人を指す。

    「そこの方が、このフロアに残ること。……残りの方々は私のいない最深部まで進ませて差し上げます」

    指の先にいたのは、ウェーブであった。

    「なんで!?」

    ウェーブが泣き声に近い悲鳴を上げる。

    「置いてくだけでボスなし? いいな、乗るか」

    そう当たり前のように言ったのは、白髪に異国めいた布を巻いた軽業師のジャイロであった。

    「良くない!!」

    ウェーブが抗議するが、乗ると言ったジャイロは意にも介さない。勝手に決を取っている。勿論ウェーブ以外全員乗る方向だ。タダの美味い話には乗らないが、コストがあるなら検討する、なんとも出来たパーティである。

    「俺を見殺しにする気!?」
    「殺さないでしょ。これ、所謂簡易な契約の一種だから、ボク達がまたここに戻ってくれば満了で開放だよ。殺したら不執行でペナルティあるやつだから、安全は担保されるし」

    そうでしょ、と他の面子より頭一つほど小さい少年・グラビティーがモンスターに問うと「おや、物知りな方ですねえ」と返事があった。一見駆け出しの少年冒険者に見える彼だが、実際は国一番のアカデミーを飛び級した天才魔術学者である。

    「でもみんなが途中で死んじゃったらどうするのさ!」
    「最深部まで進める契約なのでしょう? ならそれは無いのでは? それにほら、言ったとおり今回はバッドイベントなしなので……」
    「これがもう十分バッドイベントだろ?!」

    悲痛な叫びも、辛うじて聞き取れる程度の泣き声と化している。普通であれば流石に良心が痛みそうなものだが、無情にもパーティメンバーはウェーブの荷物から回復アイテムなどを勝手に取り出して分配している。

    「必ず迎えに来るからな」

    スターより更に重厚な鎧を纏った重装戦士のストーンがウェーブの肩を叩く。完全に死亡フラグだから止めて欲しいと言える気力はもうウェーブにはない。
    そうして、彼は冒頭の通り一人残されたのであった。




    「……」

    ウェーブは一人閉ざされた扉を見つめる。駆け寄って開けてみよう試みる気力もない。もし開いたとしても、魔法がほぼ役に立たず戦力半減以下の自分では追いつけないであろうことは分かっていた。
    そろりと振り返る。

    「そんな顔しなくとも。危害なんて加えませんよ」

    どこか楽しげにすら聞こえる声でモンスターがウェーブを見下ろしている。絶望の淵にいるウェーブからすれば「絶対に嘘だ。どうせペナルティなんて気にせずに俺を酷い目に合わせる気なんだ」としか思えない様子である。

    「なんで、俺……」

    完全に8分の1の確率に負けたのならば、まだ納得はできる。けれどこのモンスターは、わざわざ自分を指名した。どうせ一番弱そうだったからとかなんだろう、と後ろ向きに思いながらも、ウェーブはそう呟かずにはいられない。

    「だって貴方が一番素敵だったので」
    「……は?」

    予想外の答えにウェーブはただモンスターを見上げる。
    「そういえばこれだとお話しにくいですよねえ」とモンスターは呪文らしきものを唱えた。すると巨体が縮み、人間ほどとなる。変化したのは主にサイズだが、かなり異形だった見た目が少しばかり人間に寄ったようにも思える。とは言ってもやはり下半身は魚だが。

    「あの中……いいえ、今までここを攻略に来た冒険者は数え切れないほどいましたけど、貴方程素敵な方は見たことがない」
    「なっ、えっ……?」

    ずい、とモンスターがウェーブと距離を詰める。

    「見目もそうですが、貴方の振る舞いも私の趣味にぴったりでして……。ずっと眺めていたいと思ったのは初めてです」
    「眺……?」
    「私ダンジョンマスターですから、此処の隅から隅まで見る権能があるんですよ」

    混乱する頭で「チャージやグラビティーが言ってた気配ってこれだったんだ」とウェーブは合点がいく。尤も、それを理解し切る前にモンスターが手を取ってきたので即座に忘れてしまう。

    「ちゃんと待っていようとも思ったんですけど、我慢できなくて。でも良いですよね? 貴方達の目的は最奥のアイテムなのですし。そもそも普通程度の冒険者だと私の前まで来られないんですよね。結構この先辛いみたいで」
    「えっ、じゃあ、みんな」
    「そこは大丈夫ですよ。ちゃんと契約ですから、守りますとも。貴方にも危害は加えませんよ。……危害は、ね」

    さあ、とウェーブの顔から血の気が引く。
    ――その後の絶叫は、扉の遥か向こうにいる7人には聞こえるはずもなかった。




    ウェーブと別れてから3日後、7人は無事元のフロア手前まで戻ってきていた。
    それまでとは打って変わって道中雑魚には殆ど会わず、しかしそこかしこにロストした冒険者のものと思われる多数のアイテムや装備品があり、収支は大きくプラスになっている。目的のアイテムも入手し後はウェーブを回収すれば全て終わりといったところである。

    「ウェーブ大丈夫かー」

    ストーンが開けた扉から入った面々がそのような事を言いながら入場する。

    「……あ、みんな、おかえり」

    フロアの中程より少し離れた位置でウェーブは足を水につけていた。それ以外に特に見た限りでは何も変わった様子はない。
    が、7人はこれはおかしい、と思った。不貞腐れるでも、泣きながら攻撃してくるでもないのは、明らかにウェーブらしくない、と彼らは思ったのである。

    「お前、何かされたのか」
    「ん、んん……」
    「状態異常か? ……いや、ステータス特に変化ないな?」

    毒や火傷といった身体的ステータス異常は、冒険者の装備厳守アイテムであるアミュレットの色で確認が取れるようになっている。ウェーブのそれの色は変わっていない。魔術的、精神的なものとなると、特化職か教会等での対処となる。

    「帰ったら教会かこれ」

    そこでぱちり、とウェーブが瞬きをして言った。

    「え、俺、……帰らないと駄目?」

    完全に何かされている、と彼らは確信した。

    「おい魚人、貴様ウェーブに何をした!!」

    チャージの怒号にまた水からモンスターが姿を表す。人間サイズだが。一行はそのサイズ変化に疑問を抱いたが、そんなことよりは仲間の異常事態の方が流石に優先順位が高い。

    「そんな皆さん殺気立って……私は別に、契約に反することはしてないですよ。寧ろ良いことになってると思いますが。そちらの学者さん方、詳細ステータスをご覧になってください」

    促されて、渋々グラビティーとナパームがウェーブの詳細ステータスをチェックする。学者と称される冒険職は、特性として他者のステータス詳細を文字で見ることが可能である。上述の身体的ステータス異常以外も大抵はこの特性でチェック出来るが、治療出来るタイプの学者職はほぼ存在しない。研究と実践は別物なのである。
    二人の前に表示されたウェーブのステータス画面、それに状態異常の表示はなく、ステータス自体も変化はない、が。

    「称号とスキルが増えてるね?」
    「スキルは、海神の加護。確かにこれは有用かつ貴重な防御スキルだが……」

    ナパームが言い淀んだ先をグラビティーが続ける。

    「称号は『海神の伴侶』……つまり様子がおかしいのって、そういう事かあ……」

    7人が驚愕する中、ウェーブとモンスターだけが意に介さず幸せそうに寄り添っていた。
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    Replies from the creator

    ryuhi_k

    DONE「一人残らないと先に進めないダンジョンって何なんですか?!」シリーズ番外編。
    前回「制限ダンジョン(※制限内容にはパーティ差があります)」直後の話。
    置いてかれF小話:制限ダンジョン(※以下略)攻略後の一幕「ではこれ、報告書です」

    クリスタルが差し出した書類を受け取ったギルドの受付は、その背後を見て眉をひそめた。

    「勝手に増員したんダスか?」
    「ああ、いえ、これはそういう訳ではなく……。ほら、ここの、これ」
    「……あー。アンタらも毎回凄い攻略するダスねえ……」

    クリスタルが指した報告書と背後を見比べて、受付は呆れたような感心したような声を上げた。
    何故受付が眉をひそめたのか、それは冒険者パーティには様々な制限があるからである。制限なく冒険者の自由意志のみでパーティを形成させると、場合によっては国家を凌ぐ武力を持つ可能性がある。それを防ぎ、冒険者という無法者達を統制する為にほぼ全ての国家で運用されているのがギルド規則であった。その一つに、パーティ人数がある。無制限にして軍隊規模にされてはたまったものではない、ということだ。勿論そんな事が出来るのなら冒険者になぞなってはいないのだろうが、予防線は張っておくに越したことはない。自由の象徴のようなイメージのある冒険者であるが、実際はこんなものである。
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