縁結び 夕食後の支部のリビングでは、女性陣がテレビ番組の特集を見て盛り上がっていた。
いつも放送している占い番組のパワースポットを紹介するコーナーで、縁結びを特集しているらしい。
ちょうど今紹介されているのは、赤い布に願い事を書いて、利き手ではない方の手だけを使って枝に結び付けることができれば成就するとかいう神社で、主に小南と宇佐美が盛り上がっている。
その様子を傍観していた遊真が、ふと疑問を口にする。
「日本人は、恋愛の願いは神頼みなのか?」
誰に投げかけたというわけではなかったが、小南の耳にはしっかり届いたようで、遊真の方を振り向いた。小南の剣幕に、隣に座る修の方が冷や汗を流す。
「ちょっとゆうま!神頼みっていうと冷めるじゃない!」
「だって、好きなやつがいるならはっきり言えばいいし、いい出会いを神様にお願いするのも不思議だ・・・」
「なんか違うのよ、あんたは…運命の相手と結ばれたいとか、いい人と出会いたいとか、あるじゃない」
「ふむ、おれにはよくわからん。こなみ先輩はロマンチストだな」
「あ、でもね遊真くん。縁結びっていうのは、何も恋愛だけじゃないよ」
メガネをきらっと輝かせながら割って入った宇佐美に、遊真が「ほう」と神妙な顔で続きを待つ。
「親子の縁、仲間との縁、仕事の縁、いろんな良縁を神様に祈っているのです。さらに、神様に祈るといっても、あくまで自分のやることはやってから祈って心の支えにすることもあるよ。やることはやったから後は神様お願い!みたいな」
「なるほど、縁にも祈ることにもいろいろな意味があるとは」
遊真はそう言いながら修に目を向けたので、目が合った修はどうした?と首を傾げたが、なんでもないというように軽く首を振っただけだった。
「ま、この特集は恋愛成就の縁結びだし、小南が関心あるのは恋愛だけどね~」
にひひと笑う宇佐美に、小南が「自分は棚に上げて!」と手足をジタバタさせながら憤慨していた。
修は冷や汗を流しながら傍観していたが、巻き込まれないようにそそくさと誰もいないキッチンに逃げた。
ついでにコーヒーでも淹れようとしたところ、遊真が寄ってきていた。
「オサム、ちょっと」
遊真は、内緒話をするように口の横に左手を添えて、右手でちょいちょいと手招きしたので、修は不思議に思いながら、少し身を屈めて顔を寄せた。
「おれ、いろんな縁とかはよくわからんけど、運命の相手ってのはきっとオサムだな」
「なっ」
「だって言っただろ、初めて会ったボーダーがオサムで超ラッキーって」
遊真はいたずらが成功した子どものように笑って、「これはもう運命としか…神様にお願いするまでもなかったな」と得意げに言った。
修は熱が顔に集まるのと同時に、レプリカのことや遊真の身体のことを考えて胸が苦しくなった。遊真には自分と出会ったことで失うことになったものがある、と考えているからだ。
みんながわいわい盛り上がっているリビングの隣でする話じゃないし、遊真が望まないことかもしれないが、修は今言っておきたいことがあった。
ほんの一瞬言葉を詰まらせた修に、遊真は怪訝な顔で声をかけようとしたが、先に口を開いたのは修だった。
「…正直、空閑にとって僕との出会いがよかったのか、僕には自信がない」
「おい、オサム…」
俯いたまま発せられる修の言葉が修自身を責めるものだと気付いた遊真は、咎めるような声を上げたが、修はそれを制するように遊真の左手首を握り、顔を上げた。
「でも、僕はお前と出会えてよかった。だから、お前が僕との出会いを間違いじゃなかったと、運命だと思えるように努力する。いつまでだって、僕からこの縁を手離す気はないからな」
修の瞳には、強い光が宿っている。
しばし呆気にとられた遊真は、複雑そうな表情で頬を紅潮させた。自分から仕掛けたのにカウンターがくるなんて予測していなかった。
「…オサム、ずるい。こんなのプロポーズじゃん」
「え!?そ、そんなんじゃ…」
「だって、おれから縁を切らない限り、ずーっと一緒にいてくれるんだろ?」
遊真は狼狽して緩んだ修の手から、するりと手を引き抜き、流れるような動作で指をからめて逃げ道を無くした。
「その言葉忘れるなよ、オサム」