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    ryuhi_k

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    ryuhi_k

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    ファンタジーな世界でパーティ組んでる5thが、攻略に向かったダンジョンでなんやかや運命的な出会いをする話です。多分。
    今回の置いてかれ:グラビティー

    ##海王星波
    ##木星旋回
    ##火星焼夷
    ##水星重力
    ##置いてかれF

    一人残らないと先に進めないダンジョンって何なんですか?!4「ひ、ひ、ひ……」

    ぽたりぽたりと天井から雫が落ちる。雫は集まって一つとなっていく。

    「観念しな、坊主。お前はもう逃げられねぇんだよ」

    集まった雫が、少年を飲み込んだ。




    「緊急クエストが出たダスよ〜!!」

    壊れそうな勢いで酒場の扉が開く。同時に駆け込んできたのは、その場にいる全員が見慣れたギルドの受付だ。ほぼ全員の視線を集めた受付は、抱えていた紙をばら撒く。

    「緊急ダス! ボス格を倒したパーティにはボーナス出るダスよ~!」

    酒場に舞い散る依頼書に冒険者達がめいめいに目を通していく。意気込んで早速出発する者、無理だと諦めて酒に戻る者、様々だ。ひらひら舞うそれを、大きな手が一枚掴んだ。

    「スライム大量発生、だと」

    掴んだ重装備の戦士・ストーンが見出しを読み上げる。

    「という事はもしや地下水道?」
    「ええ、それはちょっと行きたくないなあ……」

    水を飲んでいたナパームはやや楽しげな声を、ほぼジュースのようなカクテルを飲んでいたスターは嫌そうな声を上げる。
    冒険者あるある、とでも言うのだろうか、彼ら8人もめぼしいクエストがない時はこうして酒場で時間を浪費していることが多い。

    「ですがやはり、緊急なだけあって金に糸目をつけない設定は見過ごせないんですよねえ」

    依頼書を覗き込んだクリスタルがぼやく。彼の飲むものは一見スターと変わりないが、実際は何倍もキツい代物だ。しかも今手元にあるのは一杯目ではない。

    「つってもな、こういうのは強さより速さ勝負に……おい、お前ら最後までちゃんと見たか?」

    泡の消えかけた麦酒を舐めていたジャイロがグラスを置き、テーブルに落ちた依頼書の下部を指差す。
    そこに記されているのは、所謂適正レベルというやつだ。

    「……スライム如きに出るレベルではないな。少なくとも儂は初めて見た」

    小さな皿のような陶器で水のような酒を呑んでいたチャージが剣呑な声を出す。彼の呑んでいるそれは、東方の異国でのみ作られているらしい。

    「てか、これ誰が討伐出来るんだ? ここ、正直あんまりレベル高いやついないぞ」
    「ジャイロ、声を抑えて。……実際、そのとおりだと思いますけどね。先程飛び出した輩も、皆棺桶で帰ってくるんでしょうし」
    「……じゃあ、俺達がー……やっちゃうー……?」

    間延びした声を上げたのはウェーブだ。両手の中にあるグラスの中身は空になっている。

    「お前、一杯飲んだのか。……止めなかったのか?」

    グラスを水のそれと交換しながらストーンがじとりとその向こうを見る。

    「なんで止めるんです? 可愛らしいじゃないですか」

    とても不思議そうに言ったのは、テーブルに腰掛けるネプチューンである。その向かいではジュピターがジャイロのグラスに顔を突っ込んで勝手に飲んでいる。

    「そう思ってるのは君だけだと思うけどね……。ま、実際考えて発言してるかはともかく、僕達で行くのは良いんじゃない? とは言っても、ウェーブはこれだし、グラビティーはまだ戻ってないから……」
    「僕が何?」

    落ち着きを取り戻し始めた酒場に、本を抱えたグラビティーが入ってくる。未成年でもある彼は、他の7人のように酒場にいることは少ない。大抵はアカデミーの図書館等に行っている。

    「あのね、緊急、俺達でやっちゃおーって」
    「……酒くさ」
    「推奨レベルが酷い有様だが、今の俺達なら大丈夫だろうと。……ふふ、これならマース殿の火力を最大限に活かすことが……」
    「地下でやろうとするな。ま、ウェーブがこれだから、明日だな」
    「わかった。……じゃあ、僕は先に戻ってるから」

    じゃあね、とグラビティーが手を振ったところでウェーブが遂にテーブルへ突っ伏した。




    地下水道。それは街のインフラの一つである。人々の生活を支えるそれであるが、水と共に流れてきたスライムや、それを食べて魔物化した小動物類がいるため、定期的に清掃という名の討伐がされている。脅威度が低い分、報酬も安いのであまり人気のない依頼だ。

    「何とも興味深い」

    宙に浮くマースがそう呟いた。その視線の先では、ナパームが召喚した本体の武装によってスライムの集団が盛大に燃えている。
    本来、ナパームは魔法が使えない。魔具こそ使用出来るが、体内の魔力を呪文のみで放出することが出来ないのだ。しかし、マースとの契約――パーティメンバーは解説されたのだが、誰一人としてまともに聞いていなかった――によって、マースの武装の召喚だけ可能となっている。

    「本当に、素晴らしい……」

    恍惚の表情を浮かべてナパームが感嘆する。スライムも小動物も、高位魔術に匹敵する炎に焼かれればひとたまりもない。とは言っても、閉鎖空間であるこの地下水道であまり連発するものでもない。基本的には出来るだけ物理でどうにかし、あまりに群れが大きい場合はナパームに焼かせる、という方針で8人は進んでいた。

    「全部焼いていければもっと良いんだけど。でも楽でいいね。僕もこういうこと出来たら騎士団辞めなかったかもしれないなあ」

    スターが言う。彼は元々この街に配属された聖騎士団の一員であった。若者の憧れでもあるそれだが、魔王亡き今の世では、そのイメージと裏腹に実際の仕事はギルドに回しても誰も受けない、不人気依頼の消化が主なものだ。スターのように、その実体に呆れて辞める者も後をたたない。地下水道の定期討伐も、誰も受けないので聖騎士団が行うのが殆どである。給料制ってほんとヤバいの回ってくるよ、とはスターの言だ。

    「マース殿は俺のだ」
    「いや、別に要らないから」
    「俺の所有はお前だけだ。お前に移譲の意思が無いのならば、移りはしない」
    「それは、そうなのだが。しかし俺が死んだら契約が切れるのでは?! それは困る!」

    死んでも離さないつもりなのか……と聞こえたメンバーは呆れを通り越していっそ感心する。

    「ふむ。そこに関しては確かに現状では対処出来ないな。……少し時間を貰えればどうにか出来るだろう」
    「なんと!」
    「それはさておき、ナパーム。今焼いたのが、当代で言う所の魔物なのだな?」
    「うん? ……ああ、そうだマース殿が稼働していた古代文明時代は魔物がまだ存在していなかったのだった」

    太古の昔の古代文明は人間と共に滅び、その後魔物が跋扈する時代が幾ばくかあった後、また人間が復興し現代に繋がっている……というのが現在の定説である。そうならば、マースは今初めてモンスターと呼ばれるものを見たのだろう。

    「言われているように、魔物・モンスターと呼ばれる生物その他は存在していなかった。だが、類似したものは知っている」
    「類似……?」

    歩きながら、一人と一体はそんな会話を続ける。単体出現が多いらしく、戦闘に参加しろという声はかからない。

    「人間の使用していた改造生物兵器だ。恐らく、現在魔物とされるものは、それらが人間の支配下から開放されて繁殖したものだろう」
    「それが本当なら大発見だが……」
    「証明するには、古代人の研究資料でも発掘されねば無理だな」
    「マース殿と違って、難しそうだ」
    「……ちょっと! 量来てます焼いてください!」

    クリスタルの声にナパームは召喚詠唱を始めながら駆け出した。

    「全然ボスっぽいの出てこないけど」

    焼却と各個撃破を繰り返して数時間。いい加減淀んだ空気とぬるつく石畳に辟易したウェーブがそう呟いた。何時ぞやの水ダンジョンほどではないが、スライムには水魔法はあまり効果がないので、段々と苛立ってきているのは皆把握している。とは言っても、加護のお陰で武器攻撃が当たれば大抵のものは問答無用で溶けるので、不満が爆発するまではいっていない。

    「これだけ末端がやられてれば出てきそうなもんだが」
    「どうなんかのう? 所詮スライムじゃから、考えがあって群れとるわけでもなし」

    通常の生物に見られるような臓器が見当たらないスライムは、知能がほぼないと考えられている。魔物学者の数も予算も少ない現代において、雑魚以外のなにものでもないとされているそれを研究する物好きはいないため、それ以上のことは現地の冒険者とてろくに知らないのであった。

    「それでも昔から、知能があると思われる行動をするスライムの存在は記録されている。……ほら、ここにも」
    「見せられても俺らは読めないんだが」

    ナパームがいつもの魔物図鑑を開いたところで、他に読める者はいない。

    「これ、よく出来てますよねえ」

    ……のだが、一人、いや一匹声を上げた。ウェーブの横に浮遊するネプチューンである。

    「だろう?! とは言っても、古代語な上このように欠損があるので全部は読めないのだが……」
    「古代語? ……ああ、人間からだと区別つきませんよね。これは古い魔物文字ですよ」
    「何!?」

    ナパームが驚愕と歓喜の混じった悲鳴のようなものを上げる。

    「本当に、本当に古いものなので私も全部読めるわけではないですが……。かなり詳細に書いてありますよ。有用な情報から、恐らく作者による私的なコメントまで」
    「なあ、お前の魚類、マジでナニモンだよ」

    ナパームと話すネプチューンを横目にジャイロがウェーブに尋ねる。

    「何なんだろうね……? でも凄いよね」

    困惑しつつも、ネプチューンを見つめる瞳が蕩けているので、ジャイロは呆れるしかない。そもそも、いくら経緯が経緯とはいえ、モンスター相手にこうも本気なのが解せない。……と、思っている本人が、実は肩に乗っている絶賛二日酔い中のモンスターに想いを寄せられているのは、まだ一部のものしか気がついていない事実である。

    「ひゃっ」

    ナパームがネプチューンを質問責めにする横で、ぼんやり今後を話し合っていた一行に変化があったのは、グラビティーが上げた小さな悲鳴だった。

    「どうした?」

    首元に手をやるグラビティーにストーンが問う。

    「なんか……水?」
    「なんだ水か」
    「……違うや、これ」

    グラビティーが上を見る。皆つられて見上げると、

    「うわ」

    金網の隙間からスライムが滴り落ちていた。小型がそうやって落ちてくるのは珍しいことではない。だが、見渡す限り継ぎ目なく覆われている、というのは異様である。

    「……あー、これは、ボスですかねえ」
    「どう見てもそうだろうね! 色からして、今まで戦ってきたのもこれの一部かな」

    どうやら「スライム大量発生」ではなく「大型スライム発生」の方が正しかったようである。

    「どうする? 見えとる範囲だけでも、全部落ちてきたら潰されるぞ」
    「地図によると、もう少し進めば少し開けた場所があるみたいだけど」
    「……走るか」

    一行が走り出す。現状を把握していなかったナパームはマースが引っ張って飛んでいる。

    「あっ」

    ぬるついた地面に足を取られたグラビティーが体勢を崩す。素早いジャイロとチャージが反転して手を伸ばしたが、

    「ざぁんねん」

    謎の声と共にスライムが降り注ぎ、その後には何もいなかった。




    一体何が起こったのか、グラビティーが気がつくとあまり変わりのない地下水道内部であった。
    だが、前と後ろの構造からするとどうやら先程までとは場所は違うらしい。身体を起こすも、じっとり水分を含んだ服が重い。

    「……今回は僕ってことか」

    最近恒例行事のようになっている、一人離脱のお鉢が回ってきたのかとグラビティーはため息をつく。あの巨大スライムはどこへ行ったのだろうかと周りを見渡すと、ぽたりと首筋に冷たいものが落ちる。

    「……また」

    見上げるとやはり、先程のように天井にスライムが張り付いて雫を落としている。

    「嬲るつもりならさっさとやれば? わざと僕だけ分断したでしょ」
    「……。なあんだ、気づいてやがったのか」

    天井から声が降る。これがナパームだったのなら「喋るスライムなど初めて見た!」とでも言うところなのだろうが、グラビティーはそちら方面の研究者ではない。
    ぽたりぽたり、と落ちる雫が増えていく。

    「だが、お仲間がこっちに来るには相当かかるだろうよ? アテもないだろうしな」
    「だろうね。……まあ、その前に僕が君をどうにかしちゃえば良いんだろうけど」
    「お前が? 無理無理!」

    スライムが身体を震わせて笑う。余計に雫が落ちてくる。
    グラビティーはそっと、持ち物を確認する。何も奪われてはいないようだ。

    「やってみなきゃ、わかんないよ?」

    見上げて笑う。一瞬怯んだように見えたスライムは、それでも余裕そうに言う。

    「やれるもんならやってみやがれ!」




    「……で、結局このザマですか」
    「うるせぇ」

    7人がグラビティーを見つけたのは、分断されてから2時間程してからだった。その間に恐らくスライムが使ったのだと思わしき転送陣の始末も行っている。時折このように、モンスターを使ったテロ地味た行為が各地で散見されており、今回のもそのひとつなのだろうと思われる。
    合流した際、グラビティーはだいぶ疲弊していた。話すところによると、あわや丸呑み寸前まではいったらしい。

    「でも、間に合ったから僕の勝ちだよね」

    グラビティーの手の中には、口の細い瓶がある。その中身は……スライムだ。
    いつものクリスタルの占いによる「本日のラッキーアイテム」と、魔法学者である本人の封印魔法を組み合わせによって、あの巨大スライムは今や瓶の中でろくな身動きも取れない状態と化している。

    「もうどっちが凄いのか分からないなこれ……」

    呆れるストーンが、グラビティーを背負う。

    「というか……また知り合いかこれ?」

    ジャイロが瓶に胡乱な目を向ける。

    「まあ、そうだな……。てか、コイツ……懲りてねえ……」

    まだ頭が痛いらしいジュピターが答える。

    「懲りない?」
    「……昔、勇者に、……頭いてえ」
    「そうそう、あの時も丸呑みしようとして返り討ちにされたんですよねえ」

    引き継いだのはネプチューンだ。ウェーブの腕の中でスライムを見つめて笑う。

    「まだ少年の方にばかりそういうことをしようとして……ご趣味、変わってないんですね?」

    何の、と聞く気力は8人には残っていなかった。




    「……ねえナパーム、僕のステータスもなんかついてる?」
    「うん、やはり称号が増えているな。……『簒奪者の箱入り』だ」
    「うわあ。ろくでもない」

    そう言いつつも何だか楽しそうに笑い、グラビティーはストーンの背で目を閉じた。
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    ryuhi_k

    DONE「一人残らないと先に進めないダンジョンって何なんですか?!」シリーズ番外編。
    前回「制限ダンジョン(※制限内容にはパーティ差があります)」直後の話。
    置いてかれF小話:制限ダンジョン(※以下略)攻略後の一幕「ではこれ、報告書です」

    クリスタルが差し出した書類を受け取ったギルドの受付は、その背後を見て眉をひそめた。

    「勝手に増員したんダスか?」
    「ああ、いえ、これはそういう訳ではなく……。ほら、ここの、これ」
    「……あー。アンタらも毎回凄い攻略するダスねえ……」

    クリスタルが指した報告書と背後を見比べて、受付は呆れたような感心したような声を上げた。
    何故受付が眉をひそめたのか、それは冒険者パーティには様々な制限があるからである。制限なく冒険者の自由意志のみでパーティを形成させると、場合によっては国家を凌ぐ武力を持つ可能性がある。それを防ぎ、冒険者という無法者達を統制する為にほぼ全ての国家で運用されているのがギルド規則であった。その一つに、パーティ人数がある。無制限にして軍隊規模にされてはたまったものではない、ということだ。勿論そんな事が出来るのなら冒険者になぞなってはいないのだろうが、予防線は張っておくに越したことはない。自由の象徴のようなイメージのある冒険者であるが、実際はこんなものである。
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