一人残らないと先に進めないダンジョンって何なんですか?!2「ちっ……」
白髪の青年が顔の血を拭う。攻撃が掠っただけでこれでは、直撃したら命はない。
「口ほどにもないな」
頭上から笑い声が響く。勝利を確信した、嫌な声だ。
「煩い。……これからだよ」
「あーあー、雑魚が吠える。さっさとくたばれ!」
瞬間、塔全体が揺れた。
「あんたらになら、この依頼を回せるダス」
どうにも胡散臭い、前が見えているのか定かではない分厚い眼鏡をかけたギルドの受付が、そう言ってとある8人パーティに一枚の依頼書を差し出した。一番彼に近かったスターがそれを受け取って内容を確かめる。魔術的契約に用いられる羊皮紙のそれには、ダンジョンの場所、出現モンスター一覧、入手可能アイテム等々、勿論不備なく詳細に記載がされている。
「うーん……僕達を評価してのこれなんだよね?」
それらをしっかり確認した上でスターが首を傾げると、受付は「勿論ダス!」と頷いた。スターの手にするそれには「高難度」の印が捺されている。平均的な冒険者であれば、そもそも閲覧すら不可能な依頼書であることは明白だ。
「あの遺跡をロストなしで帰還出来たパーティなら、これもイケるダス!」
「あれを評価されてもなあ……」
グラビティーがため息を吐きながら、自分の横やや上を見る。いつもそうやって見上げると「ひっ」と怯えた声を出していたその人物は、今や視線に気が付きもしない。それどころではないからだ。
「ウェーブ、お隣の方が何か言いたげですよ?」
「……え? どうしたの、グラビティー」
「別に」
詳しい話は前回の冒険――つまり前話である――を参照してもらうとして、なんやかんやで離れ難かった一人と一匹は、折衷案を取ることにした。人間側がダンジョンに永住出来ないのであれば、モンスター側が同行すればいいじゃない――つまりシステム的に言うと使い魔やマスコット枠での同行である。
魔法職や一部の特殊職の場合、精霊や妖精を使役して自身の戦力として活用出来る……が、普通それにモンスター、よりにもよってダンジョンマスターを任されるような大物を押し込むのは不可能だ。人類とモンスターは往々にして敵対しているし、そもそも使い魔を従えるには契約が必要になる。大抵の場合それは人間側が魔力と衣食住を提供するものが殆どだ。そして、冒険者が皆使い魔を持てない理由がここにある。モンスターや精霊・妖精といった生命体は、身体の構成物における魔力の比率が高い。正確には人類だけが低いのだ。そんな人類が魔力を自身より必要とする生命体との契約において十分な量を恒常的に払うには、相手の格にも左右されるが相当な魔力適性、実力、補助装備が必要となる。つまりレベルと金と才能どれか、出来れば全部持ってこないと話にならないのだ。戦力を補強したい駆け出しに厳しく、使える頃には費用対効果が低いという、なんとも扱いづらいものとなっている。なので、もし市井で使い魔を従えている者を見かけたら、その職業は冒険者ではなく教職の可能性が高い。戦闘に使うのではなく、実力の証明書としての用途である。
そんな代物をウェーブが使いこなせる訳がないのだが、その使い魔本人……本モンスター曰く「私達の間に契約なんて必要ありませんよ? 全ては愛ですから」だそうなので、他の面々は突っ込むのを諦めた。そして今、愛を持って使い魔枠に収まっているのかどうか定かでないモンスター・ネプチューンは小型犬くらいのサイズとなってウェーブの腕の中に収まっている。サイズが縮んだからか元の姿――最初に登場した際の巨大なそれがそうであるならば――と比べて全体的にデフォルメされたような外見になっている。使い魔によくある現象だ。それらと違い少しも可愛くないのだが。
とにかく、そのようにして常に一緒に行動が可能となった一人と一匹は所謂バカップルの様相となっており、情緒不安定なウェーブが他人の視線に気がついたり怯えたりしないのもそのせいである。
「ここ、あれじゃろうが。選別ダンジョンとか言われとった」
順に回されていた依頼書を見たチャージがそう呟く。
「選別?」
他のメンバーが首を傾げる。
「まあ儂が若い頃の話じゃがな。ここを突破できるかが一流パーティの証……のようなブームがあった。大抵調子に乗ったのが乗り込んでは、泣きべそかいて帰ってきとったわ」
へえ、と皆が感心する。10代から冒険者をやっているベテランであるチャージの話は時折、いや大体長いが経験に基づく貴重なものだ。
「……でも、それだとするとおかしいよね」
グラビティーがぽつりと言う。
「攻略が一流パーティの証になる……なら、一流パーティしか見られない依頼書のわけがないよね?」
スターが受付を横目に見ながらそう呟く。
勿論、一つのダンジョンで難易度の違うクエストが発行されることはままある。だが「高難度」の印が押されるということは、そもそもダンジョン自体に有象無象を侵入させるわけにはいかないとギルドが判断している証拠だ。
「では今の評価は? 先程の依頼の出し方からすると、もしや今は昔の基準レベルでは突破率が下がっている?」
「うっ……」
ナパームに詰め寄られた受付が怯む。あからさまな目の逸し方をしたので、皆が返答を待たずして察する。暫くしてナパームの圧に屈した受付が口を開いた。
「昔とは、ダンジョンマスターが変わったんダス……」
「天への塔」それがこのダンジョンの正式名称である。只、ダンジョンなどというものは真面目な本物の勇者御一行ならともかく、それ以外の一般冒険者達には適当なあだ名や略称で呼ばれるのが常である。この高い塔もそれに漏れず、過去にあった呼び名は「選別(ダンジョン)」、今や「天(国)行き」「やべーとこ」等適当もいいところだ。
そのダンジョンは、随分特徴的な見た目をしている。入り口は一つ、中央の塔だけだ。その両脇には長い側塔が建っているのだが、そちらは地上からの侵入できる箇所はない。真ん中をしばらく登ると左右への分岐がある形だ。そして終着点である真ん中の塔の頂上へまた合流する。その頂上は地上からは見えるのだが見えない。どういうことかというと、中央の塔は側塔への分岐付近からがガラス製の細長いドームのようになっているのだ。勿論、そこから頂上まで床などがあるようには見えない。つまり吹き抜けだ。なので、普通に進むのならば長い長い側塔を登る厳しい道中となる。
……が、数十年前に流行した「一流パーティ」はそんな攻略はしなかった。だからこそ名乗れたとも言える。
そんな塔を進むのは、一流パーティというブランドなぞ1ミリも興味はない8人+αで構成されたパーティであった。
「道中はなー、楽なんだがなあ」
所謂メイン盾を張るストーンがぼやく。パーティきっての重量級かつ防御力で、直接攻撃があまり得意ではない面々を支えている。大抵ストーンの特技――盾を媒介として石壁を展開するそれは一見魔法のようだが、分類上特技である――でモンスターの攻撃をしのぎ、その後詠唱の終わった後衛組の呪文その他で数を減らして総攻撃……というのが、今までのやり方であった。が、今はというと、
「ウォーターフォール」
その言葉に続いて、モンスターの群れの上下に魔法陣が発生する。そうしてすぐさま上から下へと滝の如き水が通り抜けた。過ぎ去った後には水圧に押しつぶされた無残なモンスターの死体が残るばかりである。この召喚魔法と攻撃魔法を合わせた高位呪文を操るのは、魔術魔法特化職ではない、言ってしまえば器用貧乏職として名高い魔法剣士のウェーブである。勿論、ウェーブ一人の実力でこのような魔法が使えるわけがない。
「本当にお強いですね、ウェーブ」
全ては肩の辺りに浮いてニコニコ顔で拍手をしているネプチューンのお陰……いや、ネプチューンのせいだと言っていいだろう。お察しな称号と共にもたらされたウェーブの新スキル「海神の加護」の効果でこのような高位呪文を扱えるらしい。尚、グラビティーとナパームの学者二人曰く「本来はそんなもの無理どころか、そもそもこんな盛りだくさんのスキルじゃない」そうである。
「そんな……ネプチューンのお陰だから」
頬を赤らめたウェーブとネプチューンが見つめ合う。もう彼らの目に呆れているパーティメンバーも無惨なモンスターの死体も映らない。
「一瞬で終わらせてこれだもんな……」
ストーンが溜息を吐きつつ構えていた盾を背負い直す。身に染み付いた習性として前に出はするが、その必要もほぼない程に雑魚モンスター相手では一方的な展開が続いている。
「儂らとしては楽で良いっちゃ良いが……」
「それはそれとして、なあ……」
楽と引き換えに仲間がモンスターといちゃつくのを延々と見せられるのも辛いものがある。長時間眺めていると何か精神的な、ちょっとやそっとじゃ回復しない何かが減ってしまいそうだ。
「僕達からどう見えるかはともかく、本人達は幸せそうだから良いんじゃない? まさかウェーブが僕より早く恋人を作るなんて思わなかったけど」
「おや、羨ましいんですか?」
「あはは、全く」
「そう言うと思いました。……本当に毎度飽きませんね。ウェーブ、先行きますよ!」
クリスタルの言葉に6人が続く。流石に置いていかれたくはないのか、ウェーブは小走りでついてきた。
「――で、ここで何か来るんだろ?」
そうした雑魚戦毎のいちゃつきと階段昇降を繰り返して辿り着いたのは、開けたエリアだ。今まで通ってきたエリアと違い石壁はなく、代わりにガラスが一面でぐるりと覆われており、開放感がある。外観で見た、側塔への分岐点がここになる。下を見ると、中々に高い。尤も、天井は見えもしないくらい遥か彼方だが。
「昔はここで中ボス任意、最上階で大ボスだったらしいがの。今は、新しいのしかおらんのじゃろ?」
受付から聞き出した限りだと、今は前ダンジョンマスターを倒したモンスター1匹のみがボスをやっているらしい。それがとにかく強く、需要のあるアイテムがここのところちっとも入手できていないのだという。
「だから困ってるんダスよぉ~」と泣く受付に絆されたわけでは全くないこの一行が依頼を受けたのは、結局の所報酬金である。
「このまま留守ってんなら楽だが、……まあそんなわけはないか」
頭上から降る羽音に全員が上を見る。長い長い吹き抜けを降りてくるのは、巨大な鳥のモンスターだ。緑色の羽根に所々黄色や赤が見える、中々に派手な鳥である。
「ああ……確かにこれでは、元の適正レベルの冒険者では歯が立たない」
図鑑を高速で捲っていたナパームが呟く。見つけたモンスターのページには、ネプチューンの時と同じマークがある。そして、生息地とされている場所はここよりももっと危険度の高い、つまり適正レベルが高い地域だ。
「久々の餌にしちゃクソ雑魚が……って何てもん連れてんだ」
巨体に反して静かに着地したモンスターがパーティを見回し、ウェーブに目を留めて嫌そうな顔をした。
「どうも、お久しぶりです」
返事をしたのはウェーブではなく、ネプチューンの方であった。
「知り合い?」
「ええ。ダンジョンマスターも色々あるので、横のつながりがあるんですよ。とは言っても、数百年ぶりですけども」
流石モンスターなだけあって、人間とは寿命の桁が違うらしい。7人が「モンスター怖……」と思っている中、ウェーブだけは「やっぱり年上なんだなあ……」と少々ズレた感想を抱いている。
「なんでお前、人間なんかに……」
「人間なんか、じゃないですよ。素敵な私のお嫁さんです」
「は?」
モンスターが怪訝な声を出し、7人がそれぞれ「ほんといくらでも惚気るなこの魚……」という顔をする。ウェーブだけは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。小声で「ま、まだちょっと、それは早いんじゃ……や、嫌ってわけじゃなく……」などと呟いている。
「……。まあ、魚のことは置いておく。が、にしたってそれ以外が雑魚すぎんだろ。ほんと最近の人間共は弱っちいなあ?」
モンスターの言う通り、実際このダンジョンの適正レベルには少々足りていないパーティである。それは本人達も重々承知している。だが、勝算があるからこそ彼らはこれに挑んでいるのだ。
「いやいや、人間の方々も中々ですよ? 貴方は最近こちらに来たので知らないのでしょうが……。では、手はず通りに行きましょうかね」
「なっ……!?」
瞬間、ジャイロが駆け出した。モンスターの横をすり抜け、奥の壁にあったレバーを操作する。これが、昔「一流パーティ」が行った攻略だ。長い長い側塔を登ることなく、最短2戦で頂上まで駆け上がる、そんなタイムアタックじみたそれが流行った時代が確かにあったのだ。
本来ならば中ボスを倒してから解禁される、上層階へと登るためのギミック――床に設置された巨大なプロペラによる上昇気流――が作動した。それを確認してウェーブが呪文を唱える。ジャイロ以外の7人は、呪文で展開された巨大な泡の中で気流に乗って上昇し始めた。
「させ、るか……!」
モンスターが飛び上がるが、
「あらら、貴方にしては判断が遅いですよ」
泡の高さが一定を超えたところで、モンスターとの間に魔法陣が浮かび上がる。偶にある、後戻り禁止ダンジョンのギミックだ。これがある限り、人間もモンスターも、……ダンジョンマスターでさえも通り抜けることは出来ない。そもそも、ダンジョンマスターは頂上にいる筈なのだから、通る必要がないのだ。
「この……っ」
わなわなと震えながら宙を睨みつけていたモンスターが、身を翻してジャイロに電撃魔法を放つ。八つ当たりのようなそれを、ジャイロは走って避ける。
「っと。……どうだ今の気分は? ま、最低だって顔に書いてあるが」
「復活も出来ねえくらいぶっ殺してやる!!」
さてジャイロの犠牲のお陰で無事何者もいない頂上でアイテムを入手した一行は、行きと同じ方法でふわふわと落下中であった。ネプチューン曰くギミックの魔法陣はアイテムと紐づいているので消えているらしい。
「実際どうなってると思う?」
グラビティーが呟く。何が、勿論ジャイロの現状である。
「どうですかねえ……。いえ、私の占いは当たりますけども」
クリスタルが少し不安げに返す。
「そうなんだよね。当たるから、逆にどうなってるのか分からないと言うか」
スターも少し不安げだ。そう言い合ってる間に、下が見えるようになってきた。ネプチューンの言の通り魔法陣はない。そして、目に入るのは――。
「よう、遅かったな」
降り立った一行を迎えたのは、動かないモンスターの上に胡座をかくジャイロだった。こちらもそれなりに傷が目立つが、軽症の部類である。
「当たりましたねえ……」
クリスタルが驚いたような、呆れたような声を出す。彼の占いという名の予知が出したのは「一番の身軽が、一番重い勝利を掴む」との言葉だった。それとネプチューンの提案にチャージと受付からのダンジョン構造情報を組み合わせたのが勝算、であった。
「いや、最初は駄目かと思ったんだが、そういえばこれがあったなと」
そう言ってジャイロが手に持った武器を回す。
大型ナイフのようなそれは、何時ぞや「まあ使うときもあるだろ」と取っておいた俗に「バードキラー」と呼ばれる代物である。
「回避を駆使しつつ、それでクリティカル? まぐれみたいな本当の話すぎる……」
ストーンが溜息を吐く。だが、クリスタルの占いが成就するのならば、それくらいしないと話にならない。この一行には、それがよくよく分かっていた。
「まぐれだ! こんなの認められるか!!」
突如、倒したはずのモンスターの声がした。身体は動かないので、恐らく魂のみが発言をしている。
人間の冒険者がダンジョンで死亡した際に教会などで復活するように、ボスモンスターも倒されても復活することが可能だ。しかし人間と違い、その復活にはかなりの時間を要する。これは、冒頭で述べた身体の構成物の違い、つまりは魔力の必要量が関係している。端的に言えば、ボスモンスターレベルを構成するのはコストが高く、人間は低いのだ。それに加えて、ダンジョンマスターは自身を打倒した冒険者パーティがダンジョンから去るまでは肉体の再構成が始まらない。これは、人間に永久機関をさせない為に神が定めた法である……と言われているが、実際のところは誰も知らない。
経緯はともかく負けたという事実がある以上、魂のみの状態で吠えることしか出来ないのだ。
「あ? 負けは負けだろ。動いてから言え。まあ動いたらまた刺すけどな」
と言いつつもう刺している。容赦がない。
「アイテム取ったろ? 帰るか。疲れた」
ジャイロがのろのろと立ち上がる。
「待て!」
モンスターの声に、ジャイロが怪訝そうに振り返る。エメラルドのようなそれの背後に魔法陣が浮かぶ。
「な……あぁ?」
まさか第2形態を隠していたとでもいうのだろうか、全員が武器に手をかける。
「アイツも本当はそういうことなんだろ。なら俺も同じようにしてやる!」
ぶわ、とシルエットが膨らんだかと思うと、
「……はあ?」
次の瞬間、現れたのはオウム程度の大きさになったモンスターであった。それはすい、と飛んでジャイロの肩に着地する。どこかドヤ顔にも見える。
意味が分からない、という顔をジャイロはグラビティーに向けた。
「あー……つまり、あの魚はウェーブに負けて、リベンジするためについてきてるんだと思ってるんじゃない……?」
「アホかこの鳥。つか勝手に着いてくるな」
「もうステータスには登録されてる」
ステータスチェックをしたナパームが言う。
「はあ? 勝手に枠使うな刺すぞ!」
「刺さるか! 回復したらぶっ殺してやるからな!!」
ぎゃいぎゃい元気に喧嘩し始めた一人と一羽を横目に、ナパームはぶつぶつと聞き取れない程早口で何事か呟いている。これは彼が考えを纏めている時の癖だ。
「……で、どういう理屈だって当たりをつけたの」
早口が止まったのを確認して、グラビティーが問いかける。
「あのモンスターがそもそもこのダンジョンの正規のマスターではないから出来た芸当だろう」
「へえ。……復活制限が完全に機能してない、みたいな?」
「恐らく。それとあのような小型の肉体ならば魂に残留した魔力でも構成が可能なのだろう。つまり、それだけ魔力の扱いに長けた……高位のモンスターの筈なのだが……」
「それがまぐれとしか言えない負け方をしたら、ねえ……」
そんな会話と喧嘩をしながら、一行は帰路につくため荷物の整理を始める。丁度モンスターの死体も素材や換金アイテムに変換され終わっていた。これもまた、神の定めたなんとやらによって行われている、らしい。神とは万能である。
「あ、開きっぱなしだった。……あー」
グラビティーが開きっぱなしになっていたジャイロのステータス画面を見て、微妙な顔をする。
「如何した。……む、前回と同じく称号が増えているな」
「今度は……『雷神の足元』? ……足元って、弱点の意味じゃん」
「それにこのモンスター、習性に『宝物を足元に貯め込む』とある」
「モンスターってちょっと、分からないなあ……」
二人は溜息を吐く。
「――いやぁ、面白くなってきましたね」
そんな二人の会話を聞いていたのは、ウェーブの腕の中のネプチューンであった。
「? どうしたの?」
「いえいえ、何でもありませんよ。少しばかり、旧友に春の予感がしただけです」
「よく分かんないけど、良かったね?」
「ええ、はい」
さて、これからますます煩いことになりそうである。