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    ryuhi_k

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    ryuhi_k

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    べったー掲載「星を呑んだ」シリーズ本編外の一コマ
    弐の後の話

    前話「星呑み小話:知らぬは当人のみ」→https://poipiku.com/315554/6518714.html
    後話「星を呑んだ 参」→https://privatter.net/p/7541547

    ##海王星波
    ##星呑み

    星呑み小話:それは海の味がする胃が重い。溜息も何度ついたか覚えていない。それでも、足を止めたり、踵を返す選択肢はない。なんとも面倒くさいな、とどこか冷静に伊呂波いろはは自嘲する。
    世話になっていた旋葎せんり達の元を後にして半日程、ようやく風に潮の香りがするようになってきた。ほんの少しだが、それで身体が軽くなる。
    結局、海の側で生きるしか出来ない身なのだろう、と伊呂波は思う。そこからまた暫く道を行き、視界の半分程が海となった頃に行きとは違う堂の中へと入った。




    『――伊呂波、伊呂波、お帰りなさい』
    「!?」

    堂から屋敷へと場所が移った、と認識するより早く、伊呂波の身体を強く抱きしめた者がいた。鯨湦けいしょう――伊呂波が名を与えた、あの鯨である。腐った巨体ではなく、今は楓星ふうせいと同じく人の姿をとっている。だが、楓星とは違い、お世辞にも若くはなく、伊呂波とは親子程の差がある見目だ。あやかしが己のみの人の形をとるのは、ただ化けるのとは違うらしい。鯨湦本人も「もっと若い姿の方が良かった」と零していたので、望んでこの姿となった訳ではないようだ。

    『怪我はないですか? 気分が悪かったりは? 楓星に苛められたりしませんでした?』
    「え、うん、いや」

    一体楓星の事を何だと思っているのだ、と伊呂波は呆れたが、実際あの態度――結局旋葎に何を言われようと、刺々しいままだった――ので、外れてもいないか、と思い直した。
    大丈夫だから離して、と言いたいが、鯨湦はひたすら疑問を投げかけ続けて返事もままならない。どうしよう、と伊呂波が焦り始めると、

    『お館様、そのままだと死にます。殺せます』

    そう、冷静な声がしてやっと身体が自由になる。見上げると鯱が伊呂波の両手首を持ち上げ、鯨湦から引き剥がしていた。

    「……あ、りがとう?」
    『どういたしまして。お館様は、ずっとお前を待っていました。ずっと門から離れないで、お役目もしないで。困ってました』
    『お前、それは言わなくてもいいでしょう』
    『言わなくてどうしろと? 自分はそれくらいの権利あります。お館様のとばっちりの尻拭いは何時も自分です』
    「え、ええと、ごめんなさい?」
    『自分はお館様に怒っている。なので別にお前が謝る必要はないです。そもそも、お前を行かせたお館様が悪い。そんな気は微塵も無かった癖に』

    やっぱりそうだったのか、と伊呂波は納得する。薄々そうだろうとは思っていたが、このはっきりと物を言う鯱が言うならそのとおりなのだろう。

    『別に其処までは……』
    『其処までです。この7日程、ずっと帰って来なかったらどうしようとウダウダ煩かったのはお館様です』
    『お前は本当に……伊呂波の前でそんな……』
    「……」

    じ、と目の前で焦っている鯨湦を見つめる。こうしていると、まるで只の人間のように見えなくもない。だが、人にしか見えない姿でも、決定的に人と違う部分がある。

    「……鯨湦」

    やっと名を呼ぶ。伊呂波が与えた、この鯨だけを指す名前だ。呼ぶと、嬉しそうに伊呂波を見る。黒に赤の浮かぶ、人間とかけ離れた目で。

    『はい』
    「ただいま」
    『はい、お帰りなさい。伊呂波』

    ふう、と息を吐くと、やっと鯱が手首を開放する。そしてそのまま、伊呂波の背中から荷を取り上げる。

    『そういう事なので、お前、当分はお館様はお前にべったりで使い物になりません。頑張ってあしらってください』
    『お前、本当にその物言いは何とか出来ませんかね……』

    そう呆れつつも、鯨湦は鯱を嫌っていない……どころかかなり好いているのだろうと伊呂波は感じた。恐らく本人に言っても、否定はするだろうが。
    それと同時に、鯨湦が鯱へと向けている気持ちと、伊呂波へ向けている気持ちは違うのだろうと直感する。
    ――だって鯨湦は、鯱がいなくなってもきっと追わない。そう、伊呂波は思う。もし伊呂波が、旋葎達のところ以外へ出かけたいと願ったら、決して首を縦には振らないだろう。嘘を言って違う道に踏み出したら、きっと気付く。聞いたわけでも、言われたわけでもないが、伊呂波にはそうだと言い切れた。最初に、そう示されてしまったのだから。幾多のものより、何より伊呂波が大事だと、全身から叫んでいる。

    『ならないので諦めてください。……それより、流石に中に入ってはどうですか。立たせっぱなしです』
    『あ、ああ、そうですね。伊呂波、中に入りましょう』

    鯨湦が手を差し出す。少し迷って、伊呂波はそれに自分の右手を重ねた。
    それだけで、鯨湦は嬉しそうな顔をする。こうして伊呂波と触れ合えるのが、人の姿を持って一番嬉しい事だと言っていた。

    「アンタとあの鳥って、結構似てるな」

    ぽろりと思っていた事が声に出る。鯨湦は一瞬虚を突かれたような顔をしたが、

    『……ええ、そうですね』

    そう、肯定した。何処が、とは言わなかったが、きっと伝わっているのだろう。
    ――そこまでして誰かを欲しがる気持ちの名前を、他に伊呂波は知らない。己がそれに応えきれるのかも、分からない。けれども、伊呂波は思う。
    多少なりとも応える気がなければやはり、戻ってなぞこないのだと。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    墓石の上、二人でダンスを:5「これ、どこ向かってんだ?」

    向かいのリングに問う。造りが良さそうな馬車は、それでも振動がゼロじゃあない。窓から覗く景色は、勿論初めてのものだ。何せまだ、リングの屋敷とその職場の往復しかしたことがない。この国も住んでる奴らも、何もかもが俺にとってはどうでもいいからそれに不満はないが、この後に訪れる二人きりじゃない時間には不安はある。

    「お前の意味不明な要望を多分どうにかしてくれる人のとこだよ」
    「男なら普通だろ」
    「えー……」

    何故かリングにはこの当たり前の欲求が理解できないらしい。そりゃ俺だって今の、リングの横の特等席を与えられてる状態は嫌じゃない。寧ろ嬉しい。だが、声、視線、動作、髪の1本ですら欲しがるようにしておいてそりゃないだろう、といいたいのも事実だ。勿論、俺の口からそんな言葉が出ることはない。この不満の言葉達すら、いつの間にかなんだかこう、リングにとって都合よく――……何か腹に渦巻いていた気がするが、どこかへ行ってしまった。そんなどうでもいいことはともかく、俺の身体が直るってんなら単純に嬉しい。というか、二人でこうして出掛けてるのは、所謂デートってやつなんじゃないだろうか絶対そうだ。俺の欠けた記憶に同じようなものは見当たらないが、そもそも前線に出ていた奴にんな経験がなくても変ではないだろう。色んな国の軍服を着て、色んな国の奴らをぶっ殺していたぶつ切りの記憶ばかりの俺に、マトモに街で暮らした経験は……多分ないんじゃないだろうか。別にそれがどうってわけじゃないが。
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    ryuhi_k

    DONEアンデッド骨×ネクロマンサー輪な擬人化パラレル。
    手術的な描写有り・全体的に品はないのでご注意ください。
    墓石の上、二人でダンスを:2切り取ったものを丁寧に繋ぐ。沢山の素材から選りすぐった一番を、まるで最初からそうだったように。自分の身体が自分でなくなくなっていく感覚がするんだと、名前のない死体は言っていたらしい。誰にでもできる手法じゃなく、誰でも受け入れられる事態じゃない。でも俺はできるし、……コイツもまあ、適性があるんだろう。

    「あのさ」

    手を止めることなく、その先へ視線を向ける。俺の下で横たわって、首だけ持ち上げてこちらを見つめる緑の、淀んだ目。瞬きをする必要のないそれは、コイツの身体が生きていない証拠の一つだ。

    「視線がうるさいんだけど。目、閉じて」

    俺の言葉に、眉を顰めつつ目が閉じられる。そのまま首を降ろしたのを確認して、手元に集中する。鎖骨付近から肩にかけて切開し、筋組織を付け足し繋いでいく。欠損を補うわけではなく、ただ足すだけの生者にはやらない行為。やれたとしても……いや、やれる人間なんてこの国でも今は俺しかいない。その手元が気になるのは当然という思いもあるけれど、……普通だったら自分の身体を弄られているところなんて凝視するようなものじゃないだろうに。それ以外でも大体……いや全部コイツの視線はうるさいんだよな。
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