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    hokui39

    @hokui39

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    hokui39

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    ある夜の遊修(ラウンド3前くらい?わからない)

     とっぷりと深い闇に覆われている冬の真夜中。今日は玉狛支部に泊まることにしていた修は、次のランク戦に向けて対戦相手の研究と対策に没頭していた。マップの特性や天候、対戦相手の分析と対策など、作戦の立て方がまったく分からないところからの初戦に比べたら、いくらかは流れを掴めてきた。しかし、まだまだ考えることは山ほどあり、とりわけそれが軌道に乗ってきたときはどうにも落ち着かず、気づけば気の済むところまで睡眠時間を削ってしまう。今日もそんな日だった。

     どうにも眠気がやってこないどころか、今のところ頭はすっきりと冴えている。目を閉じているだけでも休息になると聞くけれど、とりあえずベッドに入ってみようという心持ちにもならない。その結果、未だにデスクでモニターと向き合っていた。
    思考に集中していたところに突然、入り口が開く音が割り込み、修の肩がびく、と揺れる。こんな夜更けの訪問者に心拍数がわずかに上がったが、遊真の姿を認めて息を吐く。
    「オサム、まだ寝ないのか?」
    「空閑こそ、まだ起きてたのか。あと少しだけ、キリのいいとこまでやったら寝ようと思って」
    「そうか。ふむ。あと少し、ね」
    遊真は呟くように繰り返してから、くるりと踵を返した。そのまま訓練室を後にする後ろ姿を、修は怪訝そうに見送ったが、やがて机の方に向き直った。


     再び作業に没頭していると、また機械音が響く。顔だけをそちらに向けると、にっと口角を上げた遊真が、マグカップを両手に掲げていた。
    「ほら、熱いぞ」
    「――あ、ありがとう」
    「今日も冷えるからな」と言って差し出されたマグカップからは、ほっとするような甘い匂いがふわ、と香る――ホットミルクだ。受け取って両手を添えると、ミルクの熱が分厚い陶器をゆるやかに伝って、指先を温めてくれる。少し熱いくらいでちょうどいい。早速、ふうと息を吹きかけてから口を付ける間に、遊真はごく自然に開いた片手で適当な椅子を引き寄せて、さも当然というように修の隣に陣取った。いつの間に、どこから出したのかクッションまで抱えていた。動向を注視していた修と目が合うと、首を傾げてクッションを差し出してきたので首を振って制した。
    「えっと……どうしたんだ?寝ないのか?」
    「ん?ああ、もうちょっと、ここに居ることにした。おれも眠くないしさ。なんとなく、1人でいるよりあったかい気がするだろ?飽きたら勝手に出てくし、オサムは気にしないで続けていいぞ」
     修は何か物言いたげな表情をしていたが、結局「……わかった」とだけ返して大人しくモニターに向き直った。しんとした室内に、キーボードを叩く音や、シャーペンが紙の上を滑る音、紙をめくる音、修の手元で発生する音だけが響いた。遊真は、その隣で端末を弄ったり、時折修の様子を盗み見たりしていた。
     
    「あ」

     背を丸めて手元の端末に目を落としていた遊真が、「お?」と顔を上げた。遊真がじっと気配を消していたのもあったが、修が漏らした声は思いのほかはっきりと通り、しっかり拾われてしまった。修ははっとして口に手を当てて、「……と、ごめん」と謝罪する。
    「別にいいけど、どうかしたのか?」
    「え、あ、いや……」
    突然声を出してしまった気恥ずかしさはあったが、いつもどおりの夜であれば1人で黙々とやっているところ、今日は思いついたばかりの考えを聞いてくれる相棒がここにいる。修は少し視線を彷徨わせたものの、その誘惑に負けて、もごもごさせていた口を開いた。
    「あの、ちょっと思いついたんだけど――」

     修がぽつぽつと語る声に、遊真の耳心地のよい相槌、近くに感じられる体温、ふたりだけの夜が静かに更けていく。

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    hokui39

    TRAINING遊修が恋だと気付いたのは目が合ってからそらされたとき です。
    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/558753
     人と話すときは目を見て話すものだ。
     そう言う人がよくいるけれど、それが礼儀だかららしい。
    「包み隠さず話そう」という相手への意思表示なのか、真剣に聞いていることをアピールしているのか。あるいは、言葉から読み取ることができない情報を得るための合理的な術なのか。そのあたりは人によって主張がさまざまあるようだ。

     これを踏まえて言うならば、オサムは意外と、話していて目が合わないことがわりとある。作戦とか先のこととかを考えながら話しているとき、あとは、これは人間の習性だろうか、過去を見ているときもだ。(生返事のときもあるが、そういうときはおれの声すらまったく耳に入っていない)
     もちろん、あのまっすぐこちらを捉える翠の瞳と目を合わせて話すのは好きだ。でも、おれはオサムと話すときは、目が合わなくても、顔が見えなくたって平気だ。オサムの声にはそのままの感情がのっている、というのだろうか。決意も、不安も、後悔さえも。こと戦場においては弱点とも言えるだろうけど、言葉と気持ちが合っている感じがして、安心できるんだと思う。答え合わせをしたわけじゃないけど、きっとそうなんだ。
    1841

    hokui39

    DONE高校1年生の遊修が別クラスだったら
    ガトーショコラ 移動教室のために1階の廊下を通ったとき、冷え切った空間にチョコの甘い匂いが漂っていることに気付いた。そういえば、今日は空閑のクラスが調理実習の日なんだったと、ぼんやり思い出した。


     高校に上がって、空閑とは別のクラスになった。
    ふつうに考えればその可能性はあったのに、なぜ同じクラスになるような気がしていたんだろうか。4月にそれが現実となったとき、自分でも思った以上の衝撃を受けたのを覚えている。
     一方、空閑はあっさりしたもので、「なんだ、オサムとはちがうクラスか」とだけ言って教室に向かって歩き出した。そして、中学校のときにそうだったように、やっぱり僕なんかよりよほどクラスメイトと上手くやっているようだし、幸い空閑の学力についても周りが世話を焼いてくれているらしい。それは喜ばしいことのはずだ。それなのに、胸がもやもやするのを感じているから、きっと素直に喜べていないんだと思う。日常生活のこともボーダーのことも、僕が教える前に教えてくれる人はたくさんいるし、ついに学校でのことも一番に教えるのが自分じゃなくなってしまった。きっと、ぽっかりとそのスペースが空いてしまったような気持ちなんだと思う。たぶん。
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